夜会
転移板に乗ると似たような小部屋に到着した。
しかし部屋を出て、そこが大公家ではないことがすぐに分かった。
廊下の窓からはたくさんの馬車が続々と到着し、降りてきた人達はみんな綺麗な装いをしている。
「行こうか」
先輩の肘に手を置きながら、会場へと向かう。
ホールに到着すると、多くの招待客で賑わっていた。
王様はまだ来ていないようだ。
「陛下には気を付けてね」
先輩から耳打ちされた。
「もしかして怖い人なんですか?」
顔を青ざめさせて尋ねると、首を軽く横に振られる。
「系統的にはエルメルが近いかな」
先生みたいってこと?
先生は全く怖くない。
怖いのは先生よりも……女性達の怨念の方だろうか?
なるほど!
つまり王様はモテるから、下手に仲良くすると呪われるから気を付けろってことね!
「分かりました! 気を付けます!」
今日の私は微笑んで相槌を打つだけが任務だ。
王様と話などしないから、女性達から恨まれることもないだろう。
なにより……。
チラリと隣を見上げる。
私と先輩の仲が認められれば、公認の婚約者になれるのだ。
絶対にしくじるわけにはいかない!
闘志を燃やしていると、王様のお出ましを告げる合図が流れた。
いよいよだ。
緊張しながら、挨拶の手順を反芻する。
あんなに練習したのだから、大丈夫!
最初のカーテシーと挨拶をしたら、あとは微笑んでいるだけでいい!
カチコチになりながら先輩と挨拶に向かう。
「本日は大公に代わり、大公子アシルが陛下にご挨拶させて頂きます」
「大公子として出席するなんて、珍しいこともあるものだ。それで……」
王様がこちらに視線を送ってきた。
挨拶の時が来た!
「お初にお目にかかります。リュナと申します」
カーテシーをしながら挨拶をする。
すると会場からクスクスと笑う声が漏れ聞こえてきた。
「ファーストネームしかないわよ」
「よく恥ずかしげもなく名乗れるわね」
「イサベラ様の代わりになれるなんて、本当に思っているのかしら?」
自分が場違いな場所にいるのは分かっている。
だからこそ私に向けられる視線全てから悪意を感じて、スカートを持つ手が震えた。
顔を上げるのが、怖い。
視線が落ちそうになった時だった。
キラリと赤く光る物が目に映る。
『俺がいるってことを思い出して』
全員が敵なわけではない。
私の隣には、こんなにも頼もしい味方がいる。
私はただ、堂々と前を向いて微笑めばいいだけだ。
「へぇ……」
顔を上げた私を、王様が興味深そうに眺めてきた。
なんだか品定めをされているみたいだ。
「なかなか好みだな。ファーストダンスは私と踊ってもらおうか」
「陛下。戯れなら止めて下さい」
先輩が王様を諫める。
確かファーストダンスって、婚約者や既婚者と踊ると礼儀作法の先生が教えてくれていた。
もし私が王様とファーストダンスを踊ったりしたら、王妃になっちゃう!?
「私! 踊りが下手なので、アシル様以外とは踊れないんです! だから王様は、綺麗なお嬢様達を誘って下さい!」
焦った私に礼儀もなにもあったものではない。
先輩と王様が目を瞬く。
しまった! 色々間違えすぎて、どこをつっこんでいいのかも分からない!!
「ぷっ……あはははははは……!」
王様が突然声を上げて笑い出した。
「なにこの子。面白いんだけど。気に入ったよ。ファーストダンスは私と踊ってもらおうか。これは王命だ」
王命って、断れないやつ!?
「陛下。ご冗談はそれくらいに……」
「いつまで話し込んでいるつもりだ、大公子殿下」
威厳のある声が背後から聞こえてきて、振り返る。
そこには声と似つかわしいほどの厳格そうなおじさんが立っていた。
しかしどこかで見た事のある人物にも似ている。
「陛下も相手は平民の女です。婚約者がいる中でファーストダンスに誘うなど、もってのほかです」
おじさんに諫められた王様は、苦笑いを浮かべた。
この人、王命を退けられるほど凄い人なんだ。
「失礼しました。これで下がらせて頂きます」
先輩が王様とおじさんに挨拶をするのに合わせて動く。
通りすがりにおじさんにギロリと睨まれる。
「純粋覚醒かなんだか知らんが、得体の知れない力をひけらかすのは感心しませんな。いつ爆発したり、失ったりするか分からない力より、失うことも爆発することもない、良い方に進化だけを続ける医術が一番優秀だとは思いませんか?」
「……肝に銘じておきます」
言いたい事を言ってすっきりしたのか、おじさんはそのまま王様と話し出した。
おじさんの後ろには、豪華な赤いドレスの令嬢が王様にカーテシーをしている。
おじさんの娘だろうか?
「あの人、先輩の師匠に似てましたね」
下がったところで先輩に話しかけた。
「あの人はパルヴィア公爵で、貴族派筆頭で師匠のお兄さんにあたるんだ。だから魔力覚醒した弟である師匠は、家門の恥として追放されたんだ」
魔塔士を敵視する貴族派の筆頭なら、覚醒した弟は邪魔でしかなかったのかもしれない。
家族よりも信念を優先しなければいけないなんて……どんな思いで追放したのだろうか?
王様に挨拶しているおじさんを窺う。
実の弟を家のために追放するなんて、なんだかおじさんが可哀想に思えてくる。
「それよりも……」
私の前に立ち、先輩が手を差し出してきた。
「私と踊ってくれませんか?」
いつもとは違う、紳士的な口調にくすぐったくなる。
「喜んでお受けします」
同じようなノリで、先輩の手の平の上に手を重ねる。
すると私の手を引き寄せて、先輩が私の手に口付けた。
その仕草が終始色っぽくて、顔が熱くなる。
会場の視線も、私達に釘付けのようだ。
……って! こんなに注目浴びている中で、今から踊るの!?
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