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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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出発

 帰りの馬車の中、先輩が先程受け取った箱を取り出す。

 そういえば装飾品店の看板は出ていたが、実際の店内は全く装飾品が飾られていなかった。

 どちらかというと工房に近いようなイメージだった。


「左腕出してくれる」


 先輩に言われて腕を差し出す。

 すると箱から出した物を、私の腕に巻き付けた。

 それは一定間隔で小さな赤い宝石が埋め込まれた、ハーフバングルのブレスレットだった。


「あんたにとって赤は俺の色らしいから、辛いことがあったらそれを見て俺がいるってことを思い出して」


 華美過ぎず、安っぽくもない可愛いブレスレット。


「先輩がデザインを考えてくれたんですか?」

「あのおじさんがデザイン出来ると思う?」


 先程の店主を思い出し、クスッと笑う。


「凄く私好みのブレスレットです」


 大事そうにブレスレットを撫でた。


「他の装飾品も考えたんだけど、ブレスレットが一番目に付くかなって思ったんだ」

「でもドレスも先輩に買って貰いましたし、このブレスレットだって高価な物ですよね? 貰ってばかりで少し心苦しいです」


 どう見ても、赤い宝石部分は安物ではないはずだ。


「喜んでくれてる顔を見たくてやっているだけだから、気にしなくていいよ」


 私だって先輩の喜ぶ顔が見たい。

 でもどうすれば先輩は喜んでくれるのだろうか?

 『そのドレスで着飾ったあんたを見せて』

 ドレスを買った時に言われた言葉だ。

 私が今、先輩にできる最大のお礼は、やっぱりこれしかない!


「私、今日から死ぬ気で頑張ります!」

「……死なない程度に留めてね」


 心配そうに見つめる先輩を余所に、闘志を燃やしたのだった。



 こうして本当に死にそうな日々を気合だけで乗り切り、とうとう夜会の日を迎えてしまった。


「リュナ様。いいですか。今日は泣くようなことがあれば、控室の方に来て下さいね」

「はい」


 前回、馬車の中で泣いてしまったのを心配してくれているのだろう。

 化粧を施してくれた使用人が念を押してきた。


「リュナ様。いいですか。今日はお二人を見るために参加される貴族がほとんどです。しかし坊ちゃまが傍にいてくれますから、リュナ様は微笑んで相槌だけうっていればいいですからね」

「はい」

「顔が強張っていますよ。笑顔は忘れずに!」

「はい!」


 礼儀作法の先生が、わざわざ最終確認をしにきてくれたのだ。

 私の頑張りを認めてくれたのか、最初の頃よりもみんなと打ち解けてられたみたいで、なんだか嬉しい。


 支度が整い、先輩が部屋にやってきた。

 鑑越しに夜会用の衣装を身に着けた先輩が目に入り、振り返る。


「先輩、どうですか? みなさんの力が凄すぎて、私、感動しるんです!」


 はしゃぎながら立ち上がり、先輩の前でクルリと一回転してみせた。

 コホリと礼儀作法の先生が咳払いをする。

 行儀が悪いという注意ですね。

 反省していると、頭上から先輩の咳払いが聞こえてきた。


「その……」


 目を彷徨わせる先輩に首を傾げる。

 気持ち周囲の人達の顔がにやけているようだ。


「ドレスのお礼は貰ったから……」


 お礼って着飾った姿ってことだよね?


「はい! みなさんの努力の賜物です!」


 嬉しそうに返事をすると、周囲の人達が先輩に迫った。


「坊ちゃま! 遠回しな言い方はよくないですよ!」

「淑女じゃないのですから、こういう時は男らしくはっきりと言って頂かないと!」


 なんでみんな怒ってるの!?

 私は震え上がり、迫られた先輩もタジタジである。


「野次馬がいる中で、言えるわけないでしょ!」

「少しは陛下やエルメル殿下を見習って下さい!」


 礼儀作法の先生が指摘すると、使用人達が大きく頷く。

 エルメル殿下って先生のことだよね?

 殿下? 確か勉強した中で、王族の人の敬称を殿下呼びするとか言っていたような……。

 ということは、先生って王族なの?


「比べる基準がおかしいから!」


 先輩は怒ったまま、私を連れて部屋を出た。

 廊下に出たところで溜息を吐いている先輩を見上げた。

 先生のことって聞いたら教えてくれるのかな?


「あの……」

「さっきは言えなかったけど……」


 お互いの声が被り、言葉を止める。


「ごめん。なに?」

「たいした話ではないので、先輩からどうぞ」


 すると先輩が小さく咳払いをした。

 そしておもむろに口を開く。


「ずっと見ていたいくらい、綺麗だから」

「ありがとう……ございます……」


 照れくさくなり口ごもる。


「いくら屋敷が広いからといって、誰が通るか分からない廊下で見せつけ合うのは感心しませんね」


 廊下の先から聞こえてきたのは、穏やかな魔塔主の声だった。


「よりにもよって、一番見られなくない人に見られた……」


 先輩が嫌そうに小声で呟く。

 確かに私もお師匠様に見られたら、茶化されそうで恥ずかしいかも……。

 そういえば魔塔主は夜会に参加されないのだろうか?

 身なりはいつも整っているが、いつも通りすぎて夜会に参加するには違和感がある。

 疑問に思っていると、察した魔塔主が答えてくれた。


「本日の主役はあなたですからね。私が出しゃばるよりも、アシルとあなたで乗り越えた方が、今後のためにもいいとの判断ですよ」


 もしこれが失敗したら、私はどうなるんだろう……。

 純粋覚醒だからって、先輩以外の人と結婚なんて考えられない。

 首をブンブンと大きく横に振る。

 すると手を持ち上げられ、エスコートするように先輩がその手を自分の腕に絡めた。


「言ったでしょ。俺がいるってことを忘れないで」


 持ち上げられた手の、手首に付いているブレスレットに目を落とす。

 一人だったら萎縮するかもしれないけど、今日は先輩も一緒なんだ。

 手の先を見上げると微笑む先輩がいた。


「はい!」


 誰が相手だろうと、先輩と一緒に乗り越えてみせるんだから!

 気合を入れ直して王宮に向けて出発した。

 といっても、馬車で向かうわけではなかった。


「まさか大公家と王宮を繋ぐ、転移板があるとは思いませんでした」


 入口に向かうのかと思っていたら、先輩に連れていかれたのは見た事のある金属の丸い板が床に設置してある小部屋だった。


「王宮にはよく行き来するからね。大公領から向かうにはこの方が便利なんだ」


 大公領?


「もしかして私って、大公領にいたのですか!?」

「え? 今?」

「だって転移板を使って来たから、どこにいるのかも知らなかったですし……」


 でもそう言われてみればドレスを買いに行った時の街並みが、王都とは少し違ったような気もする。


「それはごめん。大公領の街も王都に負けず劣らず賑やかだから、区別がつかなかったね」

「でも大公領の衣装店なのに、貴族の令嬢達がいましたよね? あの令嬢達は大公領内にある領地の令嬢達なのですか?」


 これでもこの短期間で最低限の国のことについては学んだ。

 大きな領地全部を管理するのは大変だから、さらに小さく分割した領地を与えて貴族に管理させているとか。


「王宮の夜会となると一大イベントだからね。格の高いお店のドレスを着たいと狙って来ていた、近隣の領地の高位貴族令嬢達もいたかな。もともとその令嬢達に見せつけるために、お店に出向いたからね」


 恥ずかしそうに去って行った令嬢達の姿を思い出す。

 あのキスの構図の噂を広められてしまうのか……。

 でも確か地図を見せてもらった時、王都と大公領ってけっこう距離があったよね?


「ここから王都までかなり距離がありますよね? みんな転移してくるのですか?」

「みんなは馬車移動だから、早く領地を出ていると思うよ」


 自分がいた村から王都まで馬車と徒歩移動だったが、かなり大変だった記憶がある。

 転移板が使えたら、楽に移動できるのに……。


「この転移板ってみんなが使えるように提供できないのですか?」

「これは魔塔の技術が詰まったものだから、安易に外部には流出させられないんだ。そもそも転移術自体が治癒魔術同様、発展させてはいけない魔術だから」

「どうしてですか?」

「……戦争を助長させてしまうかもしれないからなんだ。転移できるということは、兵達を一斉に敵国に送れる危険もあるからね」


 戦う間もなく滅ぼされる危険もあるんだ。

 今までなぜ治癒魔術を発展させてはいけないのか理由が分からなかったけど、便利だからとか助かる人がいるからという理由だけで発展させると、取り返しのつかなくなることもあるのだと、思い知らされたのだった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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