王族の悲願
あれ? そういうことではない?
無言になる二人に不安になる。
「……これはまた……盛大なプロポーズですね」
プ……プロポーズ!?
思わず先輩を見ると、真っ赤な顔で驚いていた先輩が視線を逸らす。
あれ? 嫌だった……?
先輩の反応に意気消沈していると、先輩がポツリと呟く。
「プロポーズは俺からしたかった……」
ふぇっ!?
予想と反した言葉に、照れくさくなり肩をすくめた。
「お二人ともお熱いですね。それだけの想いがあるのでしたら、この局面を乗り越えるためにも、大公になるくらいわけないでしょう」
先輩が魔塔主を睨みつける。
「彼女を連れて二人で山奥にでも引き籠るつもりですか? 今後、奴等も彼女を狙ってくるというのに?」
神の代行者の話だろうか?
この前も奴等は私を標的と呼んでいた。
奴等はお師匠様の件で存在を知ってしまった私の命を狙っている。
もし先輩と二人で魔塔を出たとしても、私が狙われている以上、先輩の命も危険にさらすかもしれない。
「先輩。私は神の代行者の件が片付くまで、魔塔主様の意に従った方がいいと思うんです」
「アシルよりもよほど理解があるようですね」
「だけど、先輩が大公? とかになりたくないと思っているのであれば、私はならなくてもいいようにペンギンと一緒に全力で戦います!」
「クワッ?」
のんびり寝ていたペンギンが、突然会話に入れられて体を起こす。
しかしすぐに自分には関係なかったと気付き、コテンと横になった。
コハナがいたら寝てばかりだと怒りそうだ。
「俺が心配しているのは、あんたが王家の思惑に利用されることなんだ」
ペンギンを見ていると、先輩がおもむろに口を開く。
「そういえば純粋覚醒だから巻き込まれるとか言っていましたよね? でも私は純粋覚醒じゃありませんよ? お師匠様が捕らえられているのを見て、覚醒したと思いますから」
「たぶんそれは、怒りによる魔力暴走の類だと思う。あんた言ってただろ? 『魔術なのか何か分からない力を使った』って」
確かにお師匠様が捕らえられた時の話で、先輩に言った気がする。
コクリと頷く。
「たぶん奴等はその力を見て、あんたが純粋覚醒かもしれないと疑い始めたんだ」
「……純粋覚醒ってなんですか?」
「純粋覚醒は精霊の森の加護の力とも言われています」
黙ってお茶を飲んでいた魔塔主が、ティーカップをテーブルに置いた。
「精霊の森の神々が、自分達の代わりに動いてくれる肉体に魔力を与えることを純粋覚醒と言います。本来あるべき魔力覚醒の方法という意味です。そのため蓄積による覚醒は負の覚醒と呼ばれ、神の加護とは程遠い扱いとなっています」
純粋覚醒は神格化されるというのは、そういう意味だったんだ。
「あなたは不思議に思いませんでしたか? なぜ帝国兵に反旗を翻した初代王が処刑されなかったのか」
同じ国の貴族を殺したコハナも、即処刑を言い渡された。
それなのに、当時の主でもある帝国兵との戦いを先導した初代王は深手を負っただけで殺されていない……。
「殺しても死ななかったのですよ。初代王は蘇生術が使えましたから」
神の力と言われる蘇生術を初代王が持っていた!?
「じゃあ今の王様って初代王のままなのですか!?」
だって死なないなら、不死ってことになる。
「実は蘇生術については、初代王しか使えなかったこともあり、我々にも解明できていない部分が多いのです。一つだけ言えることは、初代王は随分昔に崩御あそばされているということだけです」
治癒魔術は細胞に働きかけると思っていたけど、若返らせても寿命は延びない?
「つまり純粋覚醒とは神の力を持つ者のことを意味し、初代王以外で今まで純粋覚醒をした者は一人もいないのです。あなたを除いて……」
「私は蘇生術なんて……」
言いかけて止める。
ペンギンと使ったあの光で、コハナは生き返った。
あれが蘇生術?
眼鏡も言っていた。
『契約者の本来持つ能力を代わりに使い魔が引き出している』と……。
私は蘇生術を使えるの?
「で……でも純粋覚醒だからって、なんで私が王に嫁ぐとか、王家の争いに巻き込まれるとか言われるのですか?」
「初代王には純粋覚醒をしてからの子どもはいません。つまり今の王達は、純粋覚醒をする前に生まれた子ども達の子孫にあたります」
もしかして純粋覚醒は遺伝するのかを調べてみたいとか、そういうことなの!?
先輩が心配していた、利用されるという意味が分かった。
「だから俺は反対なんだ。そんなことのために、あんたや子どもを利用されたくない」
「しかし遺伝すれば、あなたのような辛い思いをする子どもを増やさなくても済むようになりますよ?」
魔塔主が先輩を見据えた。
どういうこと?
「だから俺は身分を捨てると言っているのです」
「そうすれば他の人間に、あなたの重荷を背負わせることになりますね」
「そもそもこんなくだらないことは廃止するべきなんです」
「しかし魔力があるからこの国を守れたというのも否定できません。この前の調査の時もそうでしょう?」
この前の調査? アジトを見つけたとか言っていたことかな?
先輩が押し黙る。
話の流れから、先輩が魔力覚醒したのは王族と深く関係しているようだ。
「先輩はわざと魔力覚醒するように仕組まれたのですか?」
もしそうだとしたら、非人道的な行いだ。
心の中で怒りの感情が沸き起こる。
「……王族には表と裏があって、表は魔力を持たない王が国を治め、裏は魔力を持つ大公が国の内外を守る役目を担っているんだ」
「魔力を持つ大公は、魔塔主となり魔塔を管理する任にも就いているのです」
「大公が魔塔主? それって大公子である先輩のお父さんは、魔塔主様ってことですよね!?」
「お父さんという言われ方は、新鮮ですね」
この二人が親子だという事実に驚愕した。
「王に魔力がないというのは、精神的に強いという証なんだ。つまり魔力覚醒をした王族は王にはなれない。だから魔力覚醒した者は、大公として国を裏から支える任務に就くんだ」
「しかし魔力は力を誇示するのにも使えますから、あるに越したことはないのですよ」
だから純粋覚醒にこだわっているんだ。
純粋覚醒が遺伝されれば、魔力を持つ強い王を誕生させられるから。
「それでも先輩を覚醒させる必要はありませんでしたよね?」
ここまでの話から、先輩に大公の役割を果たさせるために覚醒するように仕向けたのは分かった。
だけどそんな理由で先輩に辛い思いを強いたということが、許せない。
私の怒りがペンギンに伝わったのか、ペンギンがむくりと起き上がる。
「前王が魔力覚醒をした際に、己の弱さに悲観し若くして自害をしてしまったことで、この国は王家存続の危機にあるのです。継承者は現王、現王の弟、そしてアシルの三人だけでしたからね。直系でもある現王が即位しましたが、この時点で残りの二人のうちの誰かが、必然的に裏の大公としての任務を背負わなければいけなくなったというわけです」
だから必然的に、現大公の息子である先輩が選ばれた。
だけど私の純粋覚醒が遺伝すれば、このくだらない仕組みも廃止される可能性があるということだ。
「……もし、純粋覚醒が遺伝しなければ、また誰かが無理矢理魔力覚醒をさせられるということですか?」
「そうなりますね」
「だから俺はこの仕組み自体を廃止したいと思ってるんだ」
「魔力覚醒をしていない者が、魔塔を治められるとでも思っているのですか? 他の者に任せるとしても、その者が貴族派の手下の可能性もあるのですよ?」
貴族派は医術塔を魔塔に対抗するために作った。
そのため医術塔は今や、魔塔に匹敵する力を持っている。
だけど、魔塔まで貴族派の手に落ちたらこの国は貴族派が治める国となってしまう。
両者が今、拮抗しているからこの国は保てているんだ。
考え込んでいると、私の前に高級そうな封筒が差し出される。
「あなたが純粋覚醒をしていると知った王から夜会の招待状です。アシルとの結婚を考えているのでしたら、この時のパートナーにアシルを選ぶといいでしょう」
王様からの手紙!?
恐れ多くて封筒を持ち上げられない!
「私に夜会なんて無理です! 私の育ての親をご存じですよね? 王様への礼儀もなにも、あったものではないですよ!」
「心配はいりません。夜会までにこの大公家で、あなたを一流の淑女に仕立てあげますから」
魔塔主が優しく笑う。
この笑みに騙された! と気付いた頃には遅かった。
この日、手始めにと始められたのは、拷問のようなコルセット地獄だったのだった。
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