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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第三章 恋人編
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招待

 目を覚ますと、見慣れた天井とはちょっと違う天井が見えた。


「目、覚めた?」


 手の上に顎を乗せて肘をついた状態の先輩が、ベッド近くの椅子に腰をかけながらこちらを見ていた。

 嫌な予感に、かけられている毛布に視線を落とす。

 自分の物ではない毛布に、視野の端に映る見たことのない部屋に固まる。

 もしかしてここって、先輩の部屋の寝室!?


「ベッドの方が気持ちよく寝れるかと思って、勝手に運んだんだけどよかった?」


 私の衝撃を察した先輩が教えてくれた。

 よくもなにも私、キスする前に気絶しちゃったんだ!


「先輩! キスして下さい!!」

「えぇ!?」


 半泣き状態で先輩の胸を掴む。


「私、私……キスしたかった!!」


 せっかくのチャンスを緊張で棒に振ってしまった!

 後悔だけが残り、自分の不甲斐なさから涙が出る。

 するとおでこに唇の感触がした。


「キスくらいこれからいくらでも出来るでしょ。ゆっくり慣れていけばいいよ」


 赤くなる顔で額を抑えながら見上げると、先輩が微笑む。

 先輩は優しくてなんでも完璧で、野生児の私とは正反対だ。

 もっと先輩に相応しい女性になりたい!



 先輩の部屋から自室に戻る。

 寝室に入るもペンギンは来ていないようで、ペンギン用のベッドはもぬけの殻だった。

 今日は来てないのかな?

 キョロキョロと部屋を見回すと、黒猫が私の横をよぎる。

 この黒猫、魔塔主の使い魔の黒猫じゃないの?


『主に呼ばれて迎えに来たわよ』


 ……。


「猫が喋った!?」

『私をその辺の使い魔と一緒にしないで。話すことなんて造作もないんだから』

「凄い! 会話も出来てる! 賢いのね!」


 尊敬の眼差しで見つめていると、照れたように猫が自分の顔を撫でる。


『ほ……褒めたってなにも出ないにゃ~』


 可愛い!!

 猫を抱き上げる。


『ちょっと! 気安く……ゴロゴロ』


 撫でてあげると気持ちよさそうに喉を鳴らす。

 ペンギンも可愛いけど、猫もいい!


『あ……あんた……なかなかやるわね……』


 あらがおうとしたのか、猫が私の腕の中で疲れきっている。

 呼吸が落ち着いてきた猫が、私の腕から飛び降りた。


『気持ち良すぎて余計な時間を使ったわ。主が待ってるんだから、早く行くわよ!』


 猫が私を見上げる。

 するとしゃがんでもいないのに、徐々に目線が床にいる猫に近付いていく。

 驚き体を確認すると、下半身が黒い影に飲まれていた。


「体が吸い込まれてる!?」

『私は影を操る使い魔なの。貴重な体験をさせてあげてるんだから、感謝しなさい』


 同じ目線になった猫が不敵に笑う。

 そしてそのまま体が影に飲み込まれていった。


『着いたわよ』


 閉じていた目を開けると、赤い絨毯が敷き詰められた広い廊下に立っていた。

 奥には両開きの大きな扉がある。


『こっちよ』


 猫が両開きの扉に向かって歩く。


「あなたの主って、魔塔主様なんだよね?」

『そうよ。主は完璧な人なんだから』


 得意気に話す猫にある人物と重なる。

 なんだかコハナみたいだ。

 コハナはペンギンとは相性が悪そうだけど、この猫とは気が合いそうだな。


『扉を開けなさい』


 言われた通りに重い扉を開ける。

 中に入ると高級そうな家具が配置されていたが、その配置が先輩の部屋とよく似ていた。


「待っていましたよ、リュナ上級魔塔士」


 執務机で仕事をしていた魔塔主が立ち上がる。

 ホールでしか見た事がなかったから、生きているのか疑わしかったけど、ちゃんと生活してるんだ。


「なにか飲みますか?」


 手でソファーに促されながら、尋ねられる。

 言葉が出ず、首だけ横に振った。

 魔塔主は小さく鼻で笑うと、魔術でお茶を淹れ始める。

 先輩が見せてくれた物を動かす魔術だ。


 カチャリと湯気が出ているお茶が二つ並べられる。


「どうぞ」


 薄い笑みを浮かべながら、勧められた。

 出された物を飲まないのは失礼かと思い、ソファーに座りお茶を一口含む。

 この味!

 先程先輩の部屋で飲んだお茶を思い出す。

 同じ味だ。


「美味しいですか?」


 意味深長な問いにカップの持ち手に力が入る。

 もしかして、先輩とのやり取りを見られていた?

 コハナの使い魔も偵察が可能だ。

 ソファーにくつろいでいる猫を窺う。


「見ていたのですか?」


 尋ねると魔塔主が吹き出す。

 面白い話はしていないのだけど?

 訝しそうに眉を寄せた。


「すみません。アシルと同じ反応をするもので、面白かっただけです」


 先輩が来てる?


「アシルならいませんよ。以前の話ですから」


 ということは使い魔の猫を使って、しょっちゅう偵察しているのだろう。

 コハナやマウノが魔塔士は監視されていると言っていた。

 だから魔塔のトップである魔塔主なら、偵察していてもおかしくはない。

 それでも……。


「覗き見は、悪趣味だと思います」


 いくら魔塔主とはいえ、人の恋路を盗み見ていいはずがない。


「相手があなたでなければ、盗み見をするつもりなどありませんでしたよ」


 どういうこと?


「感染症が蔓延していた時、あなたは神の代行者と対峙したのでしょう」

「はい」


 先輩も知っていることだし隠す必要もないため、素直に返事する。


「その時私とアシルは、奴等のアジトにいたのですよ」

「アジトですか!? なにか分かったのですか!?」

「ええ。面白いことが書かれた紙が残されていました。今は王族同士を争わせるために、わざと残したのではないかとも考えていますけどね」


 王族同士を争わせる……。

 そういえば先輩は私が純粋覚醒だから、王族の争いに巻き込まれると言っていた。

 それと関係があるということ?

 考え込んでいると、魔塔主と猫がなにかに反応した。


「どうやら何者かが侵入したようですね」


 魔塔主と猫が警戒する。

 何者かって、まさか神の代行者!?

 しかし次の瞬間、激しい破壊音と共に姿を見せたのは……。


「グワッ!!」

「リュナペンギン!?」


 怒っている様子の、私の使い魔だった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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