告白
その後の調査で、あの日以降拡大していた感染症が嘘のように消えたと報告があった。
ペンギンの能力のおかげのようだが、この能力については伏せておいた方がよいと判断した先輩と魔塔主が、民衆に対しては医術塔の治療のおかげで消失したということで公表したのだ。
だが亡くなりかけていた人も元気になったことから、一部では神の力のお陰だという噂もまことしやかに囁かれている。
「すごく納得いかないわ! 私なんか死んでまで戦ったっていうのに、なんで全ての手柄を医術塔が持ってくのよ!!」
「コハナ、しーーーーーっ!」
大声を出して色々暴露するコハナを止めた。
私達は神の代行者と対峙した関係者ということもあり、あの後先輩から今回の騒動の裏側の一部を教えてもらったのだ。
それによると、医術塔から盗まれた病原体を、神の代行者がばら撒いて感染を広げたという内容だった。
しかしその目的ついてまでは、教えてもらえなかった。
そして私達は先輩に、イサベラの付き人がイサベラを助けて欲しいと言われて、あの場所にいったことを報告した。
先輩がそれらの話をもとに考察したのが、イサベラはなんらかの形で神の代行者の存在を知り、私に憎しみを抱いていたイサベラが奴等に接触。
私をおびき寄せる手助けをしたのではないかということだ。
余談だが、イサベラに憎まれていたとそこで初めて知り、密かにショックを受けていた。
話を戻して、奴等の言っていた『標的』は私で、イサベラから話を聞いた奴等は、お師匠様の件で存在を知ってしまった私を消そうとしたのかもしれないということだった。
だけど結果的に素人のイサベラが動いたことで、先輩達の方でも奴等のことで何かを探れたようだ。
今回の件で奴等と関係があると睨んだ王が、密かにイサベラの一家を捕らえようとしたようだが、それよりも先に姿を消されてしまった。
奴等に殺されたか、どこかで身を潜めているのか、消息は不明だそうだ。
「でもよかったわね。あの性悪女が悪巧みをしてくれたおかげで、大公子との婚約はなくなったそうじゃない」
こういう結果になったというよりは、こうなることを分かっていたような気がする。
先輩もエルメル先生も、この婚約は長くは続かないと言っていたから。
そこから考えても、最初からイサベラ一家が奴等と関係があると睨んでいた可能性はある。
「リュナ上級魔塔士。少しいいですか?」
考え込んでいると、眼鏡に声をかけられた。
「出来れば二人だけで話をしたいのですが?」
「なになになに!? 恋の三角関係!? 修羅場!?」
眼鏡の言葉にコハナが騒ぎ出す。
絶対に違うと思う。
騒がしいコハナを放置して、場所を移した。
食堂の角の誰もいない静かな場所で、眼鏡が口を開く。
「あなたは一体、何者なのですか?」
眼鏡に問われて首を傾げる。
「何者って……?」
「使い魔は契約者の魔力を使って能力を発揮するのは、あなたもご存じですよね?」
知っていて当然だろうという前提で話が進む。
「使い魔の本来持つ能力を、契約者の魔力を借りて発動しているように思われがちですが、実際は契約者が本来持つ能力を、代わりに使い魔が引き出しているのです」
じゃあコハナを生き返らせたのも、感染症が消えたのも、全て私が本来持っている隠れた能力ってことなの?
「……あの力は……神だけが放てる力です」
「そこまでにしてくれる?」
眼鏡の話を止めたのは、食堂に現れた先輩だった。
「魔塔士長……。あなたも気付いているはずです。彼女は魔塔に留めておいてはいけない存在なのだと――」
「関係ないよ」
先輩が眼鏡の話を遮る。
「魔力があれば魔塔は誰でも受け入れる」
「そんなレベルの話ではないと言っているのです!」
眼鏡が声を荒げる。
尋常じゃない雰囲気に、食堂にいた全員がこちらに視線を向けた。
「これは俺ではなく、魔塔主様も望まれていることだよ」
魔塔主の名が出てきて、さすがの眼鏡も押し黙る。
やはり魔塔士にとって魔塔主の存在は別格なんだ。
黙る眼鏡を尻目に、先輩が私を見た。
「少し、いい?」
歩き出す先輩に付いて行き到着したのは、以前二人でサンドイッチを食べた森だった。
先輩はハンカチを敷いて、その隣の地べたに座った。
ハンカチを敷いた意味が分からず、ハンカチを避けて隣に座る。
すると先輩が眉を寄せた。
「敷物がないからこのハンカチの上に座ってって意味で、敷いたんだけど?」
「そんな、先輩のハンカチの上になんて座れませんよ!」
両手を大きく振って拒絶する。
人の物の上に座るなんて、そんな失礼な真似はできない!
「ほんとにあんたって人は……」
あきれるというよりは、どこか嬉しそうな表情をしている。
最近先輩は時折こういう優しい顔で私を見る時がある。
その度に胸がキュンと痛くなる。
もしかして先輩って……私のこと好き?
いやいやいや! お師匠様の時も勘違いして失敗したでしょうが!
コハナの言う通り、私は恋愛初心者だ。
表情などから相手の気持ちを読めるほど、極めていない。
そうよ! 先輩はもともと優しい人だ!
この笑顔だってきっと、その優しい心からきているもの。
危うく勘違いするところだった。
ふう……と額の汗を拭い、達観した顔で先輩を見上げた。
「落ち着きました」
「え? なにが?」
先輩が首を傾げる。
「それよりもなにか話があったのではないですか?」
これ以上変な勘違いをする前に、本題に入ろう。
「ああ、うん」
珍しく先輩が俯く。
どうしたんだろう?
「先ぱ……」
手を伸ばすと、先輩が決意に満ち目で顔を上げた。
「俺は……」
伸ばしていた手を握りしめられる。
「あんたが好きだ」
勘違いしないと決めたばかりだ。
「……魔塔士の後輩として……ですか?」
心臓が破裂するのではないかと思うくらい、激しく打ち付ける。
期待しちゃ駄目だ。
先輩は優しい人だから……。
「一人の異性として、見ているってこと」
顔を近付けてくる先輩に硬直する。
あれ? これは、勘違いじゃない?
私が言葉の解釈を間違えている?
「あんたと生涯を共にしたい」
ぎょえええええええええ!?
硬直する体とは違い、心の中は大暴れである。
「同じ気持ちだと嬉しいんだけど……」
先輩が目を伏せる。
私の反応がないから不安なのかもしれない。
「あ……う……私もです……」
恥ずかしくなり上目で先輩の様子を窺う。
目を見開いて顔を上げた先輩が破顔した。
神々しい!!
見た事がないような眩しい笑顔に、思わず手をかざす。
そんな私を先輩が抱きしめてきた。
「俺のこと好きってことでいいんだよね?」
私の肩に顔を埋めながら、先輩が囁く。
声が出ず、コクコクと何度も頷いた。
「よかった……」
安堵するように先輩が呟く。
誰に対してもいつも堂々としている先輩でも、緊張することってあるんだ。
私だけが知っている先輩の姿に、嬉しさが込み上げてくる。
ほんわかした気持ちになりながら、先輩の腕の中に心地よさを感じていると、先輩がポツリと言った。
「これからあんたは王族の争いに巻き込まれる」
「どういう意味ですか?」
先輩の方に視線を向けると、先輩が少し体を離して真剣な表情で私を見下ろした。
「あんたは純粋覚醒といって、特殊な覚醒をしたことが分かったんだ。この覚醒者の出現は王族にとっても悲願で、あんたの血筋を王家に残したいと動き出すと思う」
純粋覚醒? 王家に血筋を残す?
「だけど俺はあんたを誰にも渡したくない。だからあんたが俺に想いを寄せてくれているなら、王だろうがなんだろうが全力で阻止してみせる」
純粋覚醒のことはよくわからないけど、先輩が私を誰にも渡したくないと言ってくれたことが今は何よりも嬉しい。
「だからあんたは、俺だけを見ていて」
私の額に先輩の額が押し当てられる。
吸い込まれそうな程綺麗な深い青色の目が、私を捉える。
「リュナ……愛してる」
先輩の顔が近付いてきてキスされると思い、ギュッと目を閉じる。
しかしいつまで経っても唇に感触がない。
ソロリと目を開けると、唇が数センチに迫るところで先輩が動きを止めていた。
「キス……してもいいんだよね?」
心配そうな口調の先輩にクスリと笑った。
コハナなら『真面目か!』ってつっこんでそう。
「はい!」
元気に返事をして、先輩の唇に自分の唇を押し当てたのだった。
ここで二章完結となります。
次が最終章になればいいのですが……。
ストックがぁ~とか言いながら、結局毎日投稿してしまった……。
三章は本当にストックが危ない……かも?
三章前で休むか、ところどころで休むか。現在悩み中。
読んで頂き、ありがとうございます。




