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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第二章 両片思い編
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純粋覚醒(アシル視点)

 魔塔主の予想通り、医術塔は頑なに他の部署の要請を断っていた。

 いつもの貴族派が王族派を牽制していると表向きは見られているが、真相を知っている王と俺は複雑な心境だ。


「前回の薬が利かないようだけど、アシルはどう思う?」


 ホワイトブロンド色の髪を掻き上げた王が、深い青緑色の目を細める。

 玉座で報告を聞いて兵を下がらせた後、俺に尋ねてきたのだ。


「変異したのでしたら王都まで広がるのは時間の問題だと思います。王都封鎖も視野に入れておいた方がいいかもしれません」


 玉座に座る王の斜め後ろに控えていた俺が提案する。

 すると王が俺を見上げた。


「治癒魔術でなんとかならないのか?」


 結果は知っているくせに、嫌味か?


「感染症に治癒魔術は効きません」

「キイラ女史だったら面白い発想で覆してくれそうなのに、アシルは面白味がないね」


 その実験がキイラ女史の寿命を縮めたと言いたいところだが、キイラ女史が亡くなったことを知っているのは、俺とリュナ以外では黒猫を付けていた魔塔主だけだ。


「……面白味がないのは、俺の周囲に常識人が少ないからでしょうね」


 あなたも含めてという意味である。

 俺の発言に王が吹き出す。


「苦労してるんだね。でももう少し柔軟になった方が、意中の女の子に振り向いてもらえるんじゃないの?」

「はい!?」


 頭の中にリュナの姿が浮かび、思わず反応してしまう。

 焦る俺の姿に、王がクスクスと笑った。


「どんな子? 可愛い子?」

「陛下。今は俺のことよりも、目の前の問題に取り組んで下さい」


 王の気晴らしに俺の恋愛話が使われるのは気に入らない。

 なによりずっとリュナに会えていないから、思い出すと俺が会いたくなってしまう。


「陛下」


 雑談をしていた俺達の前に、突然魔塔主が現れた。

 黒猫の影の力を使って移動してきたのだろう。

 王も叔父の登場に顔を引き締める。


「イサベラという貴族令嬢が奴等に接触しました」


 父親じゃなくて、イサベラの方が接触?

 イサベラは奴等のことを何も知らないと思っていたから驚いた。


「跡を付けたところ、奴等のアジトと思われる廃墟を見つけました。今、兵を差し向けているところです」


 王と俺が息をのむ。

 今まで奴等の実態を掴めなかったが、ようやく一歩踏み出せたのだ。


「アシル。私の使い魔が廃墟に案内するから、あなたは一足早く飛びなさい」


 兵よりも俺が飛んだ方が早いという判断だろう。


「分かりました」


 返事だけすると、急いで廃墟にむかった。



 廃墟は深い森の中にひっそりと佇んでいた。


『人のいる気配がないわ』


 黒猫が廃墟を見上げて言った。

 逃げたのか? それともどこかに出かけている?


「入るよ」


 躊躇うことなく廃墟に足を踏み入れた。

 広い礼拝堂が目の前に広がる。

 中央の一番大きな窓にはめ込まれたステンドグラスは割れ、壊れた長椅子などが無造作に置かれていた。

 一歩ずつ魔術の仕掛けを警戒しながら進む。

 長年廃墟になっていた割には、中央の床に埃がない。

 誰かがいたという証だ。

 ゆっくりと埃がない床を歩くと、巨大な壊れたパイプオルガンの前まで来た。


『……このオルガンの下から風を感じるわ』


 黒猫がオルガンの下を覗き込む。

 ということはこの下に空洞があるということだ。

 パイプオルガンに仕掛けがあるのか?

 埃のかかっていない部分を探す。

 しかしどこもかしこも白く染まっていた。

 パイプオルガンが仕掛ではない?


『壊したら?』


 猫は単純でいいね。


「オルガンに爆発物が仕掛けられていたら、全てなくなるけどいいの?」


 あんたの主がそれを望んでいるとは思えない。


『私は猫だから、怒られないわ』


 全ては俺の責任ってわかってて言ってるんだ。

 だとしたら主同様、性格悪すぎ。

 眉を寄せて黒猫を睨むと、あるところが気になった。

 黒猫の近くにあるスウェル・ペダルの一ヶ所だけ、先の方が光っているように見えたのだ。

 試しに光っている部分を踏んでみる。

 するとオルガンが静かに後ろに移動し、地下に続く階段が出現した。


『私のおかげね』


 ドヤ顔の猫を無視して階段を下りる。


『待って! 探知魔術の糸が張り巡らされているわ!』


 階段を下りた先の小部屋の扉の前で黒猫が俺を止めた。

 探知魔術の糸は触れると爆発して相手に異常を知らせる。

 相手に知られないように解除したいところだが……。


「まだこんなところにいるのですか」


 躊躇う俺の背後から、突然魔塔主が現れた。


「色々警戒しながら進んでいましたから」


 こっちだって苦労してここまで来たんだ。

 影を使って仕掛け無視で来れるあんたと、一緒にしないで欲しい。

 心の中で不貞腐れている俺を無視して、魔塔主が探知魔術を観察する。


「この程度の探知魔術を解除できないとは、あなたもまだまだですね」


 そう言うと魔塔主は、目の前を一瞬で凍らせた。

 糸も扉も全て氷の中に封じ込められている。

 驚いていると、今度は氷の刃を出して糸と扉を切り刻み始めた。

 王に面白味がないと言われたことを思い出す。

 俺ももう少し大胆に動いた方がいいのかな?

 開かれた扉の先に進むと、奴等が集めた資料が残されていた。

 それに目を通し、驚愕する。


「なかなか面白いことが書かれていますね。純粋覚醒ですか。良かったですね、アシル。これで彼女と結婚できる理由が出来ましたよ」


 苦痛からの覚醒ではなく、精霊の森に入ったことで覚醒する方法のことを俺達は純粋覚醒と呼んでいる。

 リュナが初代王と同じ、純粋覚醒!?

 そこにはそれを確認するために、病原体をばら撒くと書かれていた。

 純粋覚醒をした者は、精霊の森からの加護で覚醒したとされ、神と同等の扱いを受ける。

 だが奴等がどうしてリュナが純粋覚醒だと確信したんだ?

 そこで思い出しのは、キイラ女史が亡くなったとされる平原のことだった。

 争われた痕跡が何一つない、澄んだ平原。

 まさか奴等が撤退したのは、リュナが神の力を使ったから?

 動揺していると、外から俺の使い魔が大きく鳴いた。

 それはリュナの危険を知らせるものだった。

 俺は急いで外に出る。

 先程まで空は晴れていたのに、ある場所を中心に不気味な雲が渦巻いていた。

 あそこにリュナがいる?

 準備万端の使い魔に飛び乗る。

 そして飛んだ先に見えたのは、赤黒い巨大な魔力の塊だった。





次話から主人公視点に戻ります。

読んで頂き、ありがとうございます。

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