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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第二章 両片思い編
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親子(アシル視点)

 リュナが使い魔と契約をして数日が経った。

 重い足取りである屋敷を訪れていた。


「坊ちゃま、お帰りなさいませ」


 屋敷の執事が俺を出迎えた。


「今日は魔塔士長として伺ったのですが?」

「旦那様から大公子としてお迎えするよう、仰せつかっております」


 思わず顔を歪める。

 ただでさえ気が重いのに、一体何をさせるつもりなんだ?

 溜息を吐きながら執事に付いて行く。

 案内された部屋の扉を執事が叩くと、中から穏やかな声が返ってきた。


「入りなさい」


 扉を開けた執事の横を通り過ぎる。


「失礼します」


 中に入ると外から扉が閉められた。

 二人きり……いや、プラス一頭か。

 チラリとソファーを窺う。


「今日はゆっくり出来そうですね」


 仕事をしていた人物は立ち上がり、ソファーに座るよう手で促す。

 本音を言えばゆっくりしたくはない。

 溜息を吐きながらソファーに腰掛ける。


「親子水入らずなのに浮かない顔ですね、アシル」

「俺は魔塔士長として、先日の罰とやらを聞きに伺っただけです、魔塔主様」

「もちろん魔塔士長としての罰は受けてもらいますよ」


 魔塔主から差し出されたのは、丸まった一枚の紙だった。

 開くとそこには、お淑やかそうな貴族女性の姿が描かれていた。


「この女性がなにか?」

「大公子の婚約者になる女性です」

「はあ!?」


 思わず声が出る。

 そんな俺を無視して魔塔主が話を続けた。


「先方は一度見たあなたの姿が忘れられず、今回の婚約も乗り気だそうです」


 こういう時だけ大公子を利用するこの人には、嫌悪しかない。

 開いた紙を再び丸めて魔塔主に突き返す。


「俺には魔塔士長という立場があります。相手を探しているのであれば、エルメルにでも薦めたらどうですか?」


 帰ろうと立ち上がる俺に、魔塔主は留める一言を発した。


「リュナ中級魔塔士を助ける結果になるとしてもですか?」


 優雅にティーカップを持ち上げて悠々とお茶を飲む魔塔主を睨む。

 リュナの名前を出せば俺が言うことを聞くとでも……。

 大人しくソファーに座り直す。

 その姿を見てクスリと笑われた。

 この人が本当に嫌いだ。


「先日、医術塔である物が紛失しました」


 ティーカップを持っていたソーサーに置きながら、魔塔主が話を続ける。


「数年前に王国で流行った病原体です」


 そんな重要な物を紛失した!?

 エルメルからも情報が上がってきていないということは、恐らく医術塔内でもかなりの上層部しか知らない機密にされているということだ。


「そしてそれを持ち去ったのが、この貴族令嬢の叔父ではないかということです」

「つまり俺に婚約をして、この家を探れということですか?」

「話しが早くて助かります」


 病原体が悪用されればまたあの悪夢が繰り返される。

 それだけは俺としても阻止したい。


「しかしこの話と、リュナ中級魔塔士とどういう関係があるのですか?」


 問題はそこだ。

 リュナが関係していないなら、エルメルに任せたっていい案件だ。


「その病原体が『神の代行者』に渡っているかもしれないとしたら、どうですか?」


 その名前が出てきて驚愕した。

 奴等が病原体を狙ったという驚きもあるが、それよりもなぜ奴等とリュナが関係あるとこの人は知っているんだ!?

 まさか……。

 ソファーでくつろぐ黒猫を見た。


「覗いていたのですか?」


 魔塔主の使い魔は何かの条件が揃えば、目当ての人間の影に潜み、情報収集をしたり魔塔主を移動させたりすることができるのだ。

 俺が知っている黒猫の能力はそれだけだが、もしかしたらまだ隠れた能力を持っている可能性は十分にある。


「覗きとは言い方が悪いですよ。リュナ中級魔塔士に想いを寄せている息子を心配してあげてのことですから」


 ギリッと歯を噛みしめる。

 腹立たしいのもあるが、あの一部始終を知られているのが恥ずかしすぎる!


「悪趣味ですよ」


 感情を丸出しにすれば、相手を喜ばせるだけだ。

 あくまでも表向きは平静を装う。


「初めての口付けが想い人で、良かったですね」


 もう、無理だ!

 立ち上がり扉に向かう。

 取っ手を握ったところで、魔塔主が警告してきた。


「しかしあなたは大公子です。身分違いの恋は、乗り越えるべき障害が多いですよ。はたして彼女がその障害に、耐えられるでしょうか?」


 握っていた手に力が入る。


「俺にとって大公子の身分など……」


 扉を開き一歩外に出る。


「彼女を手放すことよりも簡単に手放せるものですよ、父上」


 そのまま執務室の扉を閉めた。


 そして俺と令嬢の婚約が決まった。

 部屋で近々行われる審査会の準備をしていると、黒猫が影から現れた。


『主からの命よ。私が影に隠れられるように、令嬢と十秒以上接触をする機会を作りなさい。彼女の父親の方に隠れられるなら、なおよしとのことよ』


 婚約の時に会ったが、令嬢の方は余裕だろう。

 俺が嫌がっても勝手にエスコートを求めてくるから。

 だが、父親とどうやって十秒以上も接触すればいいんだ?

 ハグでもしろと?

 想像して鳥肌が立つ。


『あと事前準備が必要だから、令嬢と会う日は先に教えてね』


 これだけで影に入り込める条件は、触れること以外にあると察する。

 魔塔主と同様に、一方的に要件だけ伝えて黒猫は再び影から帰って行った。

 影を縫い付ける魔術でも考えようかな……。

 好き勝手されるのは気に入らない。

 不快な気分になりながら、持っていた書類に目を通す。

 その書類には治癒テープの評判と、発売されたばかりの魔冷庫の売り上げが記載されていた。

 これは上級魔塔士に昇格かな。

 自然と頬が緩む。

 いやいや。私情を挟むのはよくない。

 魔塔士長として、しっかり他の部分も審査しないと。

 気合を入れ直すも、昇格されたリュナの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

 ……ここは減点だけど、ここで上げられるよね?

 いや、でもここは減点しないと駄目だよね。

 それでもここをプラスすれば上級魔塔士に……。

 甘い評価にしたい俺と、いつも通りの評価にしなければという俺の間で葛藤が生まれ、頭を抱える。

 好きな人に甘くなってしまうのが、人間の性だよね。

 ……俺もまだまだ未熟だな。





読んで頂き、ありがとうございます。

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