お茶会
ルンルン気分で食堂にいるいつもの二人に近付く。
「ほんと、恋愛している奴は情緒が不安定よね」
コハナが席に座る私に言った。
「でも明るいリュナさんを見ていると、こちらも嬉しくなりますよ」
告白されたわけでもないのに、先輩と話をしただけでこの気分の上がりよう。
これからはコハナに現金とは言えないかも。
あ、そうだ。抱きしめられたんだった。
ふふふっ……。と意味深ににやけていると、コハナが顔をしかめる。
「あんた、気持ち悪いから……」
「幸せ満開って感じですね」
「今の私はどんな試練がやってこようとも、笑顔で流せるだけの余裕があるわ」
キリッとした顔で胸を叩く。
「あ~あっ……。そういうこと言うと、絶対試練がやってくるわよ」
「恋愛って忙しいんですね」
二人があきれ顔で私を見る。
当の私は先輩の『笑顔が好き』を思い出し、表情が崩れる。
「そんなに浮かれてるってことは、ついに想いを告げられたの?」
無言で首を横に振る。
「想いを告げあっていないのに、そんなに浮かれてんの?」
「笑顔が好きって言われたの」
小声で恥じらいながら答える。
「……可愛いと同じ意味合いじゃないの?」
チョイチョイと二人を手招きする。
手に合わせて顔を私に近付けてきた。
周囲に漏れないように、口の横に手を当てて二人に伝える。
「先輩に、抱きしめられたの」
私の言葉に二人が顔を合わせる。
「それでまだ付き合ってないの?」
「言葉にしなくても想いは繋がっているとかいう、あれですかね?」
コハナが椅子の背もたれに寄りかかる。
「でも貴族の婚約は厄介よ。よほど相手に問題がない限り、婚約解消は難しいからね」
「そうですね。貴族は体面が命ですから、大公子に無下に扱われたとなれば、貴族派の格好の餌食になるのは間違いないですね」
浮かれていたけど先輩は婚約中だったのを忘れてた。
でも……。『今の状況が片付いたら、あんたに伝えたいことがある』
「先輩にはなにか考えがあるみたいだから、私は信じて待つよ」
決意の眼差しに二人が微笑む。
「……振られたら残念会してあげるから、安心して玉砕しなさい」
「そう言いながらコハナさんが一番怒って、魔塔士長の部屋に乗り込みそうですけどね」
「でもコハナの場合、乗り込む前に『不可』ってされちゃうよね」
「あれに関してだけは今度抗議しておかないと!」
怒りだすコハナに二人でクスクスと笑ったのだった。
三人で食堂を出ると、見た事のある光景に出くわす。
入口のところにいたのは、先輩の婚約者のイサベラ……の付き添いの人だった。
今日はイサベラの姿は見えない。
「そこのお前」
付き人が私に指をさす。
「ちょっと。人を指さすとか、失礼じゃない?」
コハナが付き人に怒るも、付き人は睨むだけで無視をした。
「イサベラ様がお前をお茶会に招待してくれるそうだ」
そう言って差し出されたのは、高級そうな封筒だった。
「貴族のお茶会なんか止めときなさいよ。絶対嫌な思いをするだけだから」
コハナがこっそり耳打ちしてきた。
「お前にお嬢様のお茶会を断る権利などない。分かったら付いてきなさい」
「今からですか?」
「そうだ。もうお嬢様はすでにお待ちだ。平民がお嬢様を待たせるなど、言語道断。すぐに出発します」
有無を言わせない迫力で付き人が歩き出す。
「なんか行かなきゃいけないみたいだから、言ってくる」
歩き出す付き人に付いて行きながら、心配そうな二人に声をかける。
リュナと付き人が出て行き、残された二人が顔を見合わせる。
「これってまずいですよね?」
「まずいなんてもんじゃないでしょ。きっと酷い目に合わされるわよ」
貴族に酷い扱いを受けた経験から、コハナが顔を歪める。
「すぐに魔塔士長に伝えないと」
コハナがプレートの鍵穴に鍵を差し込む。
そこに大きく赤字で表示されたのは……『不可』。
「なんでなのよーーーーー!!」
コハナの叫び声だけが、虚しく響いたのだった。
魔塔を出て馬車に乗せられた私が連れて行かれたのは、大きな屋敷だった。
家族が住むだけでこんなに大きな家、いる?
「なにをしている! 早く付いてきなさい!」
早足で前を歩く付き人が怒鳴る。
馬車の中でもお嬢様に失礼がないようにと、延々と注意事項を告げられていた。
正直、注意事項が多すぎて、覚えきれていない。
庭に案内されると、長いテーブル席に数人の綺麗な服を身に纏った女性達が、座りながらお茶を飲んでいた。
どうやらお嬢様がたくさんいるようだ。
そしてその最奥にいるのが、イサベラのようだ。
「お嬢様。お連れしました」
付き人が談笑しているイサベラに声をかけた。
すると女性達の視線が一斉に私に集まる。
「まあ。お茶会の席だというのに、随分と独特な格好をされてらっしゃるのね」
お嬢さまの一人が扇子を広げて私に言った。
「これですか? これは魔塔士の証でもある格好です。先ぱ……魔塔士長ともお揃いで気に入っているんです」
先輩を思い出し、ヘラッと笑う。
「そ……そうですの……」
なんだかお嬢様達の間で、気まずそうな空気が流れる。
どうしたんだろう?
コホリとイサベラが小さく咳払いをした。
「リュナさん。今日は突然の招待にも関わらず、来てくれてありがとうございます。よろしかったらおかけになって」
イサベラが笑顔で空いている一番端の席を手で指す。
「ありがとうございます」
素直に促された席に座ると、また違うお嬢様が口を開く。
「イサベラ様の慈悲に感謝するのね。本来ならあなたのような身分の者が座るのもおこがましい行為なのよ」
「確かにそうですね! こんなお嬢様体験ができるなんて、夢のようです! 呼んでくれてありがとうございます、イサベラさん!」
「さ……さん!?」
イサベラ以外の全員が凄い顔をする。
お礼を言っただけなのに、なんでみんなそんな面白い顔してるの?
「皆さん。彼女はそういう身分の者なのですから、仕方ありませんわ」
「そ……そうですわね! さすがイサベラ様はお心が広いですわ!」
「やはり身分が違うと、身に付けた教養も違いますからね!」
教養と聞き、お師匠様との波乱万丈な生活を思い出す。
「それはありますね。なんせ私のお師匠様は破天荒でしたから。王都に来てお師匠様の教えがいかに独特だったか、思い知らされました」
「当たり前でしょ! あなたが受けた教育と一緒に考えないで頂けます?」
お嬢さまの一人が声を上げる。
「というより、あれは私以外の人だと逃げ出していたかもしれません。だって身をもって体験しろって、山に生えている草やキノコをその場で食べさせられていましたから。毒があるかどうかも分からないのに……」
「あ……あなた、その辺に生えている物を食していたのですか?」
「皆さんは野菜とか食べられないのですか? 野菜は土に生えている物を収穫しているのですよ? 肉や魚だって、自然の中の生き物を捌いてご馳走になっているじゃないですか」
何人かの令嬢の顔色が悪くなる。
あれ? どうしたんだろ?
「そこにあるお菓子に使われている卵だって、鶏のお尻から出てきた物ですよ?」
お菓子を口に入れようとしていた令嬢の手からお菓子が落ちる。
コホリとイサベラが気を取り直すように咳払いをする。
「随分と個性的な育ち方をなさったようですわね」
「それはもう。お師匠様のおかげです!」
「褒めてませんから!」
私の返しに他のお嬢様が慌てて怒鳴る。
個性的って褒め言葉じゃないの??
イサベラを窺うと、頬が引きつっている。
あれ? なんだか怒ってる?
首を傾げていると付き人が現れ、慌てた様子でイサベラに報告した。
「アシル大公子がお見えです」
振り返ると、こちらもなんだか怒っているような先輩が、向かってきていたのだった。
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