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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第二章 両片思い編
34/72

素直に

 魔塔に戻るとペンギンが、用意してあげた自分のベッドでくつろいでいた。

 この姿だけで強張っていた顔が緩む。

 ペンギンにお菓子をあげていると、チリンチリンと隣の部屋から音がした。

 寝室を出て入口の扉に目を向けると、扉に先輩の呼び出しを告げる文字が浮かび上がる。

 昼間の可愛くない態度を言及されるのだろうか?

 エルメル先生は不安を直接本人に聞いてみたらと言ってくれたが、婚約者がいる今、私の想いは重荷になってしまうのではないか?


「クワァ?」


 扉を眺めながら憂鬱そうな顔をしている私に、ペンギンが首を傾げる。


「大丈夫だよ」


 寝室に戻り薄く笑いながら頭を撫でる。

 するとペンギンがベッドから起き上がり、片手をグルグル回す。

 繋がったのは私の部屋と同じタイプの、見慣れない部屋の寝室のようだ。

 ペンギンが開いたゲートを潜ると、ゲートが閉じた。

 ぼう然と眺めてしまったが、一体どこの部屋に行ったの!?

 慌てて部屋を出る。

 もし魔塔内にいるなら、コハナの使い魔も見つけた先輩に相談すれば見つかるかも。

 先輩の部屋のプレートに鍵を差し込む。

 しかし『不可』と赤字で表示される。

 あれ? 私、先輩に呼ばれてたよね?

 もう一度鍵を差し込むも、『不可』と表示される。

 えええええっ?? なんで??

 誰かに相談しようと食堂に向かうも、遅い時間ということもあり、食堂にいる人はいなかった。

 どうしよう……。

 そうだ! 入口にはコハナやマウノのプレートもあるはず。

 二人に相談してみよう!

 入口に戻ると、疲れ切った顔をした先輩と鉢合わせる。

 突然の先輩の登場に、嬉しいけれど心の準備ができておらず、複雑な顔をしてしまう。


「呼び出したのにごめん。とりあえず部屋に来てくれる?」

「は……はい」


 気まずい雰囲気が漂う。

 私が気まずく感じているだけかもしれないけど。

 先輩の部屋に飛び、目を瞬く。

 なんと私の使い魔のペンギンが、先輩の仕事机の上で寝そべってくつろいでいたのだ。


「な……何してるの!?」


 急いで机から降ろす。


「『不可』にしたのは突然寝室に使い魔の気配がしたから、正体が分かるまで入れないようにしていたんだ」

「すみません! すみません! すみません!」


 何度も頭を下げて謝る。


「謝る必要ないよ。なんか俺に言いたいことがあって来たみたいだから。だけど言葉が伝わらないって知って、諦めて寝ることにしたみたい」

「先輩に迷惑かけちゃダメでしょ!」


 私の隣に立つペンギンに叱るも、ペンギンは反省している素振りも見せずに、首を傾げる。


「使い魔が動くってことは、主人に対する俺の態度が気に入らないからだと思うんだ。だから悪いのはたぶん俺の方だよ」

「クワ~……」


 ペンギンは欠伸をしながら先輩の部屋の寝室に向かって歩き出す。


「こ……こら! 部屋に戻るよ!」

「好きにさせておいていいよ。別に悪さするわけじゃないし」


 机の上の書類はぐちゃぐちゃですけど……。


「自由気ままな子で、本当にすみません……。今度叱っておきます」

「主人想いの良い使い魔だと思うよ」


 それでも先輩に迷惑かける行為だけは止めて欲しかった!


「それよりも使い魔が怒るくらいだから、俺のことで不満があるんだよね? なんだか元気がなさそうだったから呼び出したんだけど、よかったら聞かせてくれない?」


 ペンギンのことですっかり忘れていたが、私、先輩に呼び出されていたんだった。


「不満なんかないです! 私は先輩が信じてと言った言葉を信じていますから!」


 信じているのは本心だ。

 だけど心のどこかで不安がくすぶっているのも事実ではある。

 先輩に見つめられ、心の不安を見透かされるのが怖くて、思わず視線を逸らす。


「リュナ」


 優しく名前を呼ばれて、心臓がドキリと大きな音を立てる。


「あんたが抱えているものが解消されるなら、俺は聞きたいことに答えるつもりだよ」


 顔を上げると思ったより先輩の顔が近くて、体が硬直する。


「あんたが悲しそうな顔をしているのは、見たくないから」

「わ……私……。今、顔が不細工じゃないですか!?」


 両手で頬を抑えながら、慌てて顔を下に向ける。


「え? いや。全然不細工じゃないけど?」


 私の顔を覗き込もうとしているのか、目の端に先輩の耳飾りがうつり込む。

 さっきより顔が近くない!?


「具合でも悪いの?」

「違うんです……。その……私……」

「うん」


 恥ずかしさと、心臓の高鳴りと、わずかな不安が入り乱れ、頭の中がかく乱される。


「自分が分からないんです!」


 混乱した思考に、涙がポタリと零れ落ちる。

 すると頭の後ろに手を回されて、気付けば目の前の胸元に引き寄せられた。

 ふぇっ!?


「分からないって、何が分からないの?」


 耳元から聞こえてくる優しい声に、自然と涙が溢れてくる。


「最近の自分が凄く嫌いなんです。グジグジウジウジと湿っぽくて、すぐに嫌なことを考えちゃって、自分でも性格が悪いなって思ってるんです」

「……それは、何に対して考えちゃうの?」

「何にって、それは……」


 先輩のことと言おうとして、固まる。

 これを言ったら先輩が好きですと、同義になるんじゃないの!?


「俺は元気がなさそうだったから心配はしていたけど、あんたの性格が悪いとは思ったことないかな」

「そんなはずないです! 今日だって先輩が帰ろうて誘ってくれたのに、断っちゃいましたから……」


 顔を上げると先輩がクスリと笑う。


「あれはさすがにエルメルに嫉妬したかな」


 へ? 嫉妬?

 妹分がとられたとか、そういうニュアンスかな?


「婚約者がいる今じゃ、けじめもつけられないのが辛いな……」


 先輩が小声で呟き、よく聞き取れない。


「リュナ」

「は……はい!」


 月夜に照らされた先輩の青色の瞳が妖艶に揺らめく。


「今の状況が片付いたら、あんたに伝えたいことがある。だからもう少しだけ待っていてくれない?」


 告白されたわけじゃないのに、期待に胸が膨らむ。

 先輩の真剣な表情が、そう感じさせているのだろうか?


「私は、先輩を信じて待ってます!」


 なんだか嬉しい気持ちが勝り、笑顔で返す。

 再び頭を胸に引き寄せられる。

 すると前髪に一瞬だけ柔らかい感触がした。


「やっぱり俺は、あんたの笑顔が好きみたい」


 す……好き!?

 笑顔がってことですよね!?

 サラッと出た『好き』という二文字に、再び混乱したのだった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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