素直に
魔塔に戻るとペンギンが、用意してあげた自分のベッドでくつろいでいた。
この姿だけで強張っていた顔が緩む。
ペンギンにお菓子をあげていると、チリンチリンと隣の部屋から音がした。
寝室を出て入口の扉に目を向けると、扉に先輩の呼び出しを告げる文字が浮かび上がる。
昼間の可愛くない態度を言及されるのだろうか?
エルメル先生は不安を直接本人に聞いてみたらと言ってくれたが、婚約者がいる今、私の想いは重荷になってしまうのではないか?
「クワァ?」
扉を眺めながら憂鬱そうな顔をしている私に、ペンギンが首を傾げる。
「大丈夫だよ」
寝室に戻り薄く笑いながら頭を撫でる。
するとペンギンがベッドから起き上がり、片手をグルグル回す。
繋がったのは私の部屋と同じタイプの、見慣れない部屋の寝室のようだ。
ペンギンが開いたゲートを潜ると、ゲートが閉じた。
ぼう然と眺めてしまったが、一体どこの部屋に行ったの!?
慌てて部屋を出る。
もし魔塔内にいるなら、コハナの使い魔も見つけた先輩に相談すれば見つかるかも。
先輩の部屋のプレートに鍵を差し込む。
しかし『不可』と赤字で表示される。
あれ? 私、先輩に呼ばれてたよね?
もう一度鍵を差し込むも、『不可』と表示される。
えええええっ?? なんで??
誰かに相談しようと食堂に向かうも、遅い時間ということもあり、食堂にいる人はいなかった。
どうしよう……。
そうだ! 入口にはコハナやマウノのプレートもあるはず。
二人に相談してみよう!
入口に戻ると、疲れ切った顔をした先輩と鉢合わせる。
突然の先輩の登場に、嬉しいけれど心の準備ができておらず、複雑な顔をしてしまう。
「呼び出したのにごめん。とりあえず部屋に来てくれる?」
「は……はい」
気まずい雰囲気が漂う。
私が気まずく感じているだけかもしれないけど。
先輩の部屋に飛び、目を瞬く。
なんと私の使い魔のペンギンが、先輩の仕事机の上で寝そべってくつろいでいたのだ。
「な……何してるの!?」
急いで机から降ろす。
「『不可』にしたのは突然寝室に使い魔の気配がしたから、正体が分かるまで入れないようにしていたんだ」
「すみません! すみません! すみません!」
何度も頭を下げて謝る。
「謝る必要ないよ。なんか俺に言いたいことがあって来たみたいだから。だけど言葉が伝わらないって知って、諦めて寝ることにしたみたい」
「先輩に迷惑かけちゃダメでしょ!」
私の隣に立つペンギンに叱るも、ペンギンは反省している素振りも見せずに、首を傾げる。
「使い魔が動くってことは、主人に対する俺の態度が気に入らないからだと思うんだ。だから悪いのはたぶん俺の方だよ」
「クワ~……」
ペンギンは欠伸をしながら先輩の部屋の寝室に向かって歩き出す。
「こ……こら! 部屋に戻るよ!」
「好きにさせておいていいよ。別に悪さするわけじゃないし」
机の上の書類はぐちゃぐちゃですけど……。
「自由気ままな子で、本当にすみません……。今度叱っておきます」
「主人想いの良い使い魔だと思うよ」
それでも先輩に迷惑かける行為だけは止めて欲しかった!
「それよりも使い魔が怒るくらいだから、俺のことで不満があるんだよね? なんだか元気がなさそうだったから呼び出したんだけど、よかったら聞かせてくれない?」
ペンギンのことですっかり忘れていたが、私、先輩に呼び出されていたんだった。
「不満なんかないです! 私は先輩が信じてと言った言葉を信じていますから!」
信じているのは本心だ。
だけど心のどこかで不安がくすぶっているのも事実ではある。
先輩に見つめられ、心の不安を見透かされるのが怖くて、思わず視線を逸らす。
「リュナ」
優しく名前を呼ばれて、心臓がドキリと大きな音を立てる。
「あんたが抱えているものが解消されるなら、俺は聞きたいことに答えるつもりだよ」
顔を上げると思ったより先輩の顔が近くて、体が硬直する。
「あんたが悲しそうな顔をしているのは、見たくないから」
「わ……私……。今、顔が不細工じゃないですか!?」
両手で頬を抑えながら、慌てて顔を下に向ける。
「え? いや。全然不細工じゃないけど?」
私の顔を覗き込もうとしているのか、目の端に先輩の耳飾りがうつり込む。
さっきより顔が近くない!?
「具合でも悪いの?」
「違うんです……。その……私……」
「うん」
恥ずかしさと、心臓の高鳴りと、わずかな不安が入り乱れ、頭の中がかく乱される。
「自分が分からないんです!」
混乱した思考に、涙がポタリと零れ落ちる。
すると頭の後ろに手を回されて、気付けば目の前の胸元に引き寄せられた。
ふぇっ!?
「分からないって、何が分からないの?」
耳元から聞こえてくる優しい声に、自然と涙が溢れてくる。
「最近の自分が凄く嫌いなんです。グジグジウジウジと湿っぽくて、すぐに嫌なことを考えちゃって、自分でも性格が悪いなって思ってるんです」
「……それは、何に対して考えちゃうの?」
「何にって、それは……」
先輩のことと言おうとして、固まる。
これを言ったら先輩が好きですと、同義になるんじゃないの!?
「俺は元気がなさそうだったから心配はしていたけど、あんたの性格が悪いとは思ったことないかな」
「そんなはずないです! 今日だって先輩が帰ろうて誘ってくれたのに、断っちゃいましたから……」
顔を上げると先輩がクスリと笑う。
「あれはさすがにエルメルに嫉妬したかな」
へ? 嫉妬?
妹分がとられたとか、そういうニュアンスかな?
「婚約者がいる今じゃ、けじめもつけられないのが辛いな……」
先輩が小声で呟き、よく聞き取れない。
「リュナ」
「は……はい!」
月夜に照らされた先輩の青色の瞳が妖艶に揺らめく。
「今の状況が片付いたら、あんたに伝えたいことがある。だからもう少しだけ待っていてくれない?」
告白されたわけじゃないのに、期待に胸が膨らむ。
先輩の真剣な表情が、そう感じさせているのだろうか?
「私は、先輩を信じて待ってます!」
なんだか嬉しい気持ちが勝り、笑顔で返す。
再び頭を胸に引き寄せられる。
すると前髪に一瞬だけ柔らかい感触がした。
「やっぱり俺は、あんたの笑顔が好きみたい」
す……好き!?
笑顔がってことですよね!?
サラッと出た『好き』という二文字に、再び混乱したのだった。
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