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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第二章 両片思い編
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悩みと癒し

 その日の夕食の席で、コハナがフォークを噛みしめながら呟く。


「まさか魔塔士長が大公子だったなんて……。もっとアプローチしておけばよかった」

「コハナさんがアプローチをしても無駄だったとは思いますが、魔塔士長が大公子というのは驚きでした」


 そういえば先輩を呼んで来るように言ってた人、先輩のことをアシル『たいこうし』と呼んでいたよね。


「ねえ。『たいこうし』ってなに?」


 私の問いに二人が目を丸くする。


「あんたまさか、大公子がどういう立場か知らないの!?」

「大公という地位にいる人の子どもという意味です。現大公といえば前王の弟殿下だったはずです」

「前王様の弟!? ん? 先輩が?」

「だから違うって。大公子って言ってるでしょうが」

「つまり魔塔士長は、前王様の弟の息子というわけです」

「王様の息子!?」

「この子に説明するだけ無駄なの?」

「リュナさん簡単に考えて下さい。魔塔士長は、王様のおじさんの子どもです」


 なんか……ややこしい……。


「えっと……つまり、王様と親戚ってことでいいの?」

「正解です」


 ん?


「誰が?」

「だから魔塔士長がってことですよ」

「え? えぇぇぇぇぇ……っ!?」

「声が大きいわよ! 査定に響いたらどうしてくれんのよ!」


 コハナが私の口を塞ぐ。


「ほへん……」


 塞がれた口をもごもごさせて謝る。


「えっと……つまり先輩は、この国でもっとも偉い人と血が繋がっているってことだよね?」

「そうなりますね」

「私、結構先輩に馴れ馴れしくしちゃってたけど、牢屋に入れられたりしないよね!?」

「大丈夫ですよ。コハナさんの方が失礼なことをしていますから」

「そっか」


 そう言われると、妙に安心してしまう。


「私を基準にしないでくれる?」


 先輩が王様の親戚……なんだか遠い人のように感じる。


「それにしても婚約者とは一体何の話をしていたのか、覗いてみたかったわ」

「魔塔士長が大公子であるなら婚約者がいてもおかしくはありませんが、魔塔士長と貴族令嬢という組み合わせに違和感はありますね」

「あの貴族令嬢見た!? 扇子なんか広げて、お高くとまっちゃって。あの女、絶対性格悪いわよ」


 コハナが不愉快そうにフォークでおかずを突き刺す。


「綺麗な人だったよね……」


 昼間の女性を思い出し、ポツリと言った。


「あんたなに弱気になってんのよ! 私はあんな女、認めないから! あんたが頑張らないなら、私が狙うわよ!」

「コハナさん、落ち着いて下さい。慰めにも勝負にもなってませんから」

「先輩に婚約者がいたことがショックなんじゃないの」


 先輩がお師匠様の話をしていた時に感じた疎外感。

 私達は出会ってまだ二年という歳月しか過ごしておらず、自分の知らない先輩がいるのは当たり前なんだ。

 それでも知らない先輩の姿も全部知りたいと思ってしまう自分がいる。

 先輩を近くに感じれば感じるほど、先輩を独占したいという欲がどんどん膨れ上がる。

 そんな我儘な自分が、凄く嫌いだ。


「恋愛ってもっと楽しいものだと思ってたのに……」


 テーブルに突っ伏して呟く。


「あら? 恋愛なんて醜くてドロドロしたものよ。どんなに綺麗そうに見える恋愛だって、周りのことなどお構いなしにお互いの欲望をさらけ出し合っているのだから」


 コハナの話に私とマウノが耳を傾ける。


「あんたと魔塔士長だって、当人は気付いてないだろうけど、見ている側はお腹いっぱいな時はあるわよ」

「確かに見ていていいのか迷う時はありますね」

「そ……そうなの!?」


 私は先輩に想いが伝わらないように普通にしているつもりだったんだけど、周りから見ると欲望丸出しってこと!?


「そのうち『アシル』『リュナ』って、人前でも抱き合うんじゃないかと心配してるわ」

「そんなこと……! 先輩の気持ちも分からないのに……できないよ……」

「リュナさん。問題は抱き合うか抱き合わないかの部分ではないですよ?」

「この時点で完全に欲望に負けてるわね」


 そうだった。私、先輩の気持ちも知らないんだ。

 しかも婚約者が現れた今、自分の気持ちも伝えられなくなった。

 どんよりと項垂れると、コハナが溜息を吐く。


「明るくなったり暗くなったり忙しいわね。そんなに魔塔士長のことが気になるなら、ペンギンにでも見張らせたらどうなの。あんたの使い魔、全然働いてないでしょ」

「先輩がお菓子をくれるなら、入り浸るようになるとは思うよ」

「ほんとに使えない使い魔ね」

「あの子は癒し系だから」

「どう見てもふてぶてしいわよ」


 コハナとは相性が悪いようだ。


「でもあのペンギン、本当に不思議ですよね。僕も気になって調べてみたのですが、使い魔がペンギンだった例はありませんよ」

「ペンギンの皮を被った人間だったりして」

「チャックはついてなかったよ」

「真面目か」

「これは新種かもしれませんね」


 新種!?

 マウノの言葉に目を輝かせる。


「じゃ……じゃあリュナペンギンとか名付けちゃっていいのかな?」


 自分の名前が付く生き物が誕生するなんて、なんてロマンなの!


「センスのない名前ね」

「あくまでも精霊の森の生き物なので、どうでしょうか……」


 二人ともあきれていた。



 食堂から戻ると、部屋で使い魔になったペンギンがくつろいでいた。

 お菓子目当てで最近よく訪ねてくるため、ペンギン用の小さいベッドを用意してあげたのだ。


「クワッ」


 くつろぎながらペンギンがお菓子を催促する。

 コハナあたりなら図々しいと怒るところだろうが、くつろいでいる姿も可愛いから許してしまう。

 ペンギンにお菓子はいいのか疑問だったのだが、先輩に聞いたら精霊の森の生き物は自分に有害になる食べ物は口にしないから欲しがればあげても問題はないそうだ。

 ただしペンギンは初めてなので、先輩も少し不安そうではあった。

 お気に入りのお菓子を一つずつ口に入れてあげる。

 親鳥が、口を開けて待つ雛鳥に餌をあげているような気分になる。

 可愛いな……。

 食堂で感じていたモヤモヤが消えそうだ。

 お菓子を食べ終わるとペンギンは立ち上がり、片腕を振り回す。

 すると精霊の森と繋がるゲートが開かれた。

 最初は驚いたが、何度も見ているうちに慣れた。

 ペタペタと足音を立てながらゲートを潜るペンギンに手を振る。

 ゲートが閉じる寸前に『また来る』とでも言いたそうに、振り返りながら「クワッ」と一鳴きした。

 手を振りながら思った。

 ……明日、お菓子を買いに行かないと。





読んで頂き、ありがとうございます。

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