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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
28/72

別れ(アシル視点)

 朝食を食べて早速、契約解除のための準備を行う。

 リュナの希望でキイラ女史が亡くなった平原で行うことにした。

 あそこは浄化されたような綺麗な場所だから、いい思い出はないかもしれないけど、成仏するには最適かもしれない。


「相手は厄介なことに魔法陣が描けないから、今回は特別な魔法陣を使うね」


 キイラ女史に対して若干の嫌味を込めながら、木の棒で魔法陣を地面に描く。

 石の上とかなら書きやすいから楽なのに、魔術で刈ったとはいえ草が生えているから結構面倒だ。

 リュナのために頑張るけど、キイラ女史のためなら間違いなく投げ出している。

 俺が魔法陣と格闘している間、リュナはお酒を買いに、近くの村に向かった。

 なにかあったら大変だからと反対したが、あの小さな眷属が『任せろ!』と言わんばかりの顔でリュナの肩に乗っかったのだ。

 俺達が駆け付けた時、モヤの魔術から出られなくて泣いてたよね?

 頼りになるのか不安になるも、俺の使い魔が上空から見張ってくれるというから任せることにした。

 そして魔法陣が完成した頃、俺の使い魔が地面に降り立つ。

 山道に目を向けると、リュナが酒瓶を抱きしめながら登ってきた。

 リュナに歩み寄り、重そうな酒瓶を代わりに持ってあげる。


「山道は慣れているから、これくらい平気ですよ!」


 リュナが申し訳なさそうに酒瓶を持つ俺の後をついてくる。


「こういうのは力のある方が持てばいいの」


 少しでも頼りになると思われたい。

 好きな人には無様な姿を見せたくないと聞いていたけど、その気持ちを今、学んだ。

 もう少し鍛えた方がいいかな。

 キイラ女史にはヒョロヒョロと言われていた。

 あの時はヒョロヒョロで何が悪いと思っていたけど、今はもう少し逞しくなりたいかも。

 本とか引き寄せている場合じゃないな。


 平原に到着し、酒瓶を地面に置く。


「ほんとにいいの?」


 契約を解除すれば、これがキイラ女史との最後の別れになる。


「はい!」


 リュナがすっきりしたような笑顔で返事した。


「お師匠様には空の上でお酒を飲みながら見守って欲しいと思っていますから」


 健気なリュナの頭を撫でる。

 驚いた顔で見上げられて、思わず手を離す。


「ごめん。褒めてあげたくなってつい……」


 リュナは恥ずかしそうにしながら、首を横に振る。


「嬉しいです……」


 心を射貫かれた。

 恋愛って、心臓に悪い。


「じゃ……じゃあ、魔法陣の上に立ってくれる?」


 これ以上は撫でるだけではすまなくなりそうで、話を本題に戻す。

 リュナは魔法陣の上に移動した。


「契約を結びしキイラよ。姿を見せよ」


 俺が教えた通りに唱えると、霧が人の形を象る。


「お師匠様……」


 震える声でリュナが霧に手を伸ばす。

 霧が口の端を上げるように形作る。


「……私」


 リュナが言葉に詰まった。

 泣くのを我慢しているようだ。


「リュ……」


 声をかけようとする前に、霧の手がリュナの頭に置かれる。

 そしてわしゃわしゃと強く撫でるように手が動くと、風圧でリュナの髪が乱れた。


「お師匠様!」


 リュナが膨れながら髪を整える。

 霧は爆笑しているようだ。

 やはり霊体になっても性格は変わらないよね。

 リュナも感じたようでクスリと笑う。

 そして勢いよく頭を下げた。


「お師匠様! 今までありがとうございました!!」


 たぶん色々言いたいことはあっただろう。

 だけど最後は笑顔で別れたいという二人の想いが伝わってくる。

 今度はそっとリュナの頭の上に霧の手が置かれた。

 横から見ていてリュナの目が潤んでいるのが分かった。

 リュナを心配していると、リュナが涙を拭って見ていないのをいいことに、霧が角と牙を生やし物凄い形相で俺を睨む。

 自由に変形できるからって怖すぎでしょ。

 リュナを泣かせたら承知しないと言いたいのだろう。

 言われるまでもない。

 あんたは心配せずにさっさと成仏したら? と不敵に笑う。

 俺の態度に頭にきたようだが、リュナが顔を上げたためお互い表情を戻す。

 最後に二人が見つめ合う。

 そしてリュナが口を開いた。


「ここに……契約を解除する」


 次の瞬間空から光が差し、キイラ女史の体を照らす。

 霧から透き通った霊体に変わったキイラ女史が、微笑みながら天に昇っていく。

 ……天国に行けるんだ。

 などとちょっとした疑問を感じていると、穏やかに昇っていたキイラ女史が必死の形相で泳ぐように地上に戻って来た。

 目当ては地面に置いておいた酒瓶のようだ。

 最期くらい綺麗に消えられないのか?

 酒瓶、正確には魂が抜けたような酒瓶もどきを頬ずりしながら昇っていく姿にあきれる。


「最期まで、お師匠様らしかったですね」


 魔法陣から離れたリュナが空を見上げながら俺の隣にやってきた。


「まったくね」


 溜息を吐く俺をリュナが見た。


「先輩。ありがとうございました。先輩のおかげでお師匠様に最期の挨拶ができました」

「あんたの苦しみが少しでも減るなら、これくらいなんでもないよ」


 エルメルなら『魔法陣を書くのが大変だったけど、君のために頑張ったよ』とか言って、キスを求めたりするんだろうな。

 俺には無理だけど。


「ところでこの村、王都からかなり遠いですが、先輩はどうやって来たんですか?」

「ああ。俺の使い魔に乗ってきたんだ」


 俺の言葉にリュナが目を輝かせる。


「先輩の使い魔って、やっぱり人を乗せて空も飛べるのですね!」


 こんな期待に満ちた顔をされたら、乗せて帰りたくなるのが恋心だよね。

 俺の魔力から使い魔も察してくれたのか、いつもよりも巨大化してくれた。

 これは帰ったら、大量の肉をご褒美にあげないと。

 使い魔に感謝しながら、俺達は魔塔へと戻ったのだった。





次話からリュナ視点に戻ります。

次話で一章完結となります。

読んで頂き、ありがとうございます。

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