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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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誤解(アシル視点)

 魔塔に戻るとすぐに見張り台に上がった。

 見張り台では使い魔が俺を乗せるために巨大化していた。

 生憎の雨だが、防護魔術を使えば問題なく飛ぶことはできるだろう。

 使い魔に飛び乗ると、すぐに飛び立つ。

 防護魔術のおかげで、飛行は順調だ。

 雨雲を抜けて視界が良好になる。

 さらに進み、眷属との交信が途切れた上空に着いて、目を見開いた。

 一体何が起きている?

 澄んだ広い平原の一部には似つかわしくない、ドーム状になった黒いモヤが出現していたのだ。

 あれは治癒テープの時にリュナが使っていた闇魔術?

 リュナがかけたのか?

 平原に降り立ち、モヤに近付く。

 すると俺達の姿に気付いた眷属が、泣きながら俺達に駆け寄ってきた。

 しかしモヤに弾かれて転がる。

 その転がった先に見えたのは、横たわっているリュナの姿だった。


「リュナ!?」


 声をかけるも目を覚ます気配はない。

 まさか死……!?

 嫌な想像が膨らむ。

 治癒魔術とモヤの魔術は触れ合うと消滅するという、リュナの研究結果を思い出し実践すると、シューッという消失音と共にモヤが消滅した。

 解放された眷属は、泣きながら俺の使い魔に駆け寄る。

 慌てて状態を確認すると、リュナは寝息を立てて眠っていた。

 安堵してその場に座り込む。


「リュナ」


 起こそうとリュナの体を揺すると、リュナの瞼がゆっくりと持ち上がる。


「あれ? 私、なんでこんなところで寝てるんだろ? ……そうだ。魔塔に行かなきゃ」


 俺が視界に入っていないのか、ぼんやりと呟くリュナに嫌な予感が過る。

 これは、忘却の魔術!?

 リュナ自身がかけたのか?

 忘却の魔術を?

 そういえばモヤの魔術もそうだ。

 あれは本来術者が外にいる状態でかけるものだ。

 だがリュナはモヤの中にいた。

 だとしたら考えられることは一つ。

 ここにいない第三者がかけたということだ。

 誰が?


「リュナ」


 立ち上がろうとするリュナに声をかける。


「あれ? えっと……」


 忘却の魔術で俺のことを忘れているようだ。


「みんなあんたの帰りを待ってるよ。一緒に魔塔に帰ろう」

「みんな……?」


 意識がはっきりしてきたのか、徐々にリュナの目が大きくなっていく。


「あ……そうだ……私……私、お師匠様を……」


 リュナの体から赤黒い魔力が溢れ出す。

 魔力暴走!?

 だけど通常の魔力暴走とは様子が違う。

 普通は白い湯気のようなものが体から立ち昇り、そして一気に爆発のように噴出する。

 こんな赤黒い魔力が出る事例など、聞いたことがない。

 魔力暴走なのか迷っていると、立ち上がったリュナがモヤの魔術をかけて自身を封じ込めた。

 正確には、違う存在がリュナを通じて外からかけているのが視える。

 その存在に目を疑った。

 リュナの体に纏わりつく霊体。

 その姿は紛れもなく、キイラ女史だった。

 その霊体は俺をチラリと見ると、リュナの耳元に何かを囁く。

 すると瞬く間にリュナが眠りに落ちた。

 この一連の流れを見て、ようやく不可解な現象が理解できた。


 リュナはきっとキイラ女史の死に何らかの形で関わった。

 そのショックで魔力覚醒か魔力暴走を引き起こしたんだ。

 リュナを心配したキイラ女史は、死んでからもリュナの傍にいられるように一方的な契約を交わした。

 そしてリュナに二つの仕掛けを施す。

 それが魔力暴走を外に放出しないためのモヤの魔術と、魔塔に行けという暗示をかけた忘却の魔術。

 ……忘却の魔術をかければモヤの魔術は不要に感じるが、なにか狙いがあるのだろうか?

 これは仕掛けた本人(キイラ女史)にしか分からないか。

 だがリュナが契約相手を知らなかったのも、暴走中だったことを考えると頷ける。

 死んで霊体になったキイラ女史は、自ら行った契約によりリュナの体に縛られることになった。

 だがそのおかげでリュナに異変があれば、一方的な介入が出来るようにはなったというわけだ。

 これを俺に気付かせたくて、わざと姿を現した可能性は高い。

 恐らく仕掛けを解除しろと言いたいのだろう。

 けれどそれにはリュナにキイラ女史の死を受け入れさせなければいけない。

 どうすればいい?

 目を覚ました時のリュナの様子は、キイラ女史の死に重く責任を感じているようだった。

 自分のせいで大切な人が亡くなる辛さ……か。

 だがこのまま寝かせておくわけにもいかない。

 魔塔に行くという使命が終わった今、目覚めても忘却の魔術が繰り返されるだけになる。

 キイラ女史の望む通り、ここにいる俺でなんとかするしかない。


 内側から治癒魔術をぶつけると、治癒テープと同じ現象が起き、モヤの魔術は消失した。

 すると先程と同じようにぼんやりとリュナが目を覚ます。

 そんなリュナの両肩を掴み、自分に向かせた。


「リュナ。俺を覚えてる?」


 リュナは思い出したように目を見開く。


「あ……私、お師匠様を……」


 先程と同じように動揺し始めるリュナ。

 これじゃあまた同じことを繰り返すだけになってしまう。

 焦りが生じた時だった、背中を強い力で押されて前のめりに倒れる。

 体を支えようと、咄嗟に地面に手を突く。

 支えきれたと安心したのも束の間、唇に柔らかい感触が広がった。

 目の前には零れ落ちそうなくらい目を広げたリュナの姿が映る。


「ごめん! これは事故で……」

「わ……分かってます。大丈夫です」


 すぐに離れて言い訳をしようとしたが、止めた。

 俺自身は嫌な気持ちにならなかったからだ。


「俺は嫌じゃなかったけど、あんたが嫌だったら謝るよ」


 照れくさくなりリュナから視線を逸らす。


「わ……私も……嫌じゃないです……」


 段々小声になりながら俯くリュナ。

 チラリと背中を押した二羽の存在を見ると、気まずそうに視線を逸らす。

 たぶんキイラ女史に脅されてやったような気がする。

 暴走を防ぐためとはいえ、自分が可愛がっていた弟子の唇を利用するなよな。

 もしリュナが嫌がっていたらと思うと……俺がショックで立ち直れない。

 しかし話を聞くなら他のことで気が逸れている、今しかない。

 自分の唇に触れているリュナの手を取る。

 驚いた顔が、俺を見つめた。


「どんな話をされても傍にいるから、ここで何があったのか教えてくれる?」


 リュナが悲しそうに目を伏せる。

 そして握っていた俺の手を離した。

 離されたことに密かにショックを受ける。


「先輩には言えません」


 首を横に振るリュナの目から、大粒の涙が零れ落ちる。


「だってお師匠様を愛している先輩に話すのは、酷過ぎますから」


 ん? ちょっと待って。


「誰が誰を愛してるって?」

「先輩がお師匠様を?」


 二人して首を傾げる。


「えっと……なんでそんな話になってるの?」

「お師匠様の話をしている時の先輩の顔が……愛おしそうだったので」

「……それ、いつの話?」

「外でサンドイッチ食べた時に……」

「……懐かしいとは思ったけど、愛おしいは微塵も感じない」

「でも、見た事がないくらい優しい顔をしていましたよ?」

「あ……あれは……」


 リュナとキイラ女史の話が共有できて嬉しくなっただけなんだけど……。


「あんたはお師匠様が大好きなんでしょ? だからその大好きなお師匠様の話が出来て、あんたの気晴らしになっていればいいなって考えてたの」

「気を遣ってくれていたんですね……」


 リュナが真っ赤な顔で俯く。

 誤解が解けて、勘違いしていたことが恥ずかしいのだろうか?

 溜息を吐きリュナに向き直る。


「俺はあんたのお師匠様よりも、あんたの方が心配なんだ。だからあんたが抱えているものを、俺にも抱えさせてくれない?」


 噤んでいた口がわずかに開かれ、衝撃的な言葉が飛び出す。


「……お師匠様を殺したのは……」


 覚悟を決めたような眼差しが向けられる。


「私なんです」





読んで頂き、ありがとうございます。

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