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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
24/72

異変(アシル視点)

 雨が激しく窓を叩く。

 リュナが帰省して数日が経った。

 そろそろ着いた頃だろうか?

 心配になり窓の外を眺める。


 リュナが初めて魔塔に来た日、使い魔を使ってエルメルから手紙が届いた。

『キイラ女史の弟子と名乗る子が、街中で闇魔術を使った。キイラ女史の黒い手帳を持っている』

 それだけで察した。

 危険だと。

 キイラ女史の研究は神の逆鱗に触れそうなものが多い。

 だが、魅惑的なその研究を欲する者が陰にいるのも事実だ。

 つまりキイラ女史の研究の詳細が載っている黒い手帳は、悪用されれば世界を手中にできる可能性も秘めているものでもある。

 リュナに会い、黒い手帳を見てさらに危険を感じた。

 純粋無垢な少女に持たせるものではない。

 そんなことはキイラ女史も重々承知しているだろう。

 だがそれでも彼女に持たせた理由。

 黒い手帳ごと、俺に守らせたいということか。


 リュナからキイラ女史の話を聞いた翌日、俺は早速キイラ女史の状況を確認するために使い魔を飛ばした。

 だがリュナのいう『あっちの山の方に家がある』だけでは範囲が広く、上空から異変がないかの確認しか行えない。

 空からの探索では特に異変のある様子はなかったそうだ。

 だとしたらキイラ女史は地下に潜った?

 魔塔の自室に地下部屋を造って、怪しい実験とかしていた記憶が蘇る。

 当時を思い出して溜息を吐く。

 魔塔が自由に改築できなくなったのも、あの人の影響だ。

 魔塔にいる頃からあの人の思考は、常人では理解できない域を超えている。

 そのため、よくわからない方面から度々命を狙われていた。

 しかしそんなものはもろともせず蹴散らしているあの人の姿を思い出すと、心配するのが馬鹿らしくなるくらい元気でいる気もする。

 そのため俺は一旦、リュナと黒い手帳の保護に尽力することにした。


 リュナは少し変わっていた。

 純粋というか無知というか。

 辛い経験をしてきた魔塔士ではなかなか見ない性格だ。

 だからなのだろうか。

 彼女が来てから魔塔に変化が起こった。

 魔塔士長の座を狙っていた魔塔主任が動き出したり、問題児だったコハナ魔塔士生が意外にも面倒見が良かったり。

 本人は利用する目的で近付いたつもりだろうが、毒気を抜かれて面倒を見てあげているのには関心した。

 しかしだからかもしれない。

 面倒を見ていたリュナが、魔塔主に言葉をかけてもらい、自分の真後ろにまで手が伸びてきたリュナへの嫉妬と焦りで過ちを犯した。

 魔塔主のおかげで本人はやる気を取り戻したが、俺は彼女が裏切っても友達だと言ったリュナの言葉が立ち上がらせたきっかけになっていると思う。

 幼い頃から奴隷だったコハナ魔塔士生は、貴族や使用人に見下されたりいいように使われてきた経験しかない。

 実の親ですら、お金に変えて利用したくらいだ。

 だから本人も知らず知らずのうちに相手を利用することだけ考えてきたのだろう。

 それが利用していると知ってもなお、友達だと言い切ったリュナに心が動いたのだと思う。

 もう二度と、彼女はリュナを裏切らない気がする。

 そしてマウノ下級魔塔士も、いじめにより人付き合いが苦手だったが、リュナの素朴さに安心したのか、最近では素の自分を出せるようになってきた。

 二人の変化は魔力暴走を防ぎたい魔塔にとっては、良い変化ともいえる。

 それは俺も同じかもしれない。

 彼女は俺を魔塔士長だとか、とっつきにくいなどと考えない。

 だからこそ一緒にいるのは居心地がいい。

 リュナの笑顔を思い出して頬が緩む。

『あれ? 君、顔が赤くなってない?』

 揶揄うようなエルメルの顔が浮かび上がり、思わず自分の頬を叩く。

 彼女が素直だから可愛いと思っただけで、深い意味はない。

 眷属を付けてあげたのだって、他意はない。

 確かに知っていたあの二人は驚いていたけど。

 本来自分の使い魔の眷属を、他人のために使ったりはしない。

 様々なリスクが発生するからだ。

 使い魔は契約者の魔力で能力が使えるようになるのだが、それは眷属も同じで、眷属を使用するということは使い魔と眷属両方に魔力を供給しなければならなくなる。

 魔力不足に陥る危険もあるため、眷属を他人のために使うことはしない。

 また、自分の使い魔がどんな生き物かを他者に知られてしまうリスクもある。

 それにもし眷属を奪われ人質? 眷属質? にされた場合、自分の使い魔は眷属を取り戻すまでは契約者が命じても他のことでは動かなくなる。

 だから余程のことがない限り、眷属を他者に付けることはしないのだ。

 それを眷属を受け取った本人が知らないのは少し安心した。

 知っていたらなんか恥ずかしいから……。

 いや、別に心配で付けただけなんだから、恥ずかしがることじゃないでしょ。

 帰ると言い出した時だって、突然だったから驚いただけで寂しくなんて……。

 って俺、なに自分に言い訳してんの?

 雑念を払うように頭を振る。

 仕事をするために机に向かうと、自分の魔力に歪みが生じた。

 眷属に何かあった?

 俺は急いで部屋を出て、魔塔の最上階にある見晴らし台に向かった。

 するとそこには俺の使い魔がすでに到着しており、一ヶ所をジッと見つめていた。

 あの先で何かがあったということだ。


「飛べそうか?」


 俺が尋ねると、『もちろんだ』と頭の中に声が響く。

 俺は使い魔の顔を撫でた。


「飛ぶ準備をしておいて」


 俺はその場を離れた。

 プレートが並ぶ部屋でステルスの魔術を解除すると、一枚の他とは違うプレートが出現した。

 そこには『魔塔主』と記載されていた。

 魔塔士長が魔塔を空けるには事前に魔塔主の申請がいる。

 時間があれば手紙で送ればいいだけなのだが、今回は時間がない。

 できることなら使いたくはなかったけど……。

 溜息を吐きながらプレートに鍵を差し込む。

 するとプレートに『可』の文字が浮かびあがった。

 再びプレートを消し、隣の部屋に移動すると中央の板が光っている。

 これに乗れば魔塔主のところに行ける。

 意を決して板の上に乗った。



 到着したのは魔塔ではない、巨大な屋敷の一室だった。


『待っていたわよ、アシル』


 俺を出迎えたのは、魔塔主の使い魔の猫だった。


『主のところまで案内するわ』


 猫は俺に背を向けると歩き出す。

 猫が案内したのは、魔塔主の執務室だった。

 中に入ると猫は大きなソファーの上でくつろぎ始めた。


「あなたがこの屋敷に足を踏み入れるなんて、珍しいこともあるものですね、アシル」


 執務中だった魔塔主は立ち上がると、ソファーに座るよう促す。


「火急の用なので要件だけ伝えたら、すぐに戻ります」


 俺はソファーに座ることなく、入口に立ったまま答えた。


「そうですか。それは残念です」


 残念とも思っていないような口振りで、魔塔主がソファーに腰をかける。


「それでは火急の要件とやらでも聞きましょうか」

「リュナ中級魔塔士の帰省を許可したのですが、その先で異変があったようです」

「異変とは?」

「……分かりません」

「分からないのに異変があったと?」

「俺の使い魔も感じ取っているので、間違いないです」


 面白そうに魔塔主がクスリと笑う。

 コハナ魔塔士生あたりなら惚れ惚れするだろうが、俺にはゾッとするような笑みだ。


「自分の眷属を彼女に付けたと素直に話せばいいではないですか」


 最初から無駄な小細工など利く相手ではなかったというわけだ。


「ご存じなのでしたら、魔塔を離れる許可を下さい」

「あなたが自ら動くほどの事態なのですか?」

「彼女の居場所は俺の使い魔にしか分かりませんから。それに眷属のことをご存じなら、眷属を取り戻すまで俺の使い魔はそのこと以外では動かなくなります。それを分かった上での、ご質問でしょうか?」

「こういう事態のために、わざと眷属を付けたのではないかと疑ってはいますけどね」


 探るような目で見つめられて視線を逸らす。


「いいでしょう。許可しましょう」


 素直に胸を撫でおろしたいところだけど、たぶんこれでは済まないだろう。


「ただし……」


 やっぱりね。


「後日、あなたには然るべき罰を受けてもらいますよ」


 きっととんでもない罰を突き付けられそうだ。





読んで頂き、ありがとうございます。

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