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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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帰省

 持っていたペンが机に転がる。


「急にどうしたの?」


 里帰りをしたい旨を伝えに、先輩の部屋を訪ねていた。

 ペンは里帰りをしたいと伝えた時に、先輩の手から落ちた物だ。


「魔塔に来てから一度も帰っていないですし、お師匠様がご無事かも確認したいと思いまして……」


 先輩の顔を見るのが辛くて、俯いたまま返答する。

 無言の先輩をチラリと窺う。

 口元に手を当てて、考え込んでいるようだ。


「駄目でしょうか……?」

「駄目というわけじゃないけど、あんたの場合、事情が事情だから。あんたのお師匠様が今、どんな状態かも分からないし」


 私が帰ることで、お師匠様の身に危険が及ぶことを心配してるんだ。

 目の前が涙でぼやける。

 泣いちゃ駄目だ!

 今泣いたら、先輩が変に思っちゃう!


「だ……大丈夫です! 家の様子を見に帰るだけですから。なにかあればすぐに戻ります!」


 悲しい気持ちを押し殺しながら、作り笑顔を向けた。

 それでも先輩はお師匠様のことが心配なのか、浮かない顔をしている。

 噂では聞いていたけど、失恋って想像以上に辛いのね!

 涙を堪えながら天井を見上げる。


「俺も一緒に行こうか?」


 思わぬ提案に、驚きで涙が引っ込む。


『いえ! 失恋の傷心旅行も兼ねてますので!』


 とは言えない。


「そこまでして頂かなくても大丈夫ですよ。私も魔塔で色々な魔術を勉強しましたし、いざとなればお師匠様の盾にもなれますから!」


 もしかして、先輩もお師匠様に会いたかったのかな?

 でも先輩を連れて行って、お師匠様に向ける先輩の顔を見ていられる自信がない!


「いやいや。そんな事態になるなら、あんたのお師匠様を放って一早く逃げて。あの人強いし」


 先輩の優しさに止まっていた涙が再び溜まりだす。


「え? どうしたの?」


 突然潤みだした目に驚いた先輩が、目を見開く。


「先輩の優しさが目に刺さっただけです」

「目に刺さったら、痛くない?」


 今の私には、先輩のどの言葉も刺激物です。

 腕のローブで涙を拭う。


「すぐに戻って来ますから、少しだけでも駄目でしょうか?」


 再三の要求に先輩が立ち上がり、窓を開けた。

 窓の外には先輩の使い魔の鳥が枝の上に立ち、こちらを見つめていた。

 なにかやり取りをしているようだが、先輩の背中でよく見えない。

 先輩がこちらを振り返ると、手のひらの上に「ぴーっ!」と元気に鳴く小鳥を乗せていた。

 もふもふ! 可愛い!!

 目を輝かせて小鳥を眺めていると、先輩が小鳥を私に差し出した。


「この子は俺の使い魔の眷属。何かあれば俺の使い魔に伝わるから、この子を連れてって」


 小鳥は小さな羽をパタパタと動かして、私の肩の上に乗った。


「ぴぴっ!」


 任務の挨拶なのか、片方の羽を上げて短く鳴く。

 心なしか顔も凛々しそうだ。

 一人旅よりも楽しくなりそうな予感に頬を緩ませるも、ハッと我に返る。

 先輩の使い魔に伝わるということは、私の言動が先輩に筒抜けになる!?


「その……どこまで先輩の使い魔の鳥さんに伝わるのでしょうか?」

「まだ小さいし、異変があるかないかくらいかな。危機的状況になると、固有の波動かなにかで伝わるみたい」


 会話しても伝わらないことに安堵した。

 だって暇な時とかに、先輩の話とかしちゃいそうだもん。


「よろしくね」


 小鳥の首を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。



 翌日。

 荷物を手に入口に立つ私。


「本当に気を付けてね」


 見送りに来てくれた先輩が心配そうに声をかけてくれた。

 先輩の隣に立つ二人が、その光景を眺める。


「……絶対勘違いじゃないの?」

「う~ん……僕もそう思いますけど……」


 二人がこそこそと話をしている。

 そんな二人に視線を向けた。


「二人とも見送りありがとう」

「まあゆっくりしてくるといいわよ。魔冷庫はあんたの助手の私が進めておくから」


 頑張っているという先輩へのアピールだろうか。

 苦笑っていると、マウノが首を傾げる。


「先程から気になっていたのですが、肩の小鳥はなんですか?」

「ああ。先輩の使い魔の眷属なんだって」

「「眷属!?」」


 二人が声を上げると、先輩が咳払いをした。


「それはいいから、なにかあればすぐにこの子に伝えてよ」

「はい」


 笑顔で先輩に返事をする。

 口を開けて固まったままの二人と、心配そうな先輩に手を振って、お師匠様のいる村へと出発した。



 乗り合わせの馬車と徒歩を使ってようやく村にたどり着く。

 ここから家に向かうには、さらに山を登らなければならない。

 家に向かって村を横切っていると、民家の前を掃除していたおばさんが私に気付き、声を上げた。


「リュナちゃん! 無事だったのかい!?」


 驚くおばさんに首を傾げる。


「一年くらい前に山の方から大きな音がして以来、あんたもキイラさんも姿が見えないから、みんなで心配していたんだよ! 様子を見に行ったら家は壊れているし……」


 一年前というと、私が魔塔に向かったくらいの頃だ。

 私、みんなに黙って出て行ったんだっけ?


「ごめんなさい。お師匠様に言われて王都にある魔塔に行っていたんです。ところでお師匠様も家にいないのですか?」

「それなら良かったけど、あんたもキイラさんも一年前のあの日以降、姿を見てないよ」


 先輩が言っていた危険に巻き込まれているのだろうか?

 不安が過る。


「私、ちょっと家の方を見てきますね」


 おばさんへの挨拶もそこそこに、山へと向かう。

 一歩ずつ木々が生い茂る山道を登る度に、全身の感覚が警鐘を鳴らす。

 まるでこれ以上近付くなと言われているようだ。


「ぴっ?」


 小鳥が心配そうに声をかけてくる。


「大丈夫だよ」


 小鳥の顔を撫でるも、その手が震えている。

 一体何に震えているの?

 重い足を引きずりながら、ゆっくりと登っていく。

 すると、木々の隙間から懐かしい家の屋根が見えてきた。

 最後の力を振り絞って駆け上ると、窓は割れ、入り口の扉も壊れた家が静かに佇んでいた。

 その家を見た瞬間、逃げろというお師匠様の叫び声のようなものが頭に響く。


「そうだ……この家……」


 お師匠様は誰かに狙われて、それで……。

 一歩後退りをして、さらに奥の山に目を向ける。

 心臓がドクドクと激しく打ち付ける。

 体は恐怖で震えているのに、確認せずにはいられなかった。

 私は、家のさらに奥の山に向けて足を動かす。

 歩いていると、当時、私がお師匠様を追いかけてこの道を走った光景が蘇る。

 私はどうして忘れていたんだろう……。

 険しい山道を登り切った先に見えたのは、澄んだ広い平原。


「ぴっぴぴぴぴっ!!」


 小鳥が私の目を覚まさせるように叫んでいるも、今の私の耳には届かない。

 聞こえたのはお師匠様の声。


「ごめんね、リュナ。これが最後の意地悪だから」


 そうだ。私がお師匠様を……。


 殺したんだ。





次話からしばらくアシル視点になります。

読んで頂き、ありがとうございます。

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