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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
22/72

初恋は実らない?

 結局、普通のサンドイッチランチを作りお誘いをすることで、話はまとまった。

 だが問題はどうやって先輩を誘うかだ。

 気分転換だと言って誘えばいいとマウノは言うけれど、恋しちゃった私にはその誘うのですら難易度が高い。

 意識する前の私ならなんの気兼ねもなく誘っていただろうけど、今は……。

 ドームの部屋にある円盤の鉄の板が、先輩の部屋に通じる光を放つ。

 ゴクリと唾をのみ、板の上に立った。


「契約についてなら、まだ調べてる最中だけど?」


 先輩の部屋に到着早々、書類から視線を逸らさず声をかけられる。

 忙しそうな先輩の姿を黙ったまま眺めていると、先輩が顔を上げた。

 なんだかいつもより格好良く見えるのは、気のせいだろうか?

 持っているバスケットの持ち手に力が入る。


「どうしたの?」


 黙ったままの私を心配した先輩が、ジッと見つめてきた。

 その視線に緊張が走る。


「あ……あ……あ……あの……これ! お礼です!」


 勢いよくお辞儀をしながら、持っていたバスケットを前に差し出す。

 間違えた!!


「じゃなくて! お礼を作ったので、一緒に行きませんかって言いたくて……」


 あれ? 支離滅裂?

 自分が何を言っているのか分からなくなり首を傾げていると、ぷっと吹き出す声が聞こえてきた。


「何か作ってきてくれたってこと? それならそうと言えばいいのに」


 おかしそうに笑う先輩に、胸がキュンキュンと小さく締め付けられる。

 その顔、反則です。



 恥ずかしくてバスケットだけ置いて帰ろうとする私に、先輩から外で食べようと提案された。

 全く計画通りではなかったが、誘う? 誘われたミッションはクリアした。

 私が魔塔に来た翌日に、魚を獲った川が見える近くに敷物を敷く。

 その上に作ってきたサンドイッチを広げた。


「すごいたくさんの種類を作ってきてくれたんだね」


 先輩の事を考えながら作っていたら、いつの間にか盛りだくさんになっていたのだ。


「先輩がどんな食べ物が好きか分からなくて、色々作ってみたんです」


 野菜から魚、ハムや卵、そして気付けばフルーツサンドまで作っていた。


「サンドイッチはお手軽だから、結構好んで食べるよ」


 それは仕事をしながら食べられるから、という意味でしょうか?

 先輩がまず手にしたのは、卵サンド。

 コハナが言っていた。

 最初に手を出した物がきっと好物なのだと。

 目を光らせて見ていると、視線に気付いた先輩が手に取った卵サンドを私に差し出してきた。


「もしかしてこれ、食べたかった?」

「いえいえいえ!」


 首を横に大きく振って視線を逸らす。

 卑しい子だと思われたかも……。

 不安に駆られていると、一口食べた先輩が唸る。


「いつも食べているのより、美味しい」

「ほんとですか!?」


 嬉しさのあまり目を輝かせる。


「うん」


 サンドイッチを口に加えながら、先輩が頷く。

 お師匠様は食べれればなんでもいい人だったから不安だったけど、自分の舌を信じてよかった。

 すると先輩が食べかけのサンドイッチを眺めながら、ポツリと言った。


「そういえば昔、あんたのお師匠様にも無理矢理外に連れ出されたことがあったよ」


 隣に座る先輩を見上げる。


「あの人、本当に無茶苦茶な人だったよ。魔塔を担保に借金作るわ、食堂に大量の酒を持ち込んで魔塔士達を酔わせるわで、当時の魔塔士長はそれで寝込んだからね」

「……なんか、すみません」

「だけどあの人はあの人なりに、魔塔士達の憂さを晴らさせようとしていたのかもしれない。完全に心を壊していたけど」


 だからクラッシャーなのね。


「俺も最初はあの人の言動に、随分苛立たせられたよ」


 懐かしむように話す先輩の姿に、なんだかもやもやとした感情が沸き起こる。

 私の知らない先輩とお師匠様。


「だから魔導具作製に熱中していた俺を、外に連れ出した時に怒鳴り散らしたんだ。そしたらあの人、なんて言ったと思う?」


 先輩が当時を思い出しながら笑う。


「『そんなに怒ってお腹空いたでしょ。ほら、食べな』ってどこに潜ませていたのか分からないサンドイッチを取り出して、俺の口に無理矢理ねじ込んだんだ。そしたらあの人、そのサンドイッチに睡眠薬なんて入れていて、俺は翌朝までぐっすり寝たよ」


 マウノのコハナへの指摘じゃないけど、薬を混ぜ込む人っているんだ。


「朝起きたらあの人のローブがかけられてた。昼夜関係なく必死で魔導具を作っていたから、なんだか頭もすっきりしてたよ。結局風邪を引いて、玉子酒とかいう酒くさい物を飲まされて、余計に悪化したけどね。でも……」


 お師匠様を思い出す先輩の微笑みに、確信した。


「なんだか嬉しかった。自分にもまだ、心配してくれる人がいるんだというのを知れたから」


 先輩の顔を見ていられなくなり、膝に顔を埋める。

 先輩はきっと……。




「はぁ!? 魔塔士長がキイラ女史を好き!?」

「コハナ。声が大きい」


 食堂のテーブルに突っ伏している私から、事情を聞いたコハナが声を上げる。


「だいたい誰がそんな面白い話をしたのよ」

「先輩の顔を見ていたら分かるよ。あれは私と同じ、恋する顔だった」

「この前初めて恋愛を知った人間が、何言ってんのよ」

「魔塔士長が好きだと言ったわけではないのでしたら、リュナさんの思い込みという可能性もありますよ?」


 思い込みなんかじゃない。


「あんな優しそうな顔をする先輩は初めて見たもん」


 今思い出しても泣きそう……。

 二人が顔を見合わせる。


「いや。絶対思い込みよ。だって、キイラ女史を好きなら、私の事なんてもっと好きになるはずだもの」


 やっぱりお師匠様の地位を狙ってる?


「コハナさんは打算的なところが見え見えなのが、問題なのだと思いますよ」


 コハナはマウノの指摘に嫌気がさしたのか、打ち消すように声を上げた。


「あーもーまどろっこしいわね。私が聞いてきてあげるわよ」

「やめてよ。それじゃあ先輩が私の想いに気付いちゃうでしょ」

「そうですね。僕達は魔塔士長がどんな顔をして話していたのか知りませんから、下手に手を出して本当だったら……」


 チラリとマウノが私を窺う。


「じゃあどうするってのよ。あんた諦められるの?」


 コハナの問いに黙り込む。

 確かに先輩がお師匠様を好きかもしれないと思った時はショックだった。

 だけど私にとって二人は大好きな人達だから、その人達が幸せになるなら応援してあげたいとも思う。

 ぼたぼたと落ちる涙で、テーブルの上に水溜まりができる。


「……お師匠様に、会いたい……」

「キイラ女史に会いたいなんて言い出すのは、あんたくらいよ」

「でも気晴らしに、一度里帰りしてみてもいいのではないですか?」


 マウノの提案に、涙でぐちゃぐちゃになっている顔を上げた。


「里帰りなんて出来るの?」


 魔塔に属したら、ずっと魔塔にいなければいけないのかと思ってた。


「僕も魔塔にきた当初はよく帰っていましたから、里帰り自体は問題ないですよ」

「でもいいの、あんた」


 コハナが肘を突きながら意味深に言う。


「許可を出すのって、魔塔士長よ」


 どんな顔して会えばいいの!?





読んで頂き、ありがとうございます。

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