普通が一番
いつものように食堂に集まった私達。
真剣な顔で悩む私を、二人が窺う。
「リュナさん、なにかあったのですか?」
マカロンの出所は不明のままだが、この話は先輩と二人だけの秘密だと約束したから話せない。
二人だけの秘密という言葉に頬が緩む。
「真剣な顔をしたり、にやけたり、気持ち悪いわね」
「気持ち悪いってなによ」
コハナを睨むとマウノが声を上げる。
「あっ! 僕、なんとなく分かっちゃいました。魔塔士長の事を考えていたんじゃないですか?」
「ちょ……ちょっと!」
咄嗟にマウノの口を塞ぐ。
別に悪口を言っているわけじゃないのに、先輩に知られるのが恥ずかしくなったからだ。
「ああ……そういうこと」
コハナが不敵に笑う。
「別にやましいことなんか、考えてないわよ。ただ……いつもSさんにはお世話になっているから、なにかお礼をしたいと思っているだけだから」
「伏せ字を使ってきましたよ」
「伏せ字を使うような話じゃなかったわよね」
二人がひそひそと話す。
「だけどよく考えたら、Sさんは何が好きだとか、どんなことをされたら嬉しいかとか、私、何も知らなくて……」
「本人に聞けばいいじゃない」
「忙しい人なのに、そんなことで邪魔したくないの」
「完全に乙女化してるわね」
「え?」
「リュナさんが可愛いって意味ですよ」
「マウノも可愛いよ」
「それ、僕的には嬉しくないですから」
「そうなの!?」
男心が分からない。
「リュナさん、可愛いですよ」
「? ありがとう?」
また可愛いと言い出すマウノに首を傾げる。
「リュナさん。僕に可愛いと言われて、どう思いましたか?」
「嬉しいけど?」
「では魔塔士長に言われた時はどうでしたか?」
エルメル先生に言わされた時やコハナと絡んだあとに言われた、可愛いを思い出す。
途端に顔が熱くなる。
「あんた、完全に魔塔し……」
立ち上がり、向かいに座るコハナの口を塞ぐ。
「Sさんって言ってくれるかな?」
「リュナさん、怖いですよ」
コハナに凄む私に、マウノが苦笑う。
言われてみれば、エルメル先生やマウノに言われた可愛いは、挨拶のような感じで受け止めていた。
でもよく考えれば、先輩だって挨拶のようなものかもしれないのに、なんだか恥ずかしくて、嬉しくて、舞い上がってしまいそうな気分になる。
「……私、そうなの……?」
「明らかにそうでしょ。どれのことを指しているか分からないけど……」
私の手が口から離れたコハナが、私の呟きにつっこむ。
ストンと力なく椅子に座る。
「これが……恋?」
「正解を指していたようですよ」
お師匠様に恋はロクなものじゃないと聞かされていた。
一文にもならないし、心理戦の応酬なのだと。
でも聞いていたよりずっと楽しくて、嬉しくて、会いたくて、でも恥ずかしくて……。
「私、恋しちゃったのね!」
「あんたが一番声、デカいから」
「やっと気付いてもらえたようで、良かったです」
どどどどど……どうしよう!
気持ちに気付いたら、先輩の顔が見たいのに、会うのに緊張する!
「あっちもまんざらでもなさそうだし、告白したらすぐに上手くいくんじゃないの?」
「そうですね。誰から見ても二人は両想いな感じはしますから」
「そ……そうなの? そんな風に見える?」
「見える」
「見えます」
でれ~っ。
「だから気持ち悪いから」
酷い。
「でもそうなると相手が意識しそうなお礼の方がいいかもしれませんね」
「そうね。二人をくっつけたら、評価も上げてもらえそうだし」
「コハナさん。動機が不純すぎますよ。さすがにそれで評価が上がることはないと思いますよ」
コハナはぶれないね。
「街でデートとかどうですか?」
「リュナは恋愛初心者なのよ。人が見ているところじゃ、恥ずかしがって進展しないわよ」
「じゃあコハナさんは何か良い案があるのですか?」
「そうねぇ……私なら誰もいない静かな場所で、二人きりがいいわね。さりげなく手が触れるように仕向けて『あっ……』とか言っちゃって、その勢いで押したお……」
「それができるのはコハナさんのような肉食だけですよ」
確実にその案は真似できない。
「でも静かな場所っていうのはいいかもしれない。この前、精霊の森に言ったでしょ? あの途中の森でピクニックとかどうかな? 先輩は忙しいから、昼食の時間だけでもゆっくり過ごしてもらえるかも」
「悪くないかもしれませんね。気分転換に外でご飯を食べませんかと誘えますし」
「そういうことなら、手作り弁当ね。良い女アピールをする、絶好の機会よ」
「コハナさんは打算的すぎてなんか嫌です」
良い女アピール……。
「リュナさん。コハナさんは見習わない方がいいですよ」
真剣に考え込む私に、マウノが注意する。
「でも実際はどうなの? 手作り料理とか、男の人は嬉しい?」
私の身近にいる唯一男子のマウノに尋ねる。
「相手によると思いますよ。コハナさんの手作りなら絶対いらないです。何か混ぜてそうですから」
「私だってあんたに手作りなんか作る予定ないわよ」
相手による……。
「その点、リュナさんなら安心して食べられますかね。ただ……キイラ女史のお弟子さんだと考えると、どんな料理が出てくるのか恐怖ではあります」
くっ! ここでもお師匠様の弊害があるのね!
「お師匠様は食べられればなんでもいいの人だったから、料理は結構作ってた方だと思う。だから、大丈夫……な気はする」
お師匠様は美味しいと言って食べてくれていたけど、なんでもいいの人の舌だ。
本当に美味しかったのかあてにならない。
「あんた達、難しい料理を考え過ぎなのよ。どんな料理下手でも美味しく簡単に出来て、かつ、見た目も可愛い料理があるでしょ」
マウノと二人で首を傾げる。
「それは……サンドイッチよ!!」
そうか! サンドイッチなら……。
「って、具を挟むだけじゃない!!」
チッチッチッ。とコハナが指を動かす。
「挟むだけと思ったら大間違い。パンに具を乗せたらその上にマヨネーズでハートマークを書くの」
「でもその上にパンを乗せますから、潰れますよね?」
「じゃあサンドイッチ自体をハートマークにするってのは、どうよ!」
「蓋を開けたらハート型だらけのサンドイッチって、それ……ドン引きますよ」
マウノの言う通りだ。
アピールが強すぎる。
「あんた文句ばっかりね! 少しは案を出したらどうなの!?」
コハナがマウノに掴みかかる。
「僕は……普通が一番だと思います」
私もそう、思います。
読んで頂き、ありがとうございます。




