使い魔
コハナはつかつかと早足で降りてくると、先輩が持っているゲージごと奪う。
そしてねずみを隠すように私達に背を向けた。
「そのねずみさん、コハナが飼ってるの?」
「ねずみじゃなくて、ハムスターよ! あんな小者と一緒にしないで!!」
ねずみじゃない!?
「そうなんですか?」
見分けがつかず、隣に立つ先輩に尋ねる。
「同じ齧歯類だけど、動物学的な種類分けでは違うとはいうね。使い魔ランクはどちらも一緒だけど」
使い魔ランク?
「見た目が小さいからってバカにしてるんですか!?」
コハナが先輩に噛みつく。
「本当のことを言っただけでしょ。それよりもどうすんの? 酷使されるか追放かになるけど? あんたの場合は外に出られないから、追放の場合死刑になるけどいいの?」
そうか。コハナは貴族を殺した罪人だった。
魔塔から追放ということは、予定通りの刑に処されてしまう。
「……追放でいいですよ。どうせ残っても未来はないですから」
投げやりなコハナの両肩を掴む。
「魔塔追放は嫌だって言っていたじゃない! 本当にそれでいいの!?」
「うるさいわね! 魔塔主様にも変なところを見せてしまったし、このまま魔塔士でいるくらいなら、死んだ方がましよ! どんなに頑張ったって、私は上級魔塔士にはなれないんだから!」
諦めのようなコハナの物言いに、怒りが込み上げる。
周囲にパシリと乾いた音が鳴り響く。
「そんなこと言わないで!」
頬の衝撃を感じたコハナが、自分の頬を押さえた。
「コハナにとって私は利用できる相手でしかなかったかもしれないけど、私にとってコハナは先輩を除いて魔塔で初めて声をかけてくれた友達なんだよ! そんな簡単に死んだ方がいいなんて、言わないで!」
「……あんたの傍にいたら、私はまたあんたの案を盗むかもしれないのよ……」
「だったら盗まれた案よりもっと凄い物作るから、大丈夫!」
「あんたは自分の案が他の人間に奪われて、悔しくないの?」
コハナが歯を噛みしめる。
案を盗んだことを後悔しているのだろうか?
「お師匠様が昔、言ってたの。この世で一番悔しいのは、自分が熱心に研究してきた物が闇に葬りさられることだって。今回のことでなんとなくその意味が分かった。盗まれただけならそれを超える物をまた作ればいい。だけど闇に葬られたら、二度とその物に触れることができなくなるって言いたかったのかなって、今は思ってる」
頬を押さえているコハナの手を握る。
「だから大丈夫! 何度盗まれたって、私はそれを超えるよう努力していくだけだから! それよりも私のことを色々心配して忠告してくれた、大事な友達のコハナがいなくなることの方が嫌だ」
黙り込むコハナに先輩が溜息を吐く。
「本来は言えないんだけど、今回の魔導具が盗んだ案じゃなければ、上級魔塔士に昇格させるつもりだったんだよね」
コハナが目を見開き先輩を見上げる。
「最近は悪戯もしなくなったし、下の者の面倒もよく見てるから、上級魔塔士にしてもいいかなとは考えてたんだ」
「え!?」
ショックそうにコハナが声を上げる。
「今回の件で白紙になったけどね」
「もっと早く言って下さいよ! 意地悪ですか!?」
「意地悪って……昇格の条件を言えるわけないでしょ。そもそも自分で考えた魔導具を作っていれば、問題にならなかったわけなんだから」
悔しそうにコハナが俯く。
「ねえ、コハナ。今回は白紙になっちゃったけど、また一から頑張ってみない? コハナの大好きな魔塔主様の期待を裏切ったまま、追放されることを選んじゃうの?」
「私は……」
コハナがなにか言いかけると、静かなホールに拍手が響いた。
「リュナ下級魔塔士の言う通りですよ」
まだいたの!?
拍手が聞こえてきた仕切りの奥に、目を向ける。
すると指を鳴らす音と共に仕切りが消え、モーヴシルバーの長い髪を一つに束ねた、深い青緑色の瞳の整った顔立ちの若い男性がこちらを見下ろしていた。
この人が魔塔主?
声の感じからも穏やかな若い人をイメージしていたが、想像以上の美形だ。
先輩も綺麗な顔をしているが、幼さがある分、魔塔主の方が洗練された美を感じる。
美形の腕には黒猫が気持ちよさそうに身を委ねている。
「私を慕ってくれているのは嬉しいですが、人の案を奪ってまで認められたいという気持ちは行き過ぎですね。私はあなたの作る魔導具を高く評価しているのですから、これからもあなただけの魔導具を作ってください」
美形から発せられる声は、まさしく魔塔主と同じ声だった。
コハナなど声も出ないようだ。
だが、それよりも私にはとっても気になっていることがある。
高々と挙手をして尋ねた。
「魔塔って、ペット可なのですか?」
コハナのねずみといい、魔塔主の猫といい、私も飼いたい!
お師匠様と一緒の時は、実験体にされてしまいそうで怖くて飼えなかった!
「あんた魔塔主様に向かって、何聞いてんのよ!?」
コハナが鬼の形相で、私に掴みかかってきた。
「だってペット飼うのに、憧れていたんだもん!」
もふもふしたり、一緒に駆け回ったりしてみたい。
私がペットライフに思いを馳せていると、先輩が小声で話しかけてきた。
「あの猫はペットじゃなくて、使い魔だから」
そういえばコハナのねずみの事も使い魔と呼んでいた。
使い魔って、何?
「この子は私の大事なパートナーです」
魔塔主が猫の喉元を優しく撫でた。
猫が気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「猫になりたい……」
私を掴んだまま、コハナがうっとりと呟く。
「使い魔は、もふもふしても許されますか?」
私の発言に魔塔主が吹き出した。
「ちょっと! 魔塔主様に変なこと聞かないでよ! 同類と思われるでしょ!」
「コハナはもふもふしたりしないの?」
「しないわよ!」
「そっか。小さすぎて、潰れちゃうかもしれないもんね」
「あんた、私の使い魔をバカにしてる!?」
「バカになんてしてないよ。小さくて可愛いと思ってるよ」
「それをバカにしてるって言うのよ!!」
私とコハナのやり取りに、魔塔主はクスクスと笑い、先輩は頭の痛い顔をしている。
「本当にあなたは面白い人ですね」
いたって真剣に話をしているのですが?
面白いと言われて、怪訝な顔で魔塔主を見上げる。
「アシル。彼女の使い魔を一緒に探してあげなさい」
「はい」
それだけ伝えると、魔塔主は忽然と姿を消した。
「それで? 使い魔って何ですか?」
ワクワクと目を輝かせて先輩に尋ねる。
「それよりも先に酷使か追放かの返事を聞かないと」
先輩がコハナを見た。
「私の魔導具が魔塔主様から高評価を受けているなら、これからも作り続けるの一択しかありませんから!!」
「現金だね……」
これでこそコハナですよ、先輩。
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