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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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ねずみの正体

 私が作成していた物と全く同じ魔冷庫が披露された。


「リュナさん! あれって……!」


 マウノが動揺したようにコハナの魔冷庫を指差す。


「凄い偶然だね! コハナも魔冷庫を作ってたんだ!」


 関心したように声を上げると、マウノが強く否定する。


「違いますよ! リュナさんの案が盗まれたんですよ!」

「え? でもコハナには魔冷庫の話、してないよ?」

「たぶん、あのねずみですよ!」

「ねずみさん?」

「あれはたぶん……」


 マウノが言いかけたところで、説明を終えたコハナに先輩が質問の手を挙げる。


「そうかリュナさんはレポートを提出しているから、もしかしたら魔塔士長が盗んだ案だと指摘してくれるかもしれませんね」


 しかし先輩の質問は全く違うものだった。


「コハナ中級魔塔士。この魔法陣の配置で本当に問題はないの?」


 この質問に、コハナも私も首を傾げる。

 魔法陣の配置? 問題ないと思うけど……。

 コハナも先輩の質問の意味が分からないのか、自信満々で返答する。


「問題はありません。何度も実験しましたから」

「そう……」


 先輩はそれ以上何も言わなかった。

 どうして先輩はこんなことを質問したんだろう?

 そこで魔法陣の配置を頭の中で見直す。

 あ! 先輩が言いたかったことって、これかも!

 先輩に名前を呼ばれて前に出る。


「今回、私が作った魔導具は、魔冷庫です」


 コハナと全く同じ魔冷庫が出てきて、会場がざわつく。


「説明はコハナ中級魔塔士と同じなので省きます」


 すると会場から盛大なブーイングが飛んでくる。


「人の案を盗むなんて、恥を知れ!」

「魔塔から追放しろ!」


 私はコハナの案を盗んでもいないし、恥じるようなことはしていない。

 だったら堂々と主張するだけだ。


「同じ物を作ってしまったことの、どこが問題なのですか? 役に立つ物なら、誰が作ったっていいのではないですか?」


 しかし火に油を注いだようで、ブーイングがさらに強まる。


「静かに」


 あまりの騒ぎに先輩が睨みながら一声かけると、会場が静まり返った。


「それで? 魔冷庫の説明は終わったの?」


 先輩が私に問う。


「いえ。先程の質問についての答えだけ変えたいと思います」

「ふ~ん……」


 先輩が興味深そうに唸る。


「先ぱ……魔塔士長の仰る通り、あの配置では問題があります」


 魔冷庫の蓋を開ける。


「私は上に付いている発動ボタンで、四方向に配置してある魔術を起動するように作りました。これでは発動の時差と魔力供給の強さが変わってしまい、均等に冷やすことができません」


 先程までブーイングをしていた会場が、いつの間にか私の話に聞き入っていた。


「少量の物を入れただけなら、問題はありませんでした。しかし、大量に物を詰め込んだ時、最後に起動する下の部分の冷却力だけ足りなくなってしまい、下の方だけ冷えが悪くなる恐れがあります」


 顔を上げて先輩を見る。


「それを指摘したかったのではないでしょうか?」

「よく気付いたね。何度も実験したからこその、気付きかな」


 最初に気付いたのは、作製者でもなんでもない先輩でしたけどね。

 しかし先輩のこの発言で、会場の視線は一斉にコハナに集中する。


「中級魔塔士が下級魔塔士の案を盗んだ?」

「なんて狡猾な人間なんだ」


 今度はコハナを責めだした。


「待って下さい! 私は案を盗まれてなんかいません! だってコハナは私が魔冷庫を作っていたなんて、知りませんでしたから」

「……知っていたんだよ」


 そう言いながら先輩は、隅に置かれていた箱を持ってきた。

 被せられていた布を外すと、ゲージが現れその中にいたのは……。


「あ! ねずみさん!」


 私の部屋にいたねずみだった。


「部屋は監視されていないからって、気付かれないとでも思った?」


 先輩に問われてコハナが青ざめる。

 このねずみの登場に、会場から怒号が響き渡った。


「使い魔を利用して案を盗んだのか!?」

「使い魔を悪用するなんて、なんて恥知らずなんだ!」


 なになになに!?

 私もねずみも怖くなり、先輩の方に体を寄せる。


「魔塔追放じゃ済まされない行為だ!」


 怒号に混ざり聞こえてきた言葉に、思わず前に出る。


「この魔冷庫は、どっちがいい物に仕上げられるか、競争していたんです!」


 コハナは魔塔追放を望んでいない。

 幽閉でもいいから、魔塔にいたいと願っていた。

 助けたい一心で言ってみるも……。


「さっきは知らなかったと言っていただろ!」


 そうだった!!

 私のバカ!!


「じゃ……じゃあ! 盗まれたのは私なんですから、コハナは私の魔導具の手伝いをするってのはどうですか? 私も一人で作るより、手伝ってくれる人がいてくれた方が助かりますし」

「そんなぬるい罰があるか!」

「いつ我々の案も盗まれるか分からないんだぞ!」


 怒号という名の風で体が揺れる。

 結局みんな、人のことより自分のことなのね。


「ぬるくならないように、こき使います!」

「お前みたいな奴が、こき使えるわけがないだろ!」


 ふぇ~ん……お師匠様、助けてーーーーー!!


「いいのではないですか?」


 会場を黙らせたのはお師匠様ではなく、魔塔主だった。


「彼女はキイラ女史のお弟子さんのようですし、人の使い方をよくご存じでしょう」

「「「「キラー女史の弟子!?」」」」


 会場中、大合唱である。


「この中にもキイラ女史のお手伝いをさせられた方が、いらっしゃるのではないですか?」


 楽しそうな声が聞こえてくる。


「ではアシル魔塔士長。あとはお任せしますね」


 お師匠様の名前が出た事で、阿鼻叫喚と化している会場を放置して、魔塔主は再び口を閉ざした。

 助けてくれたのは魔塔主だが、お師匠様に助けられた感が否めない。


「この状態で放置ですか……」


 怒りのような呟きが隣から聞こえてきた。

 見上げると先輩のこめかみが浮き上がっているように見える。

 気持ちを落ち着かせようとしているのか、先輩が深い溜息を吐いた後、手のひらを左から右へ流した。


『お前達は何も聞いていない。発表は何事もなく終わった。解散しろ』


 そして暗示を唱えるような声を発すると、それまで騒いでいた魔塔士達が静かになり、次々と規則正しく魔法陣で部屋に戻って行った。


「何が起こったのですか?」

「忘却の魔術だよ」


 先輩が私に答えながら、立ち去る魔塔士達の中で一人、佇んでいる人物に目を向けた。


「じゃあ早速、話を聞かせてもらおうかな? コハナ中級魔塔士」


 そこに立っていたのは、悔しそうに体を震わせたコハナだった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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