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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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魔塔士二年目

 魔塔に来て一年が過ぎようとしていた。


「最近コハナを見ないね」


 食堂で食事をしながらマウノに尋ねる。

 魔塔士長投票を行った査定会からコハナと話をしておらず、気になっていた。


「最近は部屋に籠っているみたいですね」

「何かあったのかな?」


 心配していると、マウノが躊躇いながら教えてくれた。


「たぶん、リュナさんが魔塔主様に褒められたことに嫉妬しているのかもしれません」


 そういえば魔塔主に声をかけられてからコハナと話していないかも。


「正直僕も羨ましいと思いましたし、コハナさんは魔塔主様に心酔していますからね」

「そんな……。コハナと話をしないと」

「止めておいた方がいいですよ。声をかけてもらえたリュナさんが何を言っても、コハナさんには嫌味にしか聞こえないと思いますから。リュナさんだって魔塔士長がコハナさんに期待していると言っている姿を見たら、どう思いますか?」


 先輩がコハナを褒めている姿を思い浮かべる。

 胸にモヤッとした感情が沸き上がった。

 なんか嫌だ……。


「マウノの言う通りかも」

「コハナさんもリュナさんが悪いわけではないと分かっていると思うんです。ただ、嫉妬の気持ちが抑えられなくて、しばらく距離を置きたいのではないでしょうか」


 コクリと頷く。


「リュナさんは素直で可愛いですね」

「ありがとう。マウノも優しくて素敵だと思うよ」


 笑顔で返す。


「これだけ態度が違うのに、気付かないものなのですね」

「何か言った?」


 マウノが小声で何か言ったようだが、聞き取れなかった。


「いいえ。リュナさんが魔塔士長を大好きなんだなって実感しただけです」

「お師匠様と同じくらい尊敬してる!」

「違う感情だと思いますけど……」


 マウノが苦笑いを浮かべる。

 意味が分からず首を傾げていると、話題を変えてきた。


「それよりも今回は何を作るのですか?」

「今回は魔冷庫を作ろうと思うの」


 実は治癒テープの件で王都の家にお邪魔した時に、魔冷庫がなくて気になっていたのだ。


「名前だけで判断すれば、冷たい倉庫でしょうか?」

「倉庫というよりは、小さい箱って感じかな? 実はお師匠様がお酒のおつまみに生魚の切り身をよく食べていたんだけど、もらった魚がすぐに傷むって嘆いていてね」

「生魚の切り身……」


 マウノが嫌そうな顔をした。


「新鮮な魚介類は結構美味しいよ?」

「そう……なのですか?」


 それでもマウノにとっては、あり得ない食べ方のようだ。


「お師匠様が絶対に傷ませないようにしてやるって意気込んで、自分のために魔冷庫を作ったの。それ以来、村では当たり前のように使われていたんだけど、王都にはなくってビックリしちゃった。あんな小さな村にもあるような物だったのに」

「似たような物がないわけではないですが、高価過ぎて貴族などのお金持ちしか持っていないかもしれませんね」

「ふ~ん。高価ってことは、使われている素材が高すぎるのかな? お師匠様なんか冷えればなんでもいいって簡単に作ってたよ?」

「あの方は規格外ですから……」

「とにかくお師匠様が作った物を、王都の一般家庭にも普及できるようにしてあげようと思ったの」

「たしかに魔冷庫があれば、食中毒などの問題も減るかもしれませんね」


 コクコクと大きく頷く。


「レポートも無事通ったし、一度お師匠様が作っているのを見ているから、早く完成できるかもしれない」


 今回のレポートは、魔塔士長が大好きな魔塔主任に見てもらったのだ。

 前回コハナに脅されたのもあり、魔塔主任に提出することに警戒していたのだが、私が裏で色々と先輩が選ばれるように頑張っていたことに好感を抱いてくれたようで、快く引き受けてくれた。

 これでレポート提出に怯える心配はなくなったわけだ。



 マウノと別れ、部屋に戻る。

 早速魔冷庫の作成に取り掛かるため、氷の魔術を発動したのだが……。


「キュッ!」


 小さく鳴く声が聞こえて、急いで魔術を解除する。

 魔術の勢いが落ち着くと、魔法陣の脇にいたのは……ねずみ?

 小さな丸い動物が、体を丸めて動かない。

 寒さで冬眠しちゃったのかも!

 魔導具の作製を一旦中止し、慌ててねずみを温める。

 こうしていると思い出すな……お師匠様が家に出るねずみを捕らえて実験に使用しようとしていたことを。

 あれは子どもながらに衝撃だった。


「私の家に住み着くなんて……良い度胸してるわね。宿代に、実験にでも付き合ってもらおうかしら」


 そう言いながらねずみを持ち上げるお師匠様に、ねずみと一緒に震え上がっていた記憶がある。

 それ以降、ねずみを家で見ることはなくなった。

 ねずみも野生の勘で察したのだろう。

 この家主は危険だと。

 温めながら回想にふけっていると、ねずみがわずかに動き出す。

 ゆっくりと目を開けたねずみの体が再び固まる。

 もしかして私が怖いのかな?

 ねずみから見て、お師匠様のように見えていたとしたら、かなりショックだ。

 毛布に包んで手の上で温めていたねずみを、箱の上に置いた。

 そして細かく刻んだ紙を底に敷いてあげる。

 ちなみにこの紙は、治癒魔術で失敗した魔法陣が描かれた、何万という残骸だ。

 紙が敷かれると、ねずみは隠れるように紙の中に隠れた。

 やはり怖いのかもしれない。

 若干ショックを受けながら、水と食べ物だけ用意してあげると、そっとしておいてあげることにした。


 その後ねずみはしばらくの間は箱の中にいたのだが、気付くといなくなっていた。



「結局ねずみは懐かなかったんですね」


 三回目の査定会がやってきた。

 隣に座るマウノに、いなくなったねずみの話をする。


「そうなの。ご飯は食べていたから元気になってお家に帰ったのかもしれない」

「……リュナさん、もしかしてそのねずみって……」


 マウノが何かを言いかけたところで、コハナが魔導具の発表のために前に出てきた。


「今回、私が作った魔導具は……」


 運ばれてきた見た事がある形に目を見開く。


「魔冷庫です」


 私が作りかけている魔冷庫と、そっくりじゃない!





読んで頂き、ありがとうございます。

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