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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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下級魔塔士

 査定が終わると、昇格が決まった魔塔士に新しいローブが支給される式が始まった。

 ローブはタンスに入れておくと自動で新しい物が支給されているそうなのでこの式自体が不要なのだが、魔塔士のやる気を引き出す目的で行われているらしい。


「リュナさん、残念でしたね」


 隣に座るマウノが式を眺めながら言った。


「医術塔の分野に手を出したんだから、仕方ないわよ。下級魔塔士に昇格しただけでも有難く思いなさい」


 そうなのだ!

 なんと、下級魔塔士に昇格したのだ!


「リュナ下級魔塔士」

「はい!」


 先輩に名前を呼ばれて元気に返事をしながら、立ち上がる。

 本来は、魔塔士生で魔導具を作ったら中級魔塔士まで格上げされるそうなのだが、コハナも言っていた通り、医術塔の分野という観点から減点対象とされた。

 だが、私はちっとも気にしていない。

 むしろ、初めての昇格に舞い上がっている。

 ランクにこだわっていたわけではないが、良い評価を受けるというのはやはり嬉しいものだ。

 ルンルン気分で先輩の前に出ると、ギロリと睨まれる。

 忘れてた……。

 余計な噂を流していることが、バレていたんだった……。

 錆びた魔導具のように首をギギギ……と動かし、先輩から視線を逸らす。


「ほんとお節介焼きだよね」


 お小言を食らいながら、裏生地が緑色のローブを手渡される。

 緑色を見て、再び気持ちが高揚してきた。


「はい!」


 受け取ったローブを抱えながら、先輩に嬉しそうに返事をした。


「喜んで返事を返されるような話はしてないけど?」


 すると査定が始まってから参加しているのかどうかすら分からなかった、仕切りの奥から声がかけられる。


「リュナ下級魔塔士。あなたの今後の活躍に、期待していますよ」


 前回も今回も魔塔主が昇格した者に声をかけたところなど見た事がない。

 それどころか初めてのことなのか、会場もざわつき始める。


「は……はい!」


 突然のことに驚いて、一瞬返事が遅れた。


「戻っていいよ」


 これ以上何もないと判断した先輩が、私に耳打ちする。

 席に戻ろうと振り返ると、無数の視線が私を一斉に注視していた。

 その視線は怖いものから驚きのものまで様々で、体に緊張が走る。

 同じ側の手足を同時に動かしながら、なんとか席に辿り着く。

 こうして異様な視線を浴びながら、二度目の査定会が幕を下ろした。


 今回も最後まで会場に残っていた先輩の背中を、柱の陰から窺う。

 柱の陰に隠れていることに気付いている先輩が、片付けをしながら溜息を吐いた。


「何か用?」


 片付けの手を止めずに、私に背を向けたまま声をかけてきた。

 肩がビクリと跳ねて、柱の陰から一歩外に出る。


「余計なことをして、怒っていますか……」


 恐る恐る尋ねると、先輩がゆっくりと振り返った。


「自分のことだけ考えろって言ったのに、全然言うことを聞かないからあきれてはいるかな」


 先輩は私達の心配を余所に、何度もそう言ってきていた。

 焦っているのは私達だけで、先輩がなにもしなかったのは、この結果を予想していたから?


「先輩は魔塔以外の票が入ることを知っていたから、なにもしなかったのですか?」

「そんなわけないでしょ。いつも通りやって票がなければ、それが俺への評価だって思っただけ。ただ、魔塔主様が投票を提案してきたから、なにか裏がある気はしてた」


 結局私がやったことは無駄でしかなかったってことだ。でも……。


「余計なことだと分かっていても、先輩に魔塔士長を続けて欲しかったんです……」


 申し訳ない気持ちから徐々に視線が下がる。


「誰が魔塔士長になっても、あんたがやることは変わらないのに?」

「変わります!!」


 勢いよく顔を上げると、先輩の目が見開かれる。


「私は先輩が魔塔士長だったから、お師匠様の元を離れても頑張ろうって思えたんです! 治癒テープだって、先輩じゃなければ作れませんでした!」

「……それは……そうかもね」

「それに……」


 指をいじりながら上目で先輩を窺う。


「先輩は私の心の拠り所なんです……」


 無反応のまま、一瞬間を置かれる。

 そして先輩は私から視線を逸らして、片手で顔を覆った。


「……まあ、あんたが独り立ちできるまでは、魔塔士長のままでもいいとは思ったけどね」

「ほんとですか!?」


 目を輝かせて顔を上げた私に、先輩がわずかに口角を上げる。


「あんたにとって赤いローブが一番似合っているのが俺しかいないなら、仕方ないよね」


 大きく何度も頷く。


「私、先輩の期待に応えられるような魔導具を、これからも作っていきますね!」


 両手を握り、気合を入れる。


「医術塔を刺激する物だけは止めてね」


 嫌な予感がした先輩が、注意を促す。


「そういえば、治癒テープについて医術塔があまり騒ぎませんでしたね」


 あれだけ主婦の間で騒がれているのに、医術塔が何か言っているという噂を聞かない。


「事前に話を付けておいたからね」


 片付けを再開しながら、先輩が答えてくれた。

 そういえば、医術塔も先輩に票を入れていたよね?

 眼鏡の話じゃないけど、先輩は医術塔と何か繋がりがあるのかな?

 ふと頭に浮かんだのは、興奮するコハナが言っていた先輩とエルメル先生の謎の関係。

 ……まさか……!?


「先輩……」


 震える声の私に異変を感じた先輩が、振り返る。


「体で代償を払っているとか……」

「ないから」


 即答された。

 すると先輩が少し躊躇うように教えてくれた。


「魔導具を……提供してるんだ……」

「魔導具?」

「ああ。といっても俺が作った物だけだけど。魔塔が医術塔に迷惑をかけた時なんかに、あちらが望む形で魔導具を仕上げて渡してるんだ」


 そういえば手術室で見た見慣れない装置達。

 あれも先輩が作ったということ?

 私が街に遊びに行った時も、医術塔の帰りの先輩に会ったことがある。


「もしかして街で先輩に会った時も、魔導具を渡しに行っていたのですか?」

「あんたがモヤの魔術をかけた状態で、手術しろってごねた件でね」

「え!? あの時は魔塔に属していませんでしたよ!?」


 まさかそんなところで先輩に迷惑をかけてたなんて、思ってなかった!


「結果的に魔塔に属したんだから、あちらとのわだかまりは少ない方がいいでしょ」


 だから私に自覚ないって言ってたんだ。

 そりゃあ言いたくもなるよね。


「じゃあ、今回の治癒テープも?」


 なんとなく答えは分かっているが、尋ねずにはいられない。

 先輩は溜息を吐きながら、頷いた。

 まさか自分のせいで先輩に多大なご迷惑をおかけしていたとか!

 ガバリと地面にひれ伏す。


「申し訳ありませんでした!!」


 号泣しながら謝ると、さすがの先輩も慌てだす。


「俺が勝手にしていることだから、そこまで責任感じなくていいから!」


 私を立たせて、ローブの埃を払ってくれた。


「私、いつか魔塔主任になって、先輩を支えますね!」


 埃を払ってくれていた先輩が、嫌そうに顔を上げる。


「それ、俺、魔塔士長辞めれないじゃん」

「だって先輩は赤しか似合いませんから」


 先輩が無になった。

 この時の私は気付いていなかった。

 陰から私達を見ていた人物に、仄暗い感情を向けられていたことに――





読んで頂き、ありがとうございます。

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