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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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投票結果

 私の話を聞いていた二人が顔を見合わせる。


「なに? 惚気話?」

「僕達の知らないところで、いい感じになっていますね」

「全然よくないよ……」


 お礼は言われたけど、結局説得はできなかった。

 再びテーブルに突っ伏す。


「そういう意味のいい感じではないのですが……」

「いっそのこと、治癒テープを諦めたら? そうすればあんたが言ってた、贔屓と誤解している魔塔士達は説得できるかもしれないわよ?」


 テーブルに額を擦りつけながら首を左右に動かす。


「治癒テープは完成させる。これは先輩が許可してくれた、唯一の治癒系魔導具だから。このテープが王都で評判になれば、それを許可してくれた先輩が認められるかもしれない」

「でも投票するのは私達だから、王都の人達の評判は関係ないでしょ」

「それでも何もしないよりは、全然いい」

「けれどあまり僕達が公に動くと、医術塔に波風を立てるかもしれませんよ?」

「そこに関しては考えがあるの」


 先輩が何気なく話していたある方法を使えばいいのだ。

 二人にその方法を耳打ちをした。



 そしてあっという間に決戦の日はやってきた。


 ホールの中央に立つ先輩と眼鏡。

 結局先輩は最後までいつも通りに仕事をしていた。


「二人とも開票しますが、いいですね? 票が多い方が次の魔塔士長となり、少ない方は上級魔塔士に降格となります」


 魔塔主がホールの中央に立つ二人に声をかける。

 眼鏡の方は相当自信があるのか、ほくそ笑んでいる。

 先輩は……相変わらずの飄々ぶりだ。


「では発表します」


 無駄な祈りと分かっていても、祈らずにはいられない。

 両手の指を絡めて強く目を閉じる。

 奇跡よ! 起きて!


「次の魔塔士長は、アシル」


 へ?

 魔塔主の声に顔を上げる。

 奇跡が起きて喜ぶところなのだが、どう考えても覆すのは難しかった状況だけに放心した。

 会場も予想外だったのか、ざわめく。

 だが一番納得がいかないのは、眼鏡だろう。


「これは魔塔主様の独断でしょうか!? 魔塔士のほとんどは私に票をいれてくれているはずです!」

「そうですよ。魔塔士のほとんどはあなたに入れていましたよ」

「ではなぜ、彼が魔塔士長に選ばれるのですか!? 投票で決めると仰ったのは、魔塔主様ですよ!?」


 興奮する眼鏡を魔塔主が静かに諭す。


「あなたは魔塔士長という仕事がどういう仕事か理解していますか?」

「もちろんです! 魔塔士達を統括し、魔塔を管理する仕事です!」

「それも仕事の一つです。しかし魔塔は魔塔だけで存在しているわけではありません」


 この場で魔塔主の言葉を理解しているのは、きっと先輩だけかもしれない。


「あなたは魔導具に使う道具を王都のお店で購入されているのではないですか? そしてせっかく作った魔導具も、使ってくれる者がいなければ意味をなさないですよね? つまり魔塔が存在できているのは、この国の一部として扱われているからです」


 魔塔主が言いたいのは、魔塔は外部の人達の助けもあって存在している。

 だから魔塔の長ならば、内部のことだけでなく、外部のことにも目を向けていなければいけないということね。


「それと、あなたが敵視していた医術塔からも、票とコメントを頂いています」


 カサリと紙を開くような音が聞こえる。


「『魔塔の面倒ごとに付き合わされるのは迷惑極まりないが、これでまた医術塔を敵視するだけの人間が魔塔士長になられても困る。そのため医術塔に所属する者の全票をアシル魔塔士長に投票する』とのことです」

「それはアシル魔塔士長が医術塔と結託しているという証拠です! むしろ罰するべきではないのですか!?」

「あなたは何か勘違いをされているようですね。確かに魔塔と医術塔は、政治的な思惑が絡んでいて厄介な関係ではあります。しかしだからといってただいがみ合っているだけでは国が分裂し、争いが起こるだけだとは思いませんか? お互いの仕えている者の信念は違えども、どちらも国に属している一機関にすぎません。だからこそ医術塔だからと毛嫌いするのではなく、魔塔の長ならば話し合いをする余地も持たなければいけないと言っているのです」

「……しかしこの医術塔の票は無効です! 私は医術塔の票が入るなど聞いていませんでしたから!」

「おや? 魔塔の長になりたいと言っている方が、人から教えてもらわないと動けないのですか? ちなみにアシルは魔塔士長に任命されたその日に、自分の判断で医術塔に挨拶に行っていますよ」

「医術塔と仲がいいアシル魔塔士長が、裏で画策して全票を自分に入れるように動いていた可能性もあります!」

「あなたが医術塔の票まで入ることを知らなかったのに、アシル魔塔士長は知っていたというのですか? 投票にすると提案したのは私ですよ? まさかあなたは私がアシル魔塔士長に便宜を図って、教えたと仰りたいのでしょうか?」


 穏やかな声に一瞬、棘のようなものが混ざる。

 さすがの眼鏡も俯いて黙り込んだ。


「そういえば王都で面白い噂が流れているのを知っていますか?」


 もう十分な気もするけど、まだ追い打ちをかけるの?

 この人、鬼だ。


「最近王都の主婦達から、治癒テープなる物を許可した魔塔士長の株が急上昇しているそうですよ」


 止めさしたの、私だった!!


 二ヶ月前の出来事を振り返る。

 食堂でコハナ達に耳打ちをした一ヶ月後に、私の治癒テープが発売された。

 先輩から魔術が剥き出しになるよりは、魔法陣に閉じ込めてテープを貼ったら発動するようにしたらどうかというアドバイスを受けて改良した。

 これによりテープが密着していれば発動した段階で膨らみが圧迫され、押すという工程を省くことができた。

 治癒テープらしさが一層増した。

 そして発売に伴い、私はある場所を訪れていた。


「あの時はありがとうございました。十分なお礼も言えず、申し訳ありませんでした」


 小さな古い家に招き入れられた私の前に、お茶が差し出される。


「息子さんのその後の調子は如何ですか?」

「エルメル先生とあなたのお陰で、今ではすっかり元気に走り回っています」


 この家は、私が王都に訪れた初日に助けた母子の住まいである。

 母子の主治医だった先生に教えてもらって、訪ねたというわけだ。


「それはよかったです。ところで、元気なお子さんですから切り傷や擦り傷に悩まされたりはしていませんか?」

「そうなんです。よく怪我をして帰って来るから心配しています。もし傷口が悪化しても、医術塔に行けるようなお金もありませんから……」


 この母子は医術塔の受付で、金銭的な面で門前払いされそうになっていた。


「あの……もしよろしければ、こちらを使ってみてはくれませんか?」


 差し出したのは治癒テープだ。


「これは?」

「私が作った治癒魔術が込められたテープなんです。傷などに効果があるので、お子さんに使用して感想を聞かせて欲しいんです」

「そんな高価な物を頂くわけには……」

「心配はいりません。一般家庭に販売するつもりで作ったものなので、みなさんに使って頂きたいのです。よろしければお知り合いの方にも配って下さい」

「わかりました」

「……それで、一つお願いがあるのですが……」


 躊躇う私に、母親が不思議そうな顔をする。


「もし使って凄くいい物だったら、今の魔塔士長のお陰だということをみんなに広めてもらえませんか?」


 私の提案に母親が微笑む。


「あなたは子どもの命の恩人ですから、それくらいお安い御用ですよ」

「ありがとうございます!」


 しかし予想外の方向にこの治癒テープが活躍することになった。

 それは普段家事をする主婦達の、手のあかぎれに重宝したのだ。

 実際に使用した人達が興奮しながら伝えたことで、噂は瞬く間に拡散されていった。

 さらに許可を出した先輩の顔立ちがいいことも、主婦の女性心をくすぐった一因になったようだ。

 これは手指治癒テープバージョンも作った方がいいのだろうか?


「アシル魔塔士長は何か心当たりはありますか?」


 回想にふけっていると魔塔主が先輩に尋ねる。

 一瞬先輩がこちらを横目で見た気がして、思わず身を隠す。


「そういう噂があるという、把握はしています」

「そうでしょうね。あなたはいつも通りに仕事をしていただけですからね」


 おかしそうに笑う声が漏れ聞こえてくる。


「あなたは果報者ですね」


 先輩は黙ったまま答えない。

 それが逆に怒っているのかあきれているのか分からなくて、当事者としては恐怖である。


「ではここにいる魔塔士達に伺いましょう。この投票の結果に不満のある方は異議を唱えなさい」


 この状況で異議なんか唱えたら、コテンパンにやられるだけだろう。

 会場の全員が真っ青な顔で俯く眼鏡の様子に、同じことを感じとったようだ。


「では異議がないようなので、魔塔士長はこのままとし、魔塔士長代理は上級魔塔士に降格とします」


 その後は魔塔士長続投となった先輩の、容赦のない査定が待っていたのだった。





読んで頂き、ありがとうございます。

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