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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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伝説のお師匠様

 自室に戻ってさっそく借りた本を開く。


『治癒魔術は、治したいという気持ちが強ければ強いほど効果を発揮する。』


 そうなんだ!

 治癒魔術のノウハウを学べそうで、興奮しながら次の行に目を通す。


『などと考えるのは無意味だ。』


 先程までの感動を返して欲しい。

 落胆しながら続きを読む。


『上辺だけの治癒魔術を使いたいなら、術式を覚えればいいだけである』


 次のページに目を向けると、物凄く細かく描かれた魔法陣が載っていた。

 覚えればいいだけって……これ、覚えるだけでも大変ですよ?

 この人をおちょくるような書き方……。

 なんだかこの本を読んでいると、妙な親近感を覚える。

 著者が気になり、奥付を開く。

 書かれたのは三年前であり、著者は『キイラ』……って! お師匠様!?

 お師匠様が治癒魔術の本を書いたってこと?

 でも魔術を使いながら医術を行っていたお師匠様でも、治癒魔術を使っているところなど見たことがない。

 それなのにどうして治癒魔術の本など書いたのだろう?

 先輩はこの本を取り寄せたと言っていた。

 ということは、王都では売っていない本だったということだ。

 この本でお師匠様を知ったのだろうか?

『俺はあんたのお師匠様のことをよく知っている』

 あの先輩の言い方は、本で知ったよりももっと身近な知り合いという感じだった。

 二人はどういう関係なんだろう?

 不思議に思いながらページを捲っていると、本に記載されている文字とは違う文字が沢山書き込まれているページを見つけた。

 これは先輩の書き込み?

 しかし、ページの上部に記載されていた文字に目を見張る。

『欠損部分を復元する方法』

 治癒魔術ってここまでできるものだったの!?

 いや。それよりも、この部分だけ物凄く書き込まれている。

 先輩はこれを調べるために本を取り寄せたの?

 でもなぜこの部分だけ?

 そこでマウノが覚醒した時の衝撃的だった話を思い出す。

 確か罰としてマウノがされたように、子ども達の指も切り落としたと言っていた。

 マウノはその子達がその後どうなったのか知らない様子だった。

 もしかして先輩は切り落とされた後に、マウノが知らないところで復元してあげていた?

 優しいマウノなら、復元していたとしても許してあげそうな気はするけど……。

『嬉しかったんです』

 目を潤ませながら魔塔主が罰するように訴えた時のことを話してくれた、マウノの姿を思い出す。

 人によって辛い感覚は違う……か。

 吹っ切れたように話が出来たのは、魔塔主が罰してくれたと思っているからかもしれない。

 でもそれが実は裏で綺麗に戻されていると知ったらマウノは……。

 だけど先輩が魔塔主の下した罰に逆らってまで、独断で治すとは思えない。

 もし魔塔主の命だとしたら、コハナが言っていた『その程度の絶望や悲しみじゃ普通は覚醒しない』の危険を排除するために行った気がする。

 だってみんながみんな前向きに生きられるわけじゃない。

 落ち込み恨み苦しみ続けたら、蓄積されて覚醒することだってあり得るかもしれないから。


 それにしても私がマウノに話してしまうかもしれないのに、なんで先輩はこの本を貸してくれたんだろう?

『え? そんなの、スリル満点だからに決まってるじゃない』

 いやいやいや!

 この本を読んでいたせいか、お師匠様の思考になってしまっていた。

 お師匠様の影響力、恐るべし。

 この世界を守ろうと努力している先輩が、お師匠様と同じ思考なわけがない。

 だとすると、私がマウノに話さないと信じてくれている?

 なんだかくすぐったい気持ちになり、書き込まれた文字を指でなぞる。

 これは私と先輩だけの秘密にしておきますね。


 しかし、試練とはすぐに訪れるものである。

 翌日、食堂にてマウノに尋ねられた。


「そういえば魔塔士長が貸してくれた治癒魔術の本、どうでしたか?」


 口に含んだ食べ物が食堂を通らずに気管支に入り、咽る。


「難しかったのですか?」


 私の反応にマウノが首を傾げる。

 マウノが差し出してくれた水を含みながら、返答に迷った。

 昨日誓ったばかりなのに、早速難題にぶつかったんだけど!


「……解りやすかったよ」


 先輩が薦めてくれただけあって、とても解りやすくはあった。

 何度かお師匠様節は炸裂してたけど。


「そうなんですね。僕も読んでみたいな」


 魔塔士ならそうくるよね。


「あっ! もしよかったら、私が教えようか?」


 ここでいい案が閃く。


「実はあの本を書いたのが、私のお師匠様なの! あの本は先輩のだから、勝手に貸してあげられないから、マウノには私が教えてあげる!」

「リュナさんのお師匠様?」

「へえ。治癒魔術の本を書くなんて、変わり者のお師匠様なのね。なんて名前の人なの?」


 先程まで全く興味を示さなかったコハナが、会話に混ざってきた。


「『キイラ』って名前なんだけど、知ってるかな?」

「「『キイラ』って、あの『キイラ女史』!?」」


 二人が同時に大きな声を上げると、周囲の視線が集まる。

 しかし大きな声に視線が集まったというよりは、違うところでざわついているようだ。


「まさかキラー女史の話か!?」

「うわぁ!! 誰か助けてくれ!!」

「やばい! 精神が錯乱し始めた奴が出たぞ!!」


 えぇっ!?

 一体何が起こったの!?


「キイラ女史を知っている人達はこうなるわよね……」

「僕達は噂でしか聞いていませんからね」

「キラー女史とか言ってたけど、お師匠様のことなの?」

「キラー女史はあだ名よ。そう、あの人の真の姿は伝説のクラッシャーよ」

「伝説のクラッシャー!? って何?」

「破壊者って意味ですよ」


 破壊者……。


「さすがに自分のお師匠様が破壊者というのはショックよね」


 コハナが言い過ぎたかなと、私の顔を窺う。


「ううん。むしろ言葉通りの人だったかも」

「弟子に同意されるってどうなのよ」

「どこに行ってもクラッシャーだったんですね」

「それに育てられたあんたもあんただと思うけど」

「リュナさんはきっと素直で従順だから、さすがのキイラ女史も毒気が抜かれたのではないですか?」

「そんなことないわよ?」


 二人が目を剥く。


「『男は金のある男を捕まえなきゃ駄目よ。そして老後は私に楽をさせなさい』って六歳の時に言われた」

「「六歳!?」」

「それに酒場のおじさんがツケを払うように来ても扉を開けるなって言われたから、『だってお師匠様が開けるなって言ってるもん!』って素直に言ったら怒られた。素直に言ったのに、なんで怒られたのか分からなくて泣きべそかいていたら、酒場のおじさんがお菓子をくれたの。それ以来、わざと泣いてみせる時もあったかな?」

「お師匠様がお師匠様なら、あんたもあんたね」

「仕方ないでしょ。お菓子が欲しい年頃だったんだから……」

「そこで乙女感だされても……」


 私の恥じらう姿に、コハナがげんなりしている。


「それにしても、先輩はお師匠様の事を知っている様子だったけど、魔塔に属していたのね」

「属していたどころか、魔塔主様の肩に腕を回した唯一の人物だという噂まで流れているのよ」

「前魔塔士長もキラー……じゃなかったキイラ女史に悩まされてノイローゼになったそうですから」

「今の魔塔士長になったのも、キラー……じゃなかったキイラ女史に耐性があるから任命されたそうだからね」


 ねえ、二人ともさっきからワザと間違えてる?


「前魔塔士長は今も部屋に引き籠って、姿を見せていませんからね」


 お師匠様……さすがにやりすぎですよ。

 そりゃあキラー女史とか呼ばれるわ。


「コハナはそこを目指しているのね」

「私はあそこまでならないように抑えているわよ! 魔塔追放とか勘弁だもの!」

「お師匠様って魔塔を追放されたの!?」

「そりゃあ魔塔主様の肩に腕を回すなんて言語道断よ!」


 それはコハナ基準では?


「で? その伝説のクラッシャーは今、どうしてるのよ」

「分からないの。魔塔に行けと言われたことだけは覚えているんだけど……。先輩が言うには私を危険に巻き込まないために魔塔に送ったのかもって」

「ああ。もしかして神の怒りに触れたのかもね」

「神の怒り?」

「神の領域まで魔術を高めてしまうと、神の怒りに触れるらしいですよ」


 そういえば以前、先輩が言っていた。

『もし魔術で人の生死を操れるようになったとしても、それは神の領域になる』

 お師匠様は人の命を救いたいと、医術と魔術を組み合わせられないか考えていた。

 その過程でもし神の領域に触れたのだとしたら……。

 顔色が悪くなった私を二人が心配そうに見つめる。


「きっと大丈夫よ。相手はあのキラー女史の異名を持つ、キイラ女史なんだし」

「そうですよ。逆に神をさばきますよ! ……色々な意味で……」


 裁くと捌くをかけたのかな?

 二人の慰めにクスリと笑うと、二人の表情が緩まった。


「ありがとう、二人とも」


 いい友達を持ったなとしみじみと感じたのだった。

 しかしこの日以降、先輩に会うとお菓子をくれるようになったのだが、何故なのだろうか?





読んで頂き、ありがとうございます。

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