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魔塔士達の交響曲  作者: 神楽 棗
第一章 出会い編
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妄想はほどほどに

 魔導具製作の許可が下りた翌日。


「治癒テープって……あんた凄いところに手を出したわね」


 向かいに座るコハナがあきれながら言った。


「治癒の魔術は魔力が多い魔塔士じゃないと発動しませんし、留めておくのも困難ですよ。僕だって覚醒した時に上昇した魔力の影響で、指が元通りになっただけですから」

「うん。でもせっかくだから、やってみたいの」


 この治癒テープは、お師匠様の黒い手帳に載っていた案の一つでもある。

 だからお師匠様に近付くためにも挑戦したいというのもあった。

 だけど一番は、許可をくれた先輩の期待に応えたい。

 二人が魔塔主を敬愛するように、私はお師匠様と同じくらい先輩を敬愛しているのかもしれない。


「あんた治癒魔術があるのに、なんで医術が発展したか分かってんの?」

「それは見える傷しか治せないからじゃないの?」

「それもありますが先程も話した通り、治癒魔術は膨大な魔力と難しい術式が必要になるため、魔塔主任ですら使える方がいるのかどうか分からないくらいのレベルなんです」

「つまりそんな難しい治癒魔術を、あんたは使えるのかって話をしてるの」


 魔術にレベルなんかあるの!?


「魔塔士長も意地悪よね。知ってて挑戦してみろなんて」

「私がしたいって言ったからだよ」

「あら~? 魔塔士長の肩を持つのね。もしかしてリュナは魔塔士長狙い?」

「そっ……!? そういうのじゃないから!」

「コハナさん、揶揄うのはその辺にしましょう。実際魔塔士長は優しい方でしたよ」

「あら? 私の味方は一人もいないの?」

「蹴落としたい派がいるじゃない」

「華がないのよね……」

「聞かれてても知らないから」


 コハナは慌てて周囲を見回す。


「リュナさんはまず魔法について勉強した方がいいですよ。魔塔にある書庫は入口の板にありますから、鍵を差し込めば行けるはずです」

「食堂は鍵無しで行けるのに、書庫は鍵が必要なのね」

「魔法に関する古い文献や貴重な本がたくさんあるので、誰が入館したか把握するためだと思います」

「違うわよ。あれは捕獲のためよ」


 コハナは無視して話していた私達の会話に戻って来た。


「一度本を読みながらうたた寝したら、本の上に涎たらしちゃって。その後、魔塔士長が来るまで書庫に閉じ込められたのよ。誤魔化そうとしたけど、全てお見通しだったわ。常に熱い視線を浴びていると思うと、ちょっと興奮するわよね」


 私とマウノが冷めた視線を向けた。

 先輩の苦労が窺える。


「それより昨日、魔塔士長に呼び出されたんでしょ? なんか面白い話なかったの?」


 コハナが誤魔化すように話を逸らしてきた。


「面白い話って……う~ん……エルメル先生との仲が凄く良かったことくらいかな?」

「やっぱりね……」


 私の話にコハナが神妙な顔で口に手を当てる。


「ずっと気になっていたのよ……。魔塔と医術塔は仲が悪いのに、エルメル教授は魔塔を敵視していない……これってつまり……」

「つまり……?」


 私とマウノが前かがみで聞き入る。


「あの二人は恋仲なのよ!!」

「「……え?」」


 私とマウノが同時に反応した。


「どっちが受けで、どっちが攻めだと思う? 普通で考えれば魔塔士長が受けだろうけど、意外と攻めの可能性も……」


 あの二人が恋仲で、攻め? 受け? ……って何?


「あんたあの二人の絡みを見てたんでしょ!? どうだったのよ!?」


 迫ってくるコハナに、恐怖を覚える。


「どうって……私、途中退席したからよく分からないんだけど……」

「途中退席ですって!?」


 もうさっきからなんなの!?

 鼻息が荒くなるコハナに慄く。


「……あっ」


 コハナの後ろに立つ人物に気付き声を上げるも、今のコハナには聞こえていないようだ。


「きっとリュナが退席した後は、『アシル、もう我慢できないよ』『エルメル……』 ……ギャーーーーー!!」

「うるさい。減点にされたいの?」


 気付いていた私とマウノが頭を下げる。

 コハナは聞こえてきた声に恐る恐る振り返る。


「ギャーーーーー!!」

「減点」


 コハナの悲鳴と先輩の登場に、この席が一気に注目を浴びる。

 驚かされたコハナが、先輩に噛みつく。


「魔塔士長が食堂に来るなんて、反則ですよ!」

「勝手に新しいルールを作らないでくれる?」

「ここは下っ端魔塔士が集う場所なんですから、上役は部屋に籠っていて下さい!」

「籠っていても、全部筒抜けなんだけど?」

「やっぱりこっそり聞いているんですね! いやらしい!!」

「そもそも聞かれたくないことを公の場で話していること自体問題だよね? そこも減点対象かな?」

「ひぃっ!」


 このコハナが大人しく貴族にやられっぱなしだったとは思えない。

 むしろこんな感じだったから、奴隷だった頃に余計に厳しく当たられたのかもしれない。

 そう思うと先輩は十分優しいと思うよ。

 言い負かされているコハナに、心の中で呟く。


「それよりもわざわざ食堂まで魔塔士長自ら足を運ばれて、どうされたのですか?」


 コハナが黙ったところで、マウノが尋ねた。


「これを渡しに来ただけなんだけど、呼び出した方がよかったみたいだね」


 そう言って私に差し出してきたのは、分厚い本だった。

 タイトルには『治癒魔術の色々』と書かれていた。

 なんて適当なタイトルなんだ。

 タイトルなんかなんでもいいわと言われているようだ。


「あの……これは?」

「治癒魔術に関して色々書いてある本」


 うん。

 タイトルを見ればそれは分かる。

 ああ、なるほど。タイトル通りの内容なんだ。


「書庫にあるどの治癒魔術の本よりも分かりやすいから、取り寄せたんだ」


 表紙を眺めていると、先輩が補足してくれた。

 治癒魔術がレベルの高い魔術だと思って、わざわざ届けに来てくれたんだ。

 胸の奥がぽかぽかと温かい気持ちになる。


「ありがとうございます」


 嬉しそうに受け取ると、先輩が小さく首を傾げる。


「なんか問題児と関わった後だからか、可愛いく見えるね」

「え!?」


 思わず声を上げる。

 そして先輩はコハナを一瞥した。


「あと、これ以上エルメルとの変な関係を想像したら、魔塔士生に降格させるから」

「え!?」


 こっちの『え!?』はコハナである。

 先輩は両極端な顔をしている私達を残し、戻って行った。


「なによ、あんた! お気に入りどころか、恋人候補に格上げ!?」

「そんなわけないでしょ!」

「そうですね。どちらかと言えば可愛い妹に言ったような感じはしましたね。本当に好きな人なら、人前で面と向かって可愛いなどと言えないと思いますよ」


 コクコクと大きく頷く。

 今のは絶対先生の、『可愛い』と同義だから。

 いや。先生の方は挨拶のようなものだから、先輩の方が貴重なのかな?

 そう思うと、ちょっと照れる。


「あんた、頬、緩んでるわよ」


 私の反応にコハナがあきれている。


「でもそうだとしたら、やっぱり……禁断の恋が最有力候補そうね」


 コハナが魔塔士生に降格となる日も、遠くはなさそうだ。





読んで頂き、ありがとうございます。

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