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黒の鉄腕よ、滾(たぎ)れ  作者: 賢河侑伊
第一部 移送編
9/35

 血のような夕焼けが廃墟一帯を照らし出している。村は数日前よりも破壊が進み、もう村人は居なかった。そのほとんどが息絶えていたのだ。


 瓦礫の山に、レオが座り込んでいる。その周囲には死体の山―数日前までは生きていた村人たちの成れの果て。


 レオの甲冑が夕焼けに照らされ、血が滴っているかのように見える。その腕には少女の亡骸。レオは亡骸を地面に下ろし、バイザーを上げる。


「どうして……」レオは涙を零し、亡骸に毛布を被せる。


 死骸には、くわなたが突き刺さっている。その死体の一つは、数日前に街で会い、武器を渡さなかった男の一人。


『我々の村もマガイの被害にあっていて……お願いします』その言葉が蘇る。しかし、村人を殺したのは、マガイではなかった。


 ―略奪目的の虐殺。しかも、やったのは近隣の村人だろう。


 レオは歯噛みする。


 リーゼが、レオの肩に優しく触れ、「こうやって弔うことしか今はできません。さ、帰りましょう」


 街での戦いは上手くいった。だからこそ、リーゼに無理を言って、村に来たのだ。しかし、このざまだ。


「そう……だな」レオは亡骸の瞼を閉じてやり、静かに立ち上がる。そして、空を一瞥。空が青さを増していく。


 レオ達が街へ戻ろうとすると、


 ごそごそとした音がし、レオたちは咄嗟に瓦礫に身を隠す。


「若」リーゼは瓦礫の先の何かを見ている。レオもそれを見ると、オイレンブルクの鉄器兵。


 鉄仮面を脱いでおり、黒い長髪が見える。オイレンブルクの者ではない。


「なぜ……鉄器兵装を……」レオは男を見て、言う。リーゼも言葉を失っていた。


 甲冑は、男たちと何かを話しているようだった。しきりに周囲を見ている。


「どうする?」レオは、リーゼを見る。リーゼは逃げましょう、と首を振る。


 レオは目を伏せる。見逃すわけにはいかない。鉄器兵装の強大な力は、誰にでも渡してよい訳はないのだ。この力は法を順守できる者だけが使って良いはずなのに―


 許せない。己の内に広がる黒い衝動。


「少し、話をしてくる」レオは言い、リーゼの制止を振り払い、躍り出る。


「おい!」叫ぶと、鎧がびくりと震える。


「なんだ、ガキかびっくりするじゃないか」甲冑は、レオを見下ろし、大きなため息をついた。


「これをどこで手に入れた」レオは、甲冑を睨みつけ、言う。甲冑の男は無言。


「ここで何をしている」レオが再度、問うと、


「何も」肩をすくめ、眼を閉じ、ため息をつく―


 次の瞬間、腹部に鈍い痛み。気が付くと、地面に叩きつけられている。頭に鈍い痛み。


「どうだ、これが鉄妖の力だよ」傭兵は、レオの頭を踏みつけ、ぐりぐりと踏みつける。


「なぜ……こんなことに」息をするたびに激痛が走る。


「なぜ……だって? こんなすごい力、使わない訳ないだろ!」傭兵は高笑いする。周りに居た男たちも、そうだそうだ、と言い、笑っていた。


「お前、オイレンブルクだろ……独り占めしやがって、クソが」頭を思い切り踏みつける。頭蓋が揺れ、幻聴がする。


 急な上昇感―気が付くと、首を掴まれ、壁に押し付けられている。


「弱ぇな、お前。ここで死ねや」片手で首を掴んだまま、何度も頬をぶたれる。


 視界が揺れる/頬で熱の塊が炸裂したような衝撃。口のなか一杯に鉄の味が広がる。


「待て!」リーゼの声が響き、彼女の姿が見える。


「動くな、こいつを殺すぞ」


 リーゼは歯噛みし、動きを止める。


「おい、棍棒で殴れ」


 周囲の男が予備動作なく、リーゼを殴る。鈍い音と共に、リーゼが倒れこむ。


「抵抗したら、こいつを殺すぜ」


「り、リーゼ……」


 リーゼは殴り倒され、地面に倒れこんでいた。


「さて……鎧をはいで、じっくりと犯すか」傭兵はレオを見て、舌なめずりし―


「こいつ……男か……やっぱ殺すわ」そう言って、レオの首を絞める。息が出来なくなる。


 ―あの技を使うしかない。


 レオは口いっぱいに広がった血を、傭兵に吹きかける。


「きたねぇな……」傭兵の額に青筋が見える。


 レオは最後の力を振り絞り、「限定使用……管理者権限発動」


「あぁ?」傭兵が首にかける力を強めようとした瞬間だった。その身体が硬直し、震える。


 レオは地面に落ち、血反吐を吐いた。


「なんだ……これ」傭兵がうめく。その場からも動けず、指先も動かすことができない。鎧が空中で固定され、拘束具となって動けないのだ。


 これはオイレンブルク内で許された者だけに伝わる力であり、一時的に全ての鉄妖を従えることができる特別な力だ。オイレンブルクの中心部に位置する鉄妖の本体に、その血液の匂いが登録されていないと使用できない。


「折れろ」レオは口元の血を拭い、鉄妖に指示。


 ぱき、と高い音と肉がつぶれる音と共に、傭兵の腕が折れる。


 傭兵が絶叫する。後ろの男たちが、恐怖し、レオに向かってくる。その手には剣。


「薙げ」


 男たちの剣が空中で固定される。唖然とする男たちを尻目に、剣は急加速。男たちが悲鳴を上げる間もなく、その首が宙を舞い、地面に転がる。


「頼む……許してくれ」傭兵が言う。


 レオは「お前は、これをどこで手に入れた?」


 傭兵が押し黙る。


 レオは無言で、指を掴み、折るしぐさをする。片方の指が折れ、傭兵が絶叫する。


「名前は知らない! オイレンブルクの技術を売っていたんだ……どこの領地の連中かは知らない!」


「本当か?」そう言い、レオは指を折る。


 傭兵が絶叫、涙を流し、「とうぞくだん……盗賊団とか言ってた……頼む……それ以外は知らない!」


 レオは自分が、再度、指を折ろうとしていることに気づき、止まる。内心から沸き起こる強く、黒い衝動。


 今まで必要以上に殴られてきた。それも、必要以上に。それを今や言葉一つで殺すことができる。


 異様な高揚感に、全身が震える。


 ―俺は今、こいつより強い!


 レオは指をもう一度折ろうと、手を動かす。それに冷たい物が降れる。


「辞めてください、レオナルト様」低く鋭い真剣な声。


 振り向くと、リーゼが居た。その手は、レオの手を掴み、震えている。


「で……でも」言葉を発しようとするが、リーゼの瞳が何かを見て激しく怯えていることに気づき、止まる。まさか、俺に震えている?


 はぁはぁはぁ、と異様な息づかい。それが自分から発せられていると気づく。


 急速に全身から熱が引き、冷えていく。


 レオはその場で、倒れ込んだ。


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