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黒の鉄腕よ、滾(たぎ)れ  作者: 賢河侑伊
第一部 移送編
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北部地域ー1

 レオ達、オイレンブルク家の鉄器兵たちは、北部地域に向かっていた。おそらく数日でつくだろう、と言う算段だった。


 レオ達の任務は二つある。


 一つ目は、北部地域に巣くうマガイの殲滅。


 二つ目は、北部地域を初めとして、被害を受けた地域に、武器や食料などの重要物資を配ること。その為、大きな馬車を数台連れ、行軍は行われている。


 重要物資の一つ―武器が入っているという―は巨大な木箱で覆われ、箱自体が何重にも鎖が巻かれている。大きさは、小屋ほどのサイズだ。まるで何かを封印しているようだ、とレオは微かな違和感を覚える。


 数日間の行軍はやはり疲れ、レオは無言になりながらも歩みを進めた。しかし、北部地域に近づくに連れ、その被害が分かり始める。


 村が一つ、マガイに破壊され、生き延びた村人たちが瓦礫の撤去をしている。猛烈な泥の匂い。何かが焼ける嫌な臭い。


 村人たちは、黙々と作業をしているが、その顔には深い絶望と疲労。


「マガイの群れは夜になればまた現れます」リーゼが、レオの耳元で囁く。マガイは夜行性だ。昼にはその姿を現さず、夜に暴れ始める。


 数人の村人がこちらに気づき、駆け寄ってくる。


「どうか、どうか……お助け下さい」そう言って手を握ってくる老婆の眼を見られない。


 レオ達は一日、ここに留まるだけだ。


 ふと、レオの眼に、小さな少女が映る。ボロボロの衣服を着て、大切そうにぬいぐるみを抱きしめている。まるで、すがるように。


「若様、構ってはいけません。食料は我々の分しかありませんし……」


 嘘だ。リーゼの言葉を、レオはぐっと飲みこむ。


 物資の輸送はマガイとの戦闘を行える騎士団を優先的に行う。だからこそ、彼らには渡せない。


「首都への到着が遅くなれば、その分、被害も増えます リーゼが繰り返す。


 レオは歯噛みする。


 そして、レオは少女を無視し、宿に向かった。


 数日後、最も被害が激しかった地区へ着いた。主要王位継承家の一つで、当家の政敵でもあるゼーフェリンク家の主要都市だ。


 そこでも、復旧作業が続けられていたが、広場に集められた夥しい死骸の量に、レオは息をするのを忘れる。


 胸が腐るような、死骸の匂い。


「お待ちしておりました。私は、ゼーフェリンク家騎士団のリヒャルトと申します」一人の青年が父に向かってくる。


「酷いな」父が馬から降り、言う。


「ええ……これでもマシになった方です」リヒャルトが顔を曇らす。


「ですが、まだマガイは殲滅できていません。市街地にマガイが巣を作っています。その攻略を手伝っていただきたい」


 気が付くと、ゼーフェリンク家騎士団が集まっていた。皆、顔に疲労が浮かんでいた。


「分かったが、少し休ませてもらえるか」父がため息交じりに言う。


「ええ、ご案内します」


 通されたのは教会で、屋根が無事なだけマシであった。


 リヒャルトは、父や騎士たちに相対し、深刻な顔をした。


「実は、ある情報を手に入れまして」


「ある情報……? 何だ、それは」


「この災禍は、人為的に引き起こされたという事です」


 父は眉を顰め、「誰かが人為的にマガイを生み出した、とでも?」


「鉄妖の管理が可能なら、マガイも同様ではないか、と私は考えています。それに、雨季が始まったこの季節に、しかもマガイ出現と同時に堤防が破壊される等、偶然とは言い難い」


「分かった。我々も気が付くことがあれば、報告する」父がため息をつき、言う。はたから聞いていたレオも、同じ感想であった。人間が、あの怪物を生み出せるとは到底思えない。


 リヒャルトは頷き、父と打ち合わせを始めた。力場式炸裂弾、と呼ばれる罠を街中に仕掛けるかどうかの議論だった。力場式炸裂弾は、ロングボウに仕込んだ金属片を使い、マガイを内部から炸裂させる爆弾だ。


 レオは、力場式炸裂弾の威力を思い出し、微かに震える。飛び散る金属片は凄まじい威力であり、ほぼ廃墟と化しているとしても、家屋を破壊してしまう。しかも、避難が遅れた者も同時に殺してしまうかもしれない。


 リヒャルトと父は、炸裂弾の使用で合意し、設置ポイントを検討し始めていた。


 あれを使ってしまうのか。まるで背を蛇が這うような、冷たく嫌な感触。レオは、震える自分の拳を握りしめ、震えを強引に止めた。


「レオ」掠れた声がし、振り返ると、シモンが居た。


「祈ろう。これからの行いは、神の許しの元で行われる」シモンは言いながら、眼を閉じる。シモンの向かう先には、騎士達。


 戦いの前の祈りをささげるべく、破壊された教会に居た。中には、リーゼも居た。


 そうだ、これは神の意思に基づく戦いなのだ。正義を成すための戦いなのだ。レオは自らに言い聞かせ、自らも祈りをささげた。


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