エピローグ
アイメルト領、ヴィン郊外―
ヴィンでの災厄から三か月が経った。
レオは、巨大な防壁の前に居た。本当に全てが終わったのだろうか、と少年は自問する。
ヴィンでは、およそ二百人近い死者が出たと言われている。そして、その惨劇を、レオとリヒャルトは繰り返し、人々に伝えた。勿論、ソフィアの《祝福》であることは伏せ、何者かによる攻撃と言うことを繰り返し伝えた。それらはヒトの持つ根源的な感情「恐怖」を燃料とし、あっという間に国中に広がった。
災厄直後は、水面下での対立姿勢を崩そうとしなかった王家とオイレンブルク家だったが、レオらの言葉が形を変え、伝播し、その意思は簡単に崩れ去った。王家の移送継続の要請は、オイレンブルク側からあっさりと受け入れられた。
そして、二か月前、王家とオイレンブルク家の間で話し合いが開かれ、移送の継続と《第壱位階》の破壊が決定された。移送の最終地点は、様々な観点―人口、森林、水資源、交通面―から、オイレンブルク領首都から数十キロ離れた場所、通称「丘」が選ばれた。
《第壱位階》の融合、それがどのような光景だったかを語る者は居ない。レオもリヒャルトも関わることはなかったからだ。数人の王家騎士団と、オイレンブルク鉄器兵団、そして、数人の罪人だけが、その光景を目にしたと言われている。参加者名簿は秘匿されているが、噂では《第壱位階》の最期を知覚した罪人は全員が死んだと言われている。
―それから一か月
今、レオは「丘」の目の前に居る。厳重な警備の元、周辺の動植物の調査が行われていた。この先、数年は立ち入りができないと言われている。また、「丘」の周囲数キロは心理的側面から人がほとんど住まなくなっていた。
強大な力は、その力を制御する強い意思と共に在らねばならない、と言うレオの思いは少しでも人々に伝わっただろうか。
《祝福》の抑止力が消え、今、この国は小規模な戦争が至る所で起き始めている。ゼーフェリンク家領内では略奪や紛争が激化し、大量の死者が出ているという。水面下で王家に反逆したオイレンブルク家も同様の運命を辿るだろう。
レオは空を見上げる。一切の光が差さぬ、曇天。ぽつり、と水滴が頬を濡らした。
拙作を最後までお読みいただきありがとうございました。




