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黒の鉄腕よ、滾(たぎ)れ  作者: 賢河侑伊
第二部 決戦編
33/35

屍山血河

 黒い騎士は静かに宣言―


「オイレンブルク式鉄器兵、レオナルト・オイレンブルク、参る」


 イメージする―仲間たちの手。自分を救ってくれた手。誰かをこれから救う手。


 脳裏で閃くビジョン―レオの背から、六本の腕が生える。美しい装飾がなされた甲冑の腕。それらが騎士たちの剣を拾い、構える。その姿は、東洋の神―阿修羅のよう。


 落ちていた大量の剣を拾い、宙に浮遊させる。そして、力場を使い、跳躍。家屋の屋根の上に飛び乗る。


 現れる血槍。避けられるものは避け、何本かは拳でたたき割り、あとは鎧で防ぐ。それでも、鎧越しに衝撃が伝わり、激痛が全身に走る。加速の勢いは完全に殺されてしまう。仮面の中で、吐血。膝が折れ、倒れこむ。


 このままではまずい。レオは足に力を込め、跳躍。屋根の一部が剥がれ、飛び散る。自分の前方に剣を浮遊させ、血槍が発生した瞬間に弾き飛ばす。


 それでもすべては避けられず、血槍が身体に激突。歯噛みし、跳び続ける。


 全身を滅多打ちにされたながら、レオは跳び、屋根を蹴りながら、アイメルト城を目指す。ソフィアの部屋は覚えていた。


 護衛の騎士を力場で倒し、城へ侵入。彼らの持つ、剣を宙に浮かせ、操作する。


 ソフィアの部屋に向かう。そして、その扉を乱暴に蹴り破る。部屋には誰も居なかったが、壁がぶち抜かれおり、その中には空洞が見える。


 壁に空いた穴に頭を突っ込むと、広大な空間が広がっていた。高さは低くても五メートル、横幅は十メートル程度だろうか、箱の内部のような、のっぺりとした部屋。


 部屋の中央には人工湖があり、周囲を高い柵が覆っている。人工湖の水は真赤で、中心の島にぽつんと箱が佇んでいた。箱自体に、何重にもくさりが巻かれている。


「あれは……ゼーフェリンクの《第壱位階》か」


 部屋に飛び降りると、臓物がそこら中に飛び散り、異様な鉄臭さが鼻を突いた。咄嗟に周囲を見渡すと、すぐ近くにソフィアが居た。誰かと戦った後なのだろうか、全身が血で塗れていた。部屋の隅には、騎士の亡骸が一つ、転がっていた。


「これは、これは……生きてはったとは」血の底から響くような、暗い声。千切れた目隠しからの覗くアイスブルーの片目―強い殺意を内包。


「少し休ませてくれへん? うち、ほんまくたくたなんよ」ソフィアは、よろよろと立ちあがる。鎧は砕け、上半身は黒い服のみ。下半身は、千切れたスカートが膨らみ、広がっている。


 ソフィアの瞳が紅く光ったかのように見えた―頭に巻き付いていた触手のような物が背後で、ばっと広がり、まるで数匹の蛇がうねっているかのように見えた。


 あれがボニファーツの言っていた植物……まるで《第壱位階ヒエラルキーザワン》のようだ


 レオは震えを殺し、自身の拳を握り締める。


 怖い。死にたくない。ここから全力で逃げ出したい。


『心配ありません』リーゼの声が聞こえた気がし、ハッとする。肘についていたのは、リーゼが愛用していた剣。レオは、ふっと笑う。お前は、どうして俺をそこまで信じてくれたんだ。


「俺は、貴女を止めに来た」そう言い、剣を浮かび上がらせる。


 ソフィアは、目を細め、「止める?」


「《第壱位階》の破壊に協力しろ、ソフィア」レオは静かに力強く言う。


「それは無理どす」


「《第壱位階》との意思疎通は無理だと、ボニファーツは言っていた」


 レオは、ボニファーツの言葉を思い出す。


 《第壱位階》は異種の知性である。その為、そのような存在と意思疎通を行う方法を確立し、それを転用、または、それを土台とし、発展させれば、意思疎通は可能なのではないか、ソフィアとボニファーツはそのように考えた。


 異種の知性のモデルケースとして、まずヒトよりも低俗と考えられていた植物を使い、研究はスタートした。


 ボニファーツの長年の研究で、植物が外敵から捕食された際に匂いなどの反応を引き起こすことが分かっていた。その為、そのような信号を、ヒトが受け取るのを第一の目標として研究は始まった。


 研究の過程で、植物は外敵となる昆虫を捕食するような昆虫を呼ぶような反応を引き起こすこと分かり、それを利用し、広範囲の攻撃を可能とする兵器の開発が始まった。


 植物が自分の周囲の情報(外敵の情報を含む)をヒトが知覚できるように変換、ヒトがそれを殺すことで、共生関係を作り上げる。それを世代交代で先鋭化させ「知恵の樹」を完成させた。


 しかし、植物を「支配」しようとしていたソフィアは植物と繋がった際に、その鋭敏な知覚と知性により、逆に植物の一部となり果ててしまった。そして、植物からもたらされる膨大な情報に、ヒトの脳の容量が足りないことが分かった。


 つまり《第壱位階》との意思疎通など、現段階では夢のまた夢であった、とボニファーツは話していた。


「植物とも意思疎通が不完全なのに《第壱位階》とは無理だ」


 ソフィアは低く笑い、「いずれ、意思疎通が可能な者が現れる。あなた方が鉄妖に意志を伝えられるように、そして、私が植物と知覚を共有し、意思疎通を行えるように」


 そうすれば、とソフィアは天を仰ぎ、


爆心地グラウンドゼロに広がる災厄を除去し、民たちの《第壱位階》への恐怖心を和らげることができる」


「なんだと?」レオは仮面の中で目を細める。ソフィアの意図が分からなかった。


 ソフィアは低い声で、「アイメルトに領に広がる《第壱位階》信仰。これを何とかしないと、アイメルト家はおろか、民にも危険が及ぶ」


 レオは瞬時に情報を整理する。宗教改革に端を発する戦役と、その拡大。現教会派(王や教皇の側)に付くか、革新派に付くか、それにより、未来が変わるという事は分かる。革新派は足踏みが揃わず、戦役では敗北続きだ。戦費負担、人的被害、莫大な賠償金、都市部の自治権の喪失―革新派に付くことで失う可能性があるものは余りにも大きい。


「まさか、オイレンブルク家と王家で冷戦状態を作り出し、膠着期間中に爆心地を浄化。その後はゼーフェリンク家のように徹底した情報統制と《祝福》の管理を行い、《第壱位階》への畏怖や信仰心を消し去る……王家とは強靭なパイプを作り、その上で領地内の信仰を王家寄りにするのか」


 ソフィアは微笑み、頷く。「呑み込みが早くて助かるわぁ」


「だが、貴女にとって、それは前段階に過ぎない」レオは、ソフィアを睥睨。


 ソフィアはぞっとするような冷たい笑みを浮かべ、


「《第壱位階》による抑止は、これから先、必ず崩れる……ヒトが今の状態のままなら」


「《第壱位階》を用いた進化か……」レオは呟き、「止めさせてもらう。俺は、ヒトを信じる」レオは、肘に着いた剣を見る。


「お喋りは終わり、か」


 ソフィアは、霧の一部に触れる―霧状になった血が集まり、任意の臓器へと再生―骨が剣の形に形成される。作り出された筋肉が反発を生み、骨が異様な速度で摩擦、血が潤滑油の効果を発揮。きぃん、と言う異様な音共に、鋭い剣が削り出される。


 ソフィアはさらに、手を振りかざす―一瞬で血槍が宙を舞い、レオを襲う。


 レオは拳で剣を叩き割り加速。ソフィアに拳を叩き込む。寸前でソフィアは避け、剣を横薙ぎ―レオを打ちのめす。


 鈍く、重い衝撃が腹部に広がり、レオは倒れこむ。口から血の混じった唾液が零れ落ちる。


「勝てるわけないやろ、自分の力を理解せんとな」ソフィアは、ぞっとする程に低い声でつぶやく。


「それはお前も同じだろ……民の思いも知らないで!」レオは喉が裂けるほどに声を上げる。


 ソフィアはそれを聞き、僅かにたじろく、


 その瞬間、レオは力場を使い、強引に立ち上がり、ソフィアの首に剣を叩き込む。そして、傷を鉄妖で覆い尽くし、再生を阻害。


 首から夥しい量の血が流れ、ソフィアは倒れる。その間にも鉄妖が首に巻き付き、再生を阻害し続けている。


「な……にを」ソフィアは呟き、ふらふらと池の方に向かう。そして、水の中へ倒れ込んだ。

 ソフィアの部屋の隅で倒れているのは、前作主人公のハンナ・ケンプフェルトです。ソフィアによる攻撃が始まってすぐ、リヒャルトが呼び出し、ソフィアと交戦したという設定になっています。そのシーンも書いたのですが、テンポが悪くなるため削除しました。

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