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黒の鉄腕よ、滾(たぎ)れ  作者: 賢河侑伊
第二部 決戦編
31/35

儚夢

 鐘の音が聞こえ、レオはベッドから飛び起きる。稽古を終え、休憩中だった。


「なんだ……マガイか?」そう言い、部屋から出る。すると、鉄器兵の姿。鉄器兵は腕を振り、剣を出す。そして、それをレオに向ける。


「な……何を」


 隣の部屋から喚き声―リーゼの声だ。


「こちらへ」先ほどの鉄器兵が隣の部屋に手を振るう。


「何の真似だ」レオは歯噛みし、部屋に入る。すると、拘束されたリーゼと、二人の鉄器兵。


「若様!」リーゼが呆然とし、レオを見上げる。その手は後ろで縛られている。


 背中に鈍痛―押し倒され、手首に縄を撒かれる。


「大人しくしろ」後ろから男の声がする。


「あっけなかったですな」廊下から聞きなれた声。ディーデリヒだった。


「ディーデリヒ……何を」レオは呆然と臣下を見上げた。


「お父上がいけないのですよ……移送を強行したりするから」ディーデリヒが二人を見下ろし、言う。


「まさか……お前が父さんを―」レオは言いながら、愕然とする。そうか、あの口論は、移送をめぐる言い争いだったのか。


「お前が《代行者》の正体だったのか……」リーゼが歯噛みし、ディードリヒを睨みつける。


「違うな」低い掠れた声と共に、一人の男が部屋に入ってくる。


「し……シモン」レオは口を開け、呻き声をあげた。


「俺がこの戦争を始めたんだ」シモンは、レオを見下し、唇を吊り上げた。


「なぜ、こんなことを!」リーゼが怒鳴り声をあげた。


「お前は怖くないのか《迅刀》よ。我々の鉄妖技術は、もはや敵なしだ。凄まじい力だよ」シモンは天井を見上げ、


「俺は怖くなった。ゼーフェリンクも同じ……いや、これ以上の力を持っているかもと思うと、どうにかして奪えないか、そればかりが頭の中を駆け巡ったよ」


 地面が抜けたような奇妙な感覚。レオの胸が張り裂けるように痛む。自分を助けたあの手は、どこに行ってしまったんだ―


「《第壱位階》をどうするつもりだ?」リーゼが訊く。


「アイメルトに渡す。二つの勢力があれば、王家を打倒できる」


「正気じゃない……勝てるわけがない」リーゼは震えながら言う。


「鉄妖の力があれば負けることはない」シモンは唇を歪め、呪文を唱える。すると、剣がその手に引き寄せられる。そして、リーゼの首筋に剣の刃先がぴたりと当てられる。


「分かるだろ?」


 リーゼは脂汗を流しながら、「分からん……貴様、正気でないな。ゼーフェリンクや王家の騎士団に数で勝てるわけがない」


 シモンは微笑み、


「勝てるさ。これからアイメルトによる攻撃が始まりゼーフェリンクは全滅。我々は撤退し、同盟を結んだ両家が王と対峙する」


「女帝がそう簡単に操れると思うな!」


 ディーデリヒは鼻で笑い、「もういい、殺せ」


「待ってくれ……」リーゼが頭を垂れ、


「貴方たちに従う。どんな屈辱も受ける。だから、若様だけは見逃してくれまいか」


 シモンは、リーゼの顎を掴み、「お前も女を使うとはな、リーゼ」


「だが、駄目だ」シモンは、リーゼを地面に叩きつける。そして、剣を突き立てた。レオは目を閉じる。


 ずぶ、と肉を強引に切り開く音がした。


「あ……あ?」シモンの奇妙な喘ぎ声。


 レオが目を開けると、シモンの細い腹から、大量の槍が飛び出ている。


「ソフィ……裏切った」シモンが言い終える前に、その頭は、体内から飛び出た槍で串刺しにされる。


 シモンの死骸は、槍で宙に固定され、血を滴らせながら、ぶらぶらと揺れていた。


 愕然とするディードリヒや鉄器兵も、びくり、と身体を震わせると、一瞬で槍の餌食となる。


「まずい……」リーゼは足を上げ、レオの腹部を強く蹴った。


 レオは鈍痛に呻き、床に転がる。そして、先ほど食べた食事を戻してしまう。


「リーゼ……」泣きながら、従者を見上げる。すると、リーゼもびくっ、と痙攣した。そして、血を吐き、倒れる。


「い、き、て……」リーゼは力なく微笑み、全身を槍に貫かれ、死んだ。


 呆然と、リーゼの亡骸を見ていると、レオが吐き出した食事から槍のような物がにょき、と生えるのが見えた。


 食事に何かを混ぜ込んでいたのか―


 レオは、ぼんやりと思い、皆の死体を見つめた。


 もうおしまいだ。

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