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黒の鉄腕よ、滾(たぎ)れ  作者: 賢河侑伊
第二部 調査編
30/35

凶終隙末

【1】


 蕾は、全身に金属鎧を装着し、屹立していた。目の前には、小さな庭園が広がっている。


 蕾の視線の先には、農具を手にしたソフィア。何かの植物を掘り起こしているのだ。ツルの伸びた、外界では見たことのない異様な植物。


 ソフィアは、それを鉢に移し、立ち上がる。そして、大切そうに抱え、蕾に振り替える。鉢からは、膨大な量の根が零れており、地面と繋がっている。


「部屋に戻ろか」ソフィアは片手を差し出し、蕾へ向ける。蕾は、手を引き、ソフィアの部屋まで連れていく。


 部屋に戻ると、


「蕾、頼むで」ソフィアが静かに呟く。


 蕾は、意識を植物とソフィアに集中する。植物が何かを探すようにツタを伸ばし、ソフィアの身体に巻き付き、やがて目隠しに絡まる。そして、目隠しについた装飾―《第壱位階》を模した触手のような―に巻き付き、一定の規則性を持って、目隠しを覆い尽くしていく。まるで誘導されているかのように、目隠しの模様にそって、ツタが絡まっていく。そして、目隠しを完全に覆い尽くした。


 蕾は、植物がソフィアと接続していくのを感じた。この植物は、何世代にも渡る品種改良を経て作り出された生物兵器で、知恵の樹と呼ばれている。


 知恵の樹は、ストレス(生物反応、他の植物、環境変化)をヒトに伝えるように品種改良されている。今はまだソフィアしか使いこなせないが、さらに改良を続ければ万人が扱えるようになるだろう。


 ソフィアが抱えるこれは、ヴィンを覆う樹の枝葉から送られてくる情報を視れる(ヒトの網膜に刺激を与える電気信号に変換できる)ようにするのだ。つまり、枝葉が感知した情報を視覚情報として、ソフィアに渡せるのだ。


 5年の歳月を経て、改良を重ねた知恵の樹と、ソフィアの《祝福》を組み合わせて使えば、他を圧倒する力を持つ戦略兵器が完成する。


 ソフィアの目隠しから、夥しい量の血が零れだす。まるで、血の涙を流しているかのように見える―しかし、その実態は大きく異なる。そのおぞましさに、蕾は吐きかける。


「さて」ソフィアは事実のベッドに寝ころび、息を吐いた。彼女には、ヴィンのあらゆる場所の情報が「視えて」いる事だろう。


 ソフィアは、手をかざし、何かを払うような動作をした。


 蕾は、それを見て、震える。歯が噛み合わない。拳を握りしめ、震えを殺す。


 今ので一体、何人が死んだのだろう。


「蕾」


 唐突に名前を呼ばれ、蕾はびくり、とした。


「は、はい!」


「別室にて待機。騎士による警護の元、防壁を塞げ」


 ソフィアの指示を受け、蕾は逃げるように部屋に戻った。


 ついに始まるんだ―虐殺が。


【2】


 鐘が鳴る。リヒャルトは顔を上げ、馬車の中から顔を出す。


 ―あれはマガイ警報。だとすれば、もう始まる。


 リヒャルトが爪を噛み、従者に叫ぶ。


「早く出せ!」


 しかし、壁門の手前で轟音。地面がばきばきと音を立て、巨大な幹が城門を塞いでいく。周囲には赤い魚。


「くそ……」リヒャルトは荷台から降り、周囲を見渡す。街の奥から、真赤な霧が現れる。シューと言う、蛇の威嚇音に似た音と共に、マガイ殲滅用の機械が発動。真赤な水が噴射されているのだ。


「何が起こってる……?」フェリクスがうめく。


 異様な鉄臭さが鼻を貫く。周囲が赤い闇で包まれていく。


 赤い霧―リヒャルトは、その異様な現象を目の当たりにし、震えていた。


「ここから逃げないと……」リヒャルトは投手を荷台から下ろし、周囲を見渡す。


「なんだ……?」外に居た商人の一人が真赤な空を見上げる。きぃん、と鋭い音がし、霧がその形状を変える―鋭い槍。槍が重力に従い空から落下―商人の身体を貫く。眼窩を貫き、身体を貫く一撃。商人は声一つ上げず、絶命。


「これは……マガイなんかじゃない!」リヒャルトは布で口を覆い、風上を確認する。


 商人を貫いているのは、凝固した血と骨で形成されている槍。


「どうした!」異様な仮面が走ってくる。アイメルト家の騎士達。その身体が、びくっ、と跳ねる。


 肉が裂け、骨が砕ける嫌な音―騎士は、内臓をまき散らし、その場で絶命した。肋骨がぱっくりと開いた姿は《第壱位階》を連想させる。眼窩から槍が生え、眼玉が地面に転がっていた。


「血が……血が一瞬で武器になる……《第壱位階》の呪いだ……」論理的な思考が一瞬で溶け、リヒャルトは狼狽してしまう。


「おい!」フェリクスは、動揺するリヒャルトの肩を叩き、「違う。何者かの攻撃だ!」


 目の前の騎士の腹から、大量の槍が現れ、その身体をズタズタにする。街の方では、霧から発生する血の剣で、人々が貫かれ、死んで行く声が聞こえる。


「落ち着くんだ。リヒャルト」フェリクスの声で、微かに冷静さを取り戻す。


 リヒャルトは、赤い霧を払う。僅かに手に着いた水滴を見る。ヒトの血だと、すぐに分かった。何者かの《祝福》だと瞬時に悟る。


「少しでも霧から逃れないと……」


 フェリクスは、持っていた伝書鳩を飛ばす。しかし、血の匂いに交じり、嫌な臭い。壁門を貫く巨木を誰かが燃やしているのだ。


「やめろ!」リヒャルトが叫ぶも、木々は勢いよく燃え、煙が充満する。その煙の香りは鼻腔を貫き、吐き気さえ催させた。


 ぼと、と鈍い音―何かが上空から堕ちてくる。


「は、はとが……」リヒャルトは、落ちてきた黒い塊を見つめ、呻く。わあああ、と言葉にならない叫びが漏れる。


「おい! リヒャルト、しっかりしろ!」フェリクスが肩を揺らす。


 フェリクスが、リヒャルトを睨み、「あれを使うしかない。しかし、それでも生き残れるかは分からんが」


 リヒャルトは必死にアイメルトの騎士の顔を思い出す―浮かぶビジョン。アイメルト城の一室。ソフィア・アイメルトが目を閉じ、呻いている。その周りには大量の騎士。そして、侍女と薬草や水。


 ―やはり、これはアイメルトの仕業だったか。


 ソフィアの顔は、汗でぬめり、何かを操るように指が震えた。この血の武器は、奴が生成しているのか?


「再生能力の応用かもしれん。とにかく、風上に居たら、呼吸するだけで死ぬ」


 フェリクスは、リヒャルトの腕を引っ張り、走り出した。霧を避けるように街の中心部へと戻らされていく。

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