罪
ソフィアは、ぼんやりとベッドから起き出す―まだ日の出ていない4時過ぎ。領主のリュディガーとその后のソフィアの公務は、朝の4時に起き出す所から始まる。5時から公務が始まり、夜の17時ほどまで仕事が続く。仕事が終われば、謁見が行われることもある。
ロウソクに火をつけると、一糸まとわぬその肌を光が照らす。透き通った白い肌と、産毛がきらきらと輝く。
隣では、アイメルト家当主であるリュディガーが寝息を立てている。そのこけた頬を、細い指で撫でる。
この人は変わらないな、と指で、目元の皺を撫でる。
ソフィアは、目隠しを付け、ベッドから起き上がる。白い長髪が垂れるのを手で押さえ、さっと結ぶ。向かったのは、鏡。
鏡に映るのは若々しく、引き締まった四肢。《祝福》を受けてから、20代の身体から老けなくなってしまった。本当は40代だというのに。
後ろで寝ているリュディガーも、この不老の力に惹かれているのだ。それだけではない。騎士団長のハインツを始めとする家臣もそうだ。
私は必ず《第壱位階》を手に入れなければならない。アイメルト家の誰もが《第壱位階》を求めている。
私にできるだろうか。私は完璧とは程遠い。この外見が皆を惹きつけているだけだ。
かつて、宮廷を追われる際、公妾は、ソフィアに対して言った。
『若さや、女性であるという事によって、貴女は周りからもてはやされているに過ぎない。本当の自分の力を知った時、貴女は愕然とするでしょうね』
数年後、ソフィアは彼女を謀殺した。
ソフィアは自分が行ってきた悪徳を思い出す。
修道院で集めた子供は《祝福》を持つ者は全てを騎士として戦場に送り込んできた。それに、悪魔の爪(現在でいう所の麦角菌)の研究に敵の夫婦を使った。どうやら少しでも、悪魔の爪が触れると、幻覚や激痛を引き起こすことが分かった。それに流産も。
何をしてでも《祝福》を手に入れようとした。警備をする騎士を騙し、時には身体を対価にし、立入禁区へ入り込んだ。立ち入りが制限されている事故現場にも、何度も足を踏み入れた。そこでも、いくつかの禁忌を犯した。
ソフィアは《祝福》を食べたのだ―
《祝福》は、食物連鎖の中で、ヒトが受け入れやすい形に変化する。ソフィアは、事故現場の光景を見て、確信した。《第壱位階》の影響をもろに受けた植物は、異様に巨大化しているにも関わらず、それを食べる動物の外見や生態に変化は少なかった。
動植物が変化しているのか、それとも《祝福》の源が変化しているのか、どちらにせよ、段階を得ることで、《祝福》はヒトに適応するようになる。それが能力として開花するのだ。それを確信したソフィアは、ぼろ切れを纏い、身分を偽り、自分の足で路地裏を抜け、事故現場へと入り、動植物を食した。
《祝福》を得てから、リュディガーは激しくソフィアを求めるようになったからだ。そこまでして不老の力を得たいだろうか、と思う所もある。
嫁いですぐは見向きもしなかったのに。ソフィアは愛する夫の顔を見る。彼との間には十人を超える子を作っている。
《祝福》の力は恐ろしいな、とソフィアは思った。




