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黒の鉄腕よ、滾(たぎ)れ  作者: 賢河侑伊
第一部 襲撃編
2/35

襲撃ー1


 燃える炎の中に響く、自分の幼い声―


 レオナルト・オイレンブルクは、夢から覚め、咄嗟に周囲を見渡した。城の三階、窮屈な隅の自室。火事に遭うでも、怪物が現れもしていない。手元には、かの有名な騎士王の伝記。


 どうやら、本を読んでいるうちに眠りこけてしまったのだろう。こうなることが良くあるので、ロウソクを消し、月明りを頼りにしていたが、そもそも城は光が入りにくい構造なのもあり、眠気を誘ったのだろう。


「仕方ない……火をつけるか」一人呟き、ロウソクに火をつける。


 微かな忌避感を覚えながら、ロウソクに火をつける。どうしてもレオは、その本を読みたかったのだ。何度も読み返している騎士物語だ。怪物や異人との闘いの中で、弱きを助け、王へと成り上がる。


 昼間の稽古で、騎士になるべく技術を学んでいるが、本当に大切なのは心だと、父親に何度も言われていた。


 かつて、火事の中、命を懸けて救ってくれた騎士のようになる。それがレオの夢だった。


「僕も騎士になるんだ!」レオは拳を握り、大きく息を吐いた。大領主であり、王国有数の貴族である父だが、戦はめっきり駄目なので、レオにはとことん稽古を付けさせている。


 レオはベッドから飛び降り、伸びをする。ロウソクの明かりが少年を照らす。歳は14歳だが、外見は少し幼く、端正な顔立ちのためか少女のようにも見える。体躯も小柄で、整えられた黒良い短髪が合わさると、騎士と言うよりも貴族のお坊ちゃま感がぬぐえない。


「まだ起きていたんですか?」ふと、鈴の鳴るような澄んだ声が聞こえた。


 レオは声のした廊下を見る。そこには、レオと同じくらいの歳の侍女。淡い金髪を、後ろにまとめ団子状にした、その姿は歳不相応に幼く見える。


「シャルロッテか……脅かすなよ」レオはため息をつき、本を閉じる。


「当主様に叱られます」シャルロッテは、さっとレオに近づき、本を掴む。


「分かったよ」レオはため息をつき、本を返しに居間へ向かう。シャルロッテも付いてきた。


 居間に着くと、暖炉の前の座椅子が揺れている。座椅子から大きないびきが聞こえた。


「父さん……またこんなところで」レオはため息をつき、座椅子に近づく。


 そこには父の姿―髪は禿かかり、その顔や身体はたるんでいる。座椅子で寝落ちする姿に威厳はない。これでも、広大な領土を支配するオイレンブルク家の、当主なのだ。


「風邪ひくよ!」レオは躊躇なく怒鳴りつける。


「若様!」シャルロッテが目を丸くする。レオは、そんな侍女を見て、微笑む。しかし、何度声をかけても起きないので、レオは、落ちかけていた毛布を掛け直す。


 レオは、本棚へ向かい、ロウソクを向ける。父の大量の蔵書。今読んでいた騎士物語も父のお気に入りの一冊だ。巻数が奇麗にそろえられた本棚は、父の几帳面さを現していた。


「凄い量ですよね」シャルロッテが、丸く青い瞳を輝かせる。


「父さんも憧れてたんだよ、騎士に」レオは本を返し、静かに自室へ戻る。


「あんなに疲れて……」レオは先ほどの父を思い出し、顔を伏せる。大領主の仕事とはそんなに忙しいのだろうか。そして、唯一の息子である自分が跡を継がなければならないのか。


「最近、アイメルト家……隣国との話し合いが増えましたからね」シャルロッテが、レオに毛布を渡しながら言う。


「父さんは凄いと思う……でも、僕は騎士になりたい……弱きを救う。騎士に」


「なれますよ。若様なら、きっと」シャルロッテが目を細め、微笑む。そして、会釈をして、部屋を出ていった。


 レオはそれを受け止められず、布団へもぐる。


 ―僕は、まだまだなのに。


 レオには、オイレンブルクの騎士になるための要素が一つ欠けていた。それは―

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