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黒の鉄腕よ、滾(たぎ)れ  作者: 賢河侑伊
第二部 調査編
18/35

工作技術

 レオは、リヒャルトに呼ばれ、ゼーフェリンク家の領に来ていた。


「お待ちしていました」リヒャルトは微笑み、二階にある自室へ案内する。部屋には、一人の女性。女性にしては長身でスタイルも良い。


 女性は、レオとリーゼを見て、目を細める。器量は良いが、鋭さを感じさせる顔が、さらに引き締まる。


 一階ではいつも通り、稽古が行われていた。


「これから《代行者》の内情を探るべく、動き始めます」


「どうするつもりだ?」レオは、ゼーフェリンク家の参謀を睨む。


「まずは化粧を覚えてもらいましょう。その髪と顔では、すぐに正体がばれてしまう」リヒャルトは、女性を一瞥。


 女性は「失礼します」と言い、黒の顔料と鏡をレオの前に置いた。


「これから私のやる化粧を真似して頂きます」女性がレオを見る。


「分かりました」


 二時間の講習を終え、レオはすすで自分の顔を汚し、その特徴を消しながら、身分をごまかす手法を覚えた。その他、薬草などで血色を悪くしたり、唇を乾燥させる等の方法を使い、人相を変える手法も学ぶ。


「申し訳ないが、任務中は、このマウスピースと薬を飲んで頂きます」


 リーゼが薬を飲み、異常がないか確認。


「これは声をかすれさせる物です。マウスピースは、人相を変えながら、話し方を変化させる。これを付けて頂きます。良いですね」


 レオは、もごもごとしながら頷く。鏡には、すっかりと変わった自分の姿が映っていた。髪はぼさぼさ、服もみすぼらしい。顔は微かに腫れ、乾燥し、話し方もいつもとは異なる。


「それでは、任務を始めます。貴女は、尾行をお願いします」リヒャルトは、リーゼを睨み、言う。


「分かりました」リーゼは頷き、髪を下ろし、ぼさぼさにかき乱す。


「では、これから酒場に向かいます」そう言って、リヒャルトは立ち上がる。


「何をするのだ?」


「先日、《代行者》の一員の可能性がある者を捕えました。彼は、アイメルトとつながりがある盗賊団に所属していた」


 レオの脳裏に、甲冑を盗んだものが思い浮かぶ。


「彼が何人か、盗賊団の仲間を教えてくれましてね。その一人を我々のスパイに仕立て上げたい」


 リヒャルトは、質の悪い両手剣を腰に差し、「で、彼が今、酒場に居るらしいので、勧誘に向かうのです」


 二人は、ゆったりと酒場へ向かう。


 ヴィンは、多くの城郭都市がそうであるように、建物が密集し、人口密度が高い。その中でも、貧民の多い場所は治安も悪い。


 夕闇の中、微かに酒場が活気づく中、二人は酒場へ入る。


 レオは、微かに緊張するのを感じた。酒場には、傭兵だろうか、ガラの悪い連中が酒盛りをしている。


 リヒャルトは、二人分のエールを頼む。見るからに不潔な店主が、乱暴にエールをテーブルに置いた。


「さ、二人の初仕事に」リヒャルトはそう言い、グラスに口を付ける。


 レオも、ため息をつき、エールを飲んだ。苦く、不味かった。


 酒場は盛り上がり始め、リヒャルトの後ろのテーブルは、大勢で盛り上がり始めた。


「さて、私の後ろに居る坊主の大男、彼が目標ターゲットです。名前はガオ。気づかれないように、見てください」


 レオは、何気なく、リヒャルトの肩を見るふりをして、ガオを見る。坊主頭の大男で、周囲を警戒しているようだ。


「どうするんです?」レオは、つまみを口に放り、訊く。


「彼が店を出るところを狙いましょう」


 一時間後、ガオが店を出そうだったので、リヒャルトのリードの元、店を出る。


 そして、ガオに近づき、小径へと誘う。


「何の用だ」ガオは、リヒャルトを見て、青筋を立てる。


「あんた、病気の妹がいるな」リヒャルトは文脈を無視し、言う。


「ああ、だからどうした?」


リヒャルトは歯を見せて笑い、「縁を切り、関係をなくした上で、援助をしている。全く健気だね」


 ガオは、リヒャルトの首を掴もうとするが、避けられる。


「ローサに何かしてみろ、お前を殺す!」


 リヒャルトは目を細め、「何かしてほしくなければ、俺のお願いを聞いておくれよ」


 そう言い、リヒャルトは、ある地区の名前を話し始める。ガオはそれを聞き、青ざめる。


「俺を脅そうってか?」ガオは短剣を抜こうとする。


「ただの脅しじゃない」リヒャルトは、そう言い、汚い袋をガオに投げる。


「前金だ。お前が所属する盗賊団の情報を流せば、妹の治療費を出す。協力しなければ、妹を殺す」


 ガオは歯噛みし、リヒャルトを睨みつける。


「どのみち、傭兵家業は、いつまでも続けられんよ」


「なんだと?」


「災厄がまた始まる。傭兵は、マガイの前に肉の盾になるか、雇い主を裏切るかの二択を迫られる」


 ガオは呻き、地面を見つめる。その先には、リヒャルトが投げた袋。


「どうする。話を聞けば、戻れない。だが、このままでは妹は死ぬぞ。どのみち、な」


「そんな事は分かってるんだよ」ガオは震える。


「どうする。道は拓いた、進むか、止まるか」


 ガオは袋を拾い上げ、中身を見る。


 リヒャルトは微笑み、「気持ちが決まったら、またここに来い」


 ガオはとぼとぼと去っていた。


 レオは、リヒャルトの前に立ち、「脅迫じゃないか!」


「ええ、脅迫ですよ。それが何か?」


「こんな汚い真似をして、いずれ足をすくわれる!」


「《代行者》は綺麗ごとでは倒せませんよ」


 リヒャルトは突然、レオの肩を押し、壁に叩きつける。肺から空気が抜け、息が詰まる。地面に倒れ込み、その汚い地面を見つめる。


「な……なにを」


「三回です」


 レオは、リヒャルトを見上げる。


「何がだ」


「貴方が死んだ回数ですよ」リヒャルトは、その手で小型の短剣をくるくると弄んでいる。その眼には光がない。


「私のやり方に黙って従うか、ここで終わりにするか」


 レオは呻き、地面を見つめる。


「明日までに決めてください」そう言い、リヒャルトは去っていく。

 レオに化粧を教えた、器量は良いが、鋭さを感じさせる女性は、前作のクリスティーナです。一応、ヴィン近辺に居ることになっていますが、大筋には関わってきません。

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