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黒の鉄腕よ、滾(たぎ)れ  作者: 賢河侑伊
第二部 御三家編
15/35

知略―1

 御三家は固まっていた。リヒャルトは、三人の顔をゆっくりとみる。


 ゴレイヤ公国の兵の人数にもよるが、移送中に攻撃を受ければひとたまりもない。それに《第弐位階》がもし加われば移送は確実に失敗するだろう。


 ヨハンが分かり切ったような口調で、「移送を続けるのならば、現状、ここで迎え撃つしかあるまい」


 しかし、ヨハンの視線は一瞬、床に落ち、次いでソフィアを見る。それもそのはず、もし、ここで迎え撃つ選択肢をすれば、一番被害をこうむるのはアイメルト家だ。


 《第壱位階》なんてどうでも良い、移送はあなた方でやってくれ、と言われればそれまでだ。しかも、ここからオイレンブルク家の都市までは、普通に移動するのであれば数日の距離だ。普通に移動できれば、の話だが。


 ソフィアは顔を伏せ、参謀と話し合っている。リヒャルトはその顔を見つめ、内心震える。オイレンブルク家としては、ここでゴレイヤ公国を迎え撃てば、ここへ至るルートで鉄妖を仕込み、武器を没収するなどの罠を仕掛け、こちらに有利に戦闘を進めることができる。だが、砲撃により家屋が破壊されるのは避けられないだろう。


 移送の責任を捨て、ここから出て行けと言えば、被害はなくなる。先の《第弐位階》の襲撃を考えれば、守り切れる可能性はかなり低い。


 アイメルト家の騎士団長ハインツが微かに天井を仰ぎ、「ゴレイヤ公国でしたっけ……面白いお話ですが、それこそ不確定な情報と推測だけで、確たるものは何もない。さっき手紙にしても、二家が偽装した可能性もありますし」


 リヒャルトは、フェリクス(ゼーフェリンク当主)とヨハン(オイレンブルク当主)が一瞬、苦い顔をしたのを逃さなかった。


 ゴレイヤ公国の情報は完ぺきではない。現状、ゴレイヤ公国の情報が真実かどうか定かでない以上、アイメルト家がやらなければならないのは、あくまでも移送の手伝いだ。当家の騎士を貸し、何日間か宿を提供し、武器や食料を補充さえすれば良い。攻城戦の舞台として、都市を明け渡す必要はない。


 我々はアイメルトに運命を握られてしまった。リヒャルトは苦い事実を飲み込む。


 リヒャルトは、自分の主を見る。フェリクスは目を閉じ、リラックスしている様子だ。当初予定していた被害を大きく超える被害を出しながら、移送は失敗しました、等と言えば、当主としての影響力を失いかねない。


 二人の当主が沈黙する中、女帝が口を開く、


「条件があります」ソフィアの口元には怪しい笑み。


「なんだ、条件とは?」


「一つ目はゴレイヤ公国との戦争時に、ゼーフェリンク、オイレンブルクが我々に全面協力し、ゴレイヤ公国が降伏するまで戦争を続けること。二つ目が戦争に勝利した際、領土分割はアイメルト家主導で行うこと」


 フェリクスとヨハンは苦い顔をした。《第壱位階》移送のために、わざわざ兵をアイメルトへ送り、アイメルトが領土を広げるための戦争に加担しなければならない。


「少し考えさせてくれ」フェリクスは威嚇するように目を見開き、言う。


「私も同じだ」ヨハンは掠れた声で言った。


 ソフィアは頷き、「では、三日だけ猶予を」


 二人は頷き、会議は終了した。

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