真実
移送開始から、3ヶ月ほどが経った。物資の移送も効率よく進んでおり、北部地域で回収した武器を大きな馬車に積み込み、それを各地へ運んでいる。
国は確実に復興しつつあった。しかし、レオの心には、大きな穴が開いていた。
数日滞在する宿の一室で、レオはうずくまっていた。バッグに詰められた甲冑を、抱きしめ、レオは呻く。
鉄妖を使う上での法は、同じく鉄妖を操る力を持つ者たちの利害関係によってのみ、機能するのではないか、と言う疑問。鉄妖を使う大勢が、一斉に法を犯したら、それを止める者など居ないのではないか?
ディーデリヒは、オイレンブルクを、許された者、と称した。だが、永久に我々が法を順守できる確約など、ない。
レオの脳裏に傭兵の苦悶の表情が浮かぶ―そして、それを生み出した時の、自身の胸に生まれた黒い衝動。
僕は、弱きを救う騎士になるんじゃないのか。歯噛みし、涙を流す。
「若様」リーゼの声。
「なんだ」涙をふく。
「お父上が呼んでおられます」
レオナルトが父の元へ向かうと、神妙な顔をして天井を見つめていた。
「なんでしょう?」
「お前に話があるのだ。今運んでいる重要物資の中身は《第壱位階》そのものなのだ」
レオは唖然とする。
「どういうことですか? 《第壱位階》は勇者によって殺されたはずでは?」レオは修道院で魅せられた絵画を思い出す。魚のようなヒトのような翼の生えた異形、それが《第壱位階》ではないのか。
「《第壱位階》は倒されたというのは王が流した嘘なのだ」
「じゃあ、本当はどうなったの?」
父の話をまとめると、ざっとこうなる―
20年前、突如として《第壱位階》が北部地域に現れた。おそらく空から落ちてきたのだろう、と言われている。それは異形でかつ十メートル程もある巨大な物体で、どうやら『生きている』らしいことだけは分かった。ただ《第壱位階》に意志はなく、移動も行えなかった。しかし、周囲の生物を変異させてしまう為、その駆除は必須であった。
当初は砲撃による攻撃を行ったが、再生力が強く、殺すのは不可能であった。また攻撃で飛び散った破片は生物を変異させ、マガイにした。そこで、アイメルト家の当時の当主・エーレンフリートは、三等分に《第壱位階》を切り分け、再生する前に隔離する作戦を立案。御三家の協力の元、作戦は実行され、計画は成功した。作戦は成功、等分された三つの身体は再生せず、隔離されている為、合体することもなく、そのままの状態を維持し続けた。
レオは話を聞き終え、ゆっくりと息を吸う。
「じゃあ《第壱位階》に何らかの問題が起きたという事ですね」
父親は頷き、「《第壱位階》が居ることで発生する《祝福》の力は大きく、それを独占したいと考える者も現れた」
黒い衝動―レオにも生まれた昏い感情。鉄妖の圧倒的な力を独占した時の高揚感。独占したいという欲望。それが自身だけでなく、他者にも明確に存在するという事実に、レオは安堵し、同時に恐怖する。
「中でも、アイメルト家は等分された身体をさらに分け、各支配地域の送ろうとした。そこで事故は起きた」
「事故?」
「アイメルトの野望を阻止しようとしたゼーフェリンク、オイレンブルクの妨害により、移送は断念。そして、二つに分けたそれを元の場所に戻すべく近づけたところ、炸裂し、完全に失われてしまった。これにより、アイメルトは力を大きく失った」
「だから、アイメルト家は大きく没落したのか……では……等分させた体を合体させると炸裂し、失われるということですか?」
「そうだ。その後、何階かゼーフェリンクとオイレンブクルで実験が行われましたが、等分された肉体をある程度の期間隔離し、再び合体させようとすると炸裂し、消滅してしまうことが分かった」
父は大きく息を吸い、
「我々はオイレンブルクの領地まで《第壱位階》を移送し、合体させ、《第壱位階》を完全に消滅させようとしている。しかし、妨害も多い」
父は目を伏せる。レオはその意図を察する。
「リヒャルトが言っていた……この災禍は人為的と言うのは、本当なのですか?」
「この災禍を引き起こしたのは《代行者》と呼ばれる武装集団だ」
父は静かに《代行者》について、話し始めた。
一年前のマガイの襲撃事件には何者かの人為的な介入があった。なぜかと言えば、北部地域で雨季が始まる時に、たまたま堤防が壊れ、20年ぶりに何処からともなくマガイが押し寄せることなど考えられないからだ。それに洪水は、聖典の内容とも一致していた。
《代行者》それが襲撃事件を裏で操っていた主犯と目されている組織の名前だ。何の代行者かと言えば、それはもちろん神だ。だが、自称しているだけで、王も教皇も認めていない。彼らは聖典の内容に沿い、破壊行為を行っている。
聖典の内容はざっとこんな感じだ。天使が地のいきものと交わり、怪物が生まれる。怪物は世界を荒らしまわり、神の怒りに触れる。神は洪水を起こし、地は滅びる。
《代行者》は、マガイが怪物に当たると考え、その後に起こる大量絶滅を防ごうと考えているのだ。どのような妖術を使っているのかは分からないが、連中はマガイを生み出すことができる。
神が起こす洪水を事前に引き起こし、その被害を最小限にする―
「いかれてる……」レオは話を聞き終え、吐き捨てる。
「《代行者》の正体は、アイメルト家の臣下と言われている」
レオはハッとし、「もうすぐ、アイメルト領に着く……」
「そうだ」
圧倒的な祝福の力、それを狙う者たち。そして、かつてそれを求めた者たちのいる場所に我々はこれから行くことになるのだ。




