プロローグ
どす黒い闇が辺りを包んでいた。それを切り裂くように、真赤な炎が立ち昇り、踊り狂う。
炎が、ごうごうと音を立て、家財を焼き、噛み砕いていく。そんな中、小さな泣き声が聞こえた。声の元は、炎の中に立ちすくむ一人の少年―
少年は燃える家屋をかき分け、両親を呼ぶ。しかし、燃え盛る炎は、その声をかき消す。
煙に喉と鼻をやられ、少年は咳込みながら地面に倒れ込む。炎は勢いを増し、世界そのものを燃やしているかのようだった。
「助けて……」少年の眼から、ぽろぽろと涙が零れ落ちるが一瞬で気化してしまう。
声に応える者は居ないかと思われたが、炎の奥に異様の影。
少年が顔を上げると、巨大な影が現れる―人間の背骨から、膨大な数の樹枝が生え、縦横無尽に生えたような異様な形。その姿は、かつて修道院で習った、異界の神と類似している。
《第壱位階》……少年は異形の名を呼ぶ。こいつが火事の原因なのか―
少年は、災厄を具現化したような御姿を見つめていた。影は炎の中にたたずみ、あちらこちらに移動した。
少年は泣くのを辞めていた。もう死ぬのだろうな、と思った。
そんな時だった。炎をかき分け、黒い甲冑が飛び込んできたのは。そして、その黒腕が少年の腕をつかみ、炎の中から助け出したのは。