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狐のお茶屋  作者: ネオン
2/2

始まり

「ついたついたっと」

色付いた木々が生い茂る山林を抜けてすぐ、突如として現れる小さな古民家。それを見上げながら俺ーー金崎慎二は首にぶら下げているカメラをぎゅっと握る。

「よぉし、まずはカメラの設置! 早速なにか写ったりしてなぁ~」

俺がここに来た理由は他でもない。5年前、心霊スポットとして有名だったこの古民家を、オカルト部部長として(ちなみにオカルト部員は俺1人)隅から隅まで調べ尽くすのが目的だ。

数年前、この古民家に『女の幽霊が出る』だの『写真を撮ると白いオーブが映る』などと、随分と在り来りな心霊現象が噂されていた。

噂はあっという間に町中に広がり、夜な夜な好奇心旺盛な若者たちがこぞってここを訪れていた。

もちろん、俺もその時に1度訪れてはいるが、そういう全盛期の心霊スポットこそ、何も起こらないというのがオチだ。

噂はあっという間に廃れ、今ではこの場所の存在すら忘れられている。

しかし、多少霊感があり、今まで様々な心霊現象を目にした俺は知っている。

こんなふうに人々に忘れ去られた時こそ、心霊スポットは本領発揮する。

つまり、今が絶好のタイミングだということだ。

「周辺のカメラの設置もこれでいいな。あとは………」

ボロボロの古民家を見上げ、俺は首から下げてるカメラをぎゅっと握りしめる。

改めて見るとボロボロな建物だ。素人目線でも大きな地震が来たら一発でアウトだというのが分かる。

しかし、そんなこととは裏腹に俺の胸は高鳴っていた。

「お待ちかねの中へと参りますか!」

大きな期待を胸にし俺は大きく深呼吸をし、目を閉じる。

「おっ邪魔しまーすっ!」

戸は思ったよりも滑りがよく、バーンッと大きな音を立てて勢いよく開いた。

建物の外見と同じく、荒廃して散乱している中を想像していた。まさに以前来た時はそんな感じだったからだ。

以前は心霊スポットとして人気を博してしまったが、今は噂の廃れたただの廃墟。もしかしたら扉を開けた瞬間に幽霊に出会えるかもしれない。

そんな期待を胸に俺は静かに目を開けたーーー

「………は?」

俺の記念すべき第一声はこれだけで終わった。

「なっ、なんだよ……これ……」

古民家の中は以前来た時とは変わり果てていた。

内装は綺麗に整備され、畳の敷いてある小上がりに小さめのテーブルと座布団がいくつか並んでいた。入口から見て左側にはカウンター席まである。

そして、銀髪の女の子がいた。

カウンターの中の隅で、割と分厚めな本を読んでいる。

狐のコスプレだろうか。よく神社で見かける巫女服に身を包み、髪色と同じ色の耳と、ふわふわしてそうな尻尾がついている。

どん〇〇のCMに出てくる狐の銀色バージョンみたいだ。

「あっあの、きみ!」

俺が彼女を呼ぶと銀色の耳がぴょこっと動いた。

へぇ……今どきのコスプレってそこまで進化してんだな……。

「……私のことでしょうか?」

「きっ、きみ以外に誰がいるんだよ」

「…………」

女の子は怪訝そうな顔しながらも、読んでいた本をカウンターに置いて口を開いた。

「どなたに呼ばれてここへ?」

「へ?」

「ですから、どなたに呼ばれてここへ来たのですか?」

「いや、別に呼ばれてないけど………」

「………? でしたら何故ここへ?」

女の子の顔が余計に険しくなる。

「そっ、そりゃ調査のためだよ。ここ、心霊スポットだったろ? 噂が廃れた今だからこそ、幽霊様の本気が見れると思ったんだけど……」

「………つまり、あなたの興味本位だけでここに来たと?」

「そうだけど……」

「はぁ……」

俺の言葉に、女の子は呆れたようにため息をつく。

「だっ、だってよ! 『こんなこと』になってると思ってなかったからさぁ!」

「………こんなこと?」

「なっなぁ、きみが全部ここを改装したの?」

「………えぇ」

「すっ、すっげぇ! まじか! いつ!?」

「……あなた、私が何に見えますか?」

俺の質問には答えず、彼女は淡々とした口調で俺に問いかける。

「え、何って……銀色の狐のコスプレした女の子……」

「ここは何に見えます?」

「んーと、カフェ……とか? なんか喫茶店っぽいって言うか、あっでも、喫茶店に座布団はないか。なんだろ……こう、あれ、江戸時代とかにあって団子とか出してくれそうな―――」

「……茶屋」

「そうそれ! 茶屋!」

「…………」

俺がそう答えると、女の子はますます怪訝な顔をする。終いには、はぁと小さくため息を吐かれる始末。

「え、何? なんか俺……まずいことでも言った?」

「……本当なら今すぐお帰り願いたいですが……仕方ありません。私は仕事の時間ですので、そちらに座って少しお待ちください」

「え? あ、あぁ、うん……ありがとう」

何が何だか分からず戸惑っている俺を、女の子はすぐ側のカウンター席に案内する。

「あぁ、それと」

「ん?」

何かを思い出すように、彼女は静かに俺の方に向き直る。歩く度に揺れる長い銀髪が、不思議と雪のようにキラキラと光っているように見える。

「ここで見た事は全て他言無用でお願い致します」

たった一言のその言葉に、背中から変な緊張感が伝わる。同時に、改めて正面で見る彼女の姿は、あまりにもこの世のものとは思えない程整っていて、俺は思わずその姿に息を飲んだ。

今思えば俺はこの時から、既に彼女の魅力に引き込まれていたのかもしれない。

これから起こる、あまりに不思議な現実も知らずに───

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