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後編

2人で夜風に吹かれていると、しばらくして重要な人事の発表があるとして、ホールに招待客を集める声が聞こえた。



「やっとか。始まるな、いくぞ。」

ユージーンは何か知っている様子だ。




2人がホールに戻ると、既に殆どの者が集まっており、発表が始まる寸前だった。


進み出てきたのは、王の側近中の側近である男性だった。

イルゼにすら見覚えのある顔だ。



「これから、緊急の人事を発表する。第4騎士団の団長であるハリー・ヘッツェンの解雇。代わって、元第2騎士団の副団長であるローガンを第4騎士団の団長とする。以上だ。」





あまりにあっさりとした、要件だけの発表に、イルゼは何事が起きたのか瞬時に理解できなかった。



元第2騎士団副団長のローガンを、第4騎士団の団長に????

言わずと知れた、イルゼの父である。

横領の罪で捕らえられ、いまだに幽閉されているはずの。






「な、な、なぜですか!?なぜこの私を解雇して、犯罪者であるローガンを団長に!!」




叫んだのは、解雇されると発表された第4騎士団の団長だろう。

今日も警備をしていたらしく、寝耳に水の様子だ。



「ハリー・ヘッツェン!王の決定に不服があると申すのか?」



王に詰め寄ろうとするハリーの前に立ちはだかって遮る王の側近。



「まあいい。クレイヴ、説明してやれ。」

「は。」


王は慌てる事もなく、鷹揚に側近に指示を出す。

詰め寄られることも想定していたのだろう。





「ハリー・ヘッツェン。貴様は、3年前、ローガンの罪を捏造し、陥れたことが発覚した。既に証拠も証言も固まっている。犯罪者はお前のほうだ。」






「そ、そんなバカな!」

「人事を盾にして部下を脅して、証拠を捏造させたようだな。第4騎士団は平民出も多い。仕事を失えば家族が路頭に迷う者も多かっただろう。・・・・それで仕方なく指示に従ったようだが、そのせいでローガンが3年も幽閉されていることに心を痛めていたそうだ。失職覚悟で複数人が証言している。」


「な・・・・な・・・・・。」


「貴様は平民出の多い第4騎士団の団長職が不服だったようだがな。元々3年前、第2騎士団団長への異動が決まっていたんだ。そしてローガンの第4騎士団団長就任もな。第2騎士団長のバーナードは、本人の希望で、少し早いが勇退して楽隠居する予定だった。」



「な!!」



「貴様先ほどから『な』しか言ってないなぁ。余計な小細工などしなければ、今頃とっくに希望の第2騎士団の団長だったというのに、なんだってあんなアホなことをしたのか。」


「な・・・・くっ。」



「父上!」

下を向き、こぶしを握り締めて打ち震えるハリーに、駆け寄る者の姿が。

先ほどイルゼに嫌味を言ってきた男だ。



「ブラッド。お・・・・お前、お前のせいで・・・・・。」

「だ、だって父上。平民出の女が首位なんて、何か裏でやっているとしか!」



「ああ、ブラッド・ヘッツェンだったか。確かローガンの娘と同期で、2位とぶっちぎりで離されての3位だったとかいう。・・・・息子にねだられたか。愚かなことだ。」

「ぐうぅ。」



どうやらブラッドというらしい。



「その辺にしておけクレイヴ。見せしめとしては十分だろう。憲兵!そこの男と、ついでに息子も連れて行け。連帯責任で事情聴取だ。・・・ローガン・シュナイツ!!」


「は!!」


王の呼びかけに、力強い返事と共に堂々と現れたのは、3年前と変わらぬ逞しい姿の元第2騎士副団長。

いや、第4騎士団長のローガン。


「お前の罪は、全てハリーの作り出した捏造であった。この3年間、幽閉の身であっても、鍛錬を欠かさず、備えていたと聞く。第4騎士団長、できるな?」

「もちろんでございます。」


久しぶりに見る父親の姿は、3年前と全く変わらなかった。


「ふ、いいだろう。既に冤罪は晴れた。職務に励めよ。」

「は。身命を賭して、職務を全ういたします。」



「よし。イルゼはいるか!イルゼ・シュナイツ!!」

「は、はい!!」

王とローガンの会話が終わったとみるや、側近に突然名前を呼ばれて、驚くイルゼ。


しかし積み重ねてきた訓練の成果を遺憾なく発揮し、動揺を表に出さないようにこらえる。


促されるまま、王の御前まで進み出る。

少し迷ったが、ドレスな為、騎士礼ではなく淑女の礼をとる。



「君に罪はないことは以前から明らかであったとはいえ、父親が幽閉されていてはこの3年間、風当たりも強かっただろう。決まっていた第1騎士団への入団予定も潰れたと聞いた。希望するなら、今からでも第1騎士団へ入団できるよう取り図ろう。ゆっくり考えろ。」


「はい。ありがたき幸せです。」


なんと王自ら、直々に言葉をかけてくれる。


「君の友人、ユージーンに感謝しろよ。普通なら1度確定した罪を、ここまで詳しく再調査はしない。ユージーンに頼まれた第1騎士団の団長やら、ローガンの冤罪を晴らしたい第2騎士団長からうるさくせっつかれてな。それに退団願を握り締めた第2、第4の騎士達が次々と嘆願にくる。あれほどの人数に辞められては騎士団は崩壊だ。終いには王妃までイルゼの父の冤罪を晴らせときた。」


「ユージーンが・・・王妃様まで・・・。」


「騎士学校の首席卒業は得難い人材だ。王妃の護衛か、騎士団に入ってくれれば嬉しいが・・・・・。」



そこでなぜか王はチラリとイルゼの後方を見た。



イルゼもその方向を確認すると、そこにはユージーンの姿が。

不機嫌そうなユージーンと目が合うと、王はニヤリと嗤った。



「ふ。王を睨むとは良い度胸だ。・・・既に将来は決まっているようだ。」

「・・・・・はい。」


当然、イルゼはとっくにフェルクス家に骨をうずめる覚悟だった。



「ん?ああ、少し意味が違いそうだが、まあ結果は一緒か。3年間、大変だったな。下がって良い。」

「は。もったいないお言葉、ありがとうございます。失礼いたします。」










*****






「父上!」

「おうイルゼ!元気そうで安心した。」



王の御前を辞したところで、側近の一人に声を掛けられ、ある部屋に案内される。

そこには父が待っていた。



思わず子どもの頃のように駆け寄って抱き着くと、危なげなく抱きとめてくれる。

3年間、ずっと訓練していたというのは本当のようだ。父らしい。




「そこのユージーン君がちょくちょく面会に来てくれて、様子は分かっていたけどな。実際に見るとまた違うもんだなぁ。ドレスなんて着ちまって、どこのご令嬢かと思ったぞ。」

「これは、今日だけだよ。・・・・ユージーン。王の御前に行く可能性があるのを知っていたんだな?」



イルゼに面会など許されていなかったが、ユージーンが父と会って様子を伝えてくれていたのは知っていた。

当然、侯爵令息の権力を使っての事だ。


イルゼ達の為にそこまでしてくれて、感謝の言葉もない。



「まあな。」




「ユージーン。この3年間、本当に、本当にありがとう。とてもこの恩を返しきれるものではないけれど、これからもフェリクス家のために一生を捧げる覚悟だ。」

「そうか、それは良かった。こちらもその予定だ。」


ユージーンが妙に嬉しそうで、珍しくニコニコと笑っている。

お礼を言われたのがそれほど嬉しかったのだろうか。言われてイヤな者はいないと思うが。



「それにしても、なぜ私と父の為にここまでしてくれたんだ?私の能力を買ってくれているのなら嬉しいが、それだけでここまで・・・。」

「それもあるが、俺もローガン殿に用事があったからな。卒業パーティーの日に話すつもりが、いきなり捕らわれて驚いた。幽閉中に話す内容でもないし・・・・全く、3年も待たされてしまった。」

「用事?」



ユージーンは、可笑しそうに2人のやり取りを見守っていたローガンの方に向き直る。

その顔は先ほどまでの笑顔ではなく、とても真剣なものだった。



「ローガン殿。イルゼを私にいただきたい。何があっても守って、一生幸せにすると誓う。本人の承諾も先ほど得ました。」

「おう、ユージーン君がうちの娘を何があっても守るってのは、この3年でよおーっく分かったから良いんだけどよ。本人の承諾を得たってのは、ちょっと違うと思うぞー。一応もう一回、本人に確認しておけ?」

「問題ありません。」



話の流れがよく分からないが、ユージーンが今度はクルリとイルゼに向き直った。



「イルゼ。」

「うん?」

「結婚するぞ。」

「・・・・・なんだって?」

「さっき一生を捧げるって言っていただろう。」

「あ、あれはそういう意味ではないだろう!まさか身分が違いすぎる。・・・一生仕えるという意味だ!」

「騎士学校を卒業したら準貴族だ。いや、ローガン殿が騎士団長になったので、正式に貴族だな。それにどうせ一生仕えるなら結婚するのも同じことだろう。断って、俺を一生結婚できない男にするつもりか?」



そう言われると反論しにくい。しかしこれがウソなことは、貴族社会に疎いイルゼにだって分かる。



「な、なんで一生結婚できないことになるんだ。お前が声を掛ければ、断れる女性なんていないだろう!」

「じゃあ断らないな?」

「な、う、な。」

「それは承諾という事でいいな。」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」


散々迷ってから、イルゼは頷いた。

結局、どう考えても、ユージーンの願いを断る選択肢など、イルゼにはないのだ。

それに本当に嫌な事を願われたことは一度もない。


――――――――――――――そういうことだ。






「こういう訳で、問題ありません。」

「・・・うん。なんか本当に問題なさそーだわ。結婚を許す!」




そうして、訳が分からないくらい色々な事があった長い長い夜に、ようやく幕が下りたのだった。







*****






「父上、母上。イルゼと結婚することが決まりました。」



流石に舞踏会の日はもう色々な事がありすぎたので、報告は侯爵夫妻の揃う日に、後日改めて行われることになった。



忙しい夫妻が揃う日となると、一週間後になってしまったのだが、その間イルゼは生きた心地がしなかった。

次男とはいえ、侯爵家の令息が、元平民の護衛などを結婚相手に連れてくるのだ。

イルゼは例えどのような言葉を掛けられても、甘んじて受け入れる覚悟だった。



身を引くと言う選択肢は、不思議と思い浮かばない。




「なんだと、お前・・・・・・。」



侯爵が眉を顰める。当然だ。しかしどんなに反対されても・・・・・。



「今更か!!?とっくにプロポーズしていたのではなかったのか!?え、違うのか?じゃあなんでイルゼさんはずっとうちにいたんだ?」

「やだあなた。イルゼちゃんは護衛と言う名目で、うちで花嫁修業をしていたんですよ。」

「ああそうか、お父上の事もあったものな。大変だったねイルゼさん。うちのユージーンをよろしく頼むよ。」




「・・・・へ?」




「そうですね。この3年、母上について歩いてマナーもダンスもばっちりですし、社交界にもお披露目済みです。お父上の冤罪も晴れて、本人も騎士爵。全く問題ありません。」


3年間花嫁修業?聞いていない。



「これでやっと、正式にうちの娘だと紹介できるわ。今までも公認のようなものだったけど。皆さんうちの護衛においでーだなんて、からかってくるのだから困ってしまったわ。」



公認とは?何からの公認なんだろう。



「ユ、ユージーン?花嫁修業とは何のことだ?お披露目って・・・・。」





「イルゼ。言っただろう。俺はバカではない。」

「いやそれは分かっているけど。」








「俺に勝負で勝つような女を、逃がしてやるほどバカではないんだよ。」




これまで見た中でも、最高に良い笑顔のユージーンに、とても勝てる気がしないイルゼだった。









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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な作品をありがとうございました
[良い点] 三年知らないのは本人のみ(笑)幸せになってね。 [一言] 心温まる物語をありがとうございました。
[一言] モヤっとというか、裏テーマだったらまんまとやられてるんですが。 これってコンプレックスを拗らせて恋愛感情と勘違いしたユージーンが、主人公のトラブルを利用して、翼をもいで籠の鳥にした・・・よう…
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