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パーティーで婚約破棄

「レイア嬢との恋愛はあり得ないとしても、結婚の対象にはなり得るのではないですか?」




「——ということをウィリアムに言われまして」

「うん、殿下。いきなり結婚の対象とかぶちかましたウィリアムにも驚いたけど、ここでそれを、しれっとレイアさんに相談する神経にびっくりだわ」


 イザークの言う「ここ」はゴシック様式の高い塔の中のレストラン。出される料理は中世ヨーロッパのそれを再現したもの。


「相談されて当意即妙の対応ができるかどうかは自信がありませんが……でも、わたし本人が蚊帳の外に置かれるよりかは良いと思います」

 エドモンド・レイトンが描いたゴディバ夫人の扮装をしたレイアが複雑な表情で答える。彼女の白いワンピースと編み込んだ髪は原画そのまま。ジュールの格好が絵の右側にいる夫レオフリックそのまま——ふくらはぎ丈の黒いチュニック、髭までは再現していない——なのは意味深と捉えるべきかと迷う。


「あの……僕は同席していてもよろしいんでしょうか?」

 学園の卒業生でジュールのゲーム友達と紹介されたオットーという青年が、おずおずと口を開く。


「むしろ、相談できる人といったら、このメンバー以外にはいません。

 オットーさん以外のゲーム友達は、この国の事情に明るい訳ではないから背景を説明するだけで一苦労でしょう? その点オットーさんなら学園在学中にも仲良くしてもらっていて諸事情の把握も完璧、大変信頼できるお人柄でもあります」


「『信頼できるお人柄』というのは確かにそうですね。レイアさん相手とどっこいどっこいの舞い上がり方で突撃してきたジュールを上手くいなして、ウィリアムやローズマリー嬢からのちょっかいにも辛抱強く応対して。頭が下がる思いです」


「ちょっかいと言いますか……本日の議題にも関連しそうですが『婚約者同士の交流の邪魔をするな』とのご指導ですね、端的に言えば」


「そういうときにジュールさんは『婚約者じゃない』とは言わなかったのですか?

 わたしの目の前でジュールさんは、ローズマリーさんに向かって『君は僕の婚約者じゃない』と言い切り、ローズマリーさんもそれを否定しませんでした」


「『まだ婚約者じゃない』問題は僕の在学中からですね。

 殿下が『候補かも知れないけど婚約者じゃない』と言い張る一方、ローズマリー嬢にとって——ウィリアム君やアリス嬢にとっても——『婚約者候補』から『候補』の文字は実質もう外れているものなのです。

 他に婚約者候補がいる訳ではないし、周囲も婚約者として扱ってたようですし」


「いわゆる『外堀を埋める』ような圧力は散々受けてます。

『婚約者には頻繁に贈り物を』とか。無視すれば非難されますが、従えば僕自身が婚約を認めた証拠にされる」


「そしていざというときジュールさんが頼ろうとしている国際法での救済が受けにくくなる、でしたっけ? 十二歳以上と十五歳以上のどちらをとるにしても、判断能力のある年齢に達してからの意思表示は何かと鍵となると思います」

 ジュールの後に委細承知とばかりにレイアが続ける。


「何か思い出してきた。本人の意思を無視した婚約を強制するなら性的搾取を国際司法に訴えてやると殿下が言えば、じゃあ白い結婚が前提ならお前は婚約に同意するのかと陛下たちが言い、オットーさんまでも巻き込んだ大騒ぎになった覚えが」


「巻き込まれたというか僕が妙な入れ知恵をしたのが悪いと叱られました。

 どんな入れ知恵かと参考までに聞いてみたら、うーん……僕はパーティーで婚約破棄なんて殿下に勧めた記憶はないのですが」

 オットーが苦笑混じりにイザークの補足をする。


「『パーティーで婚約破棄』はオットー先輩には関係ないのに。アリス嬢の提唱する〈シナリオ〉に出てくるもので、ローズマリー経由で僕は聞きました。

 レイアさんは『パーティーで婚約破棄』ってご存じですか?」


「はい。わたしが〈シナリオ〉を勉強した限りでは——

 卒業パーティーなどで王子様が『君との婚約を破棄する』と宣言します。

 王子様の横には〈ヒロイン〉がいて腕に胸を押しつけたりしています。

 婚約破棄だと言われた〈悪役令嬢〉は〈ヒロイン〉を虐めたと断罪されます。

 虐めの内容はノートを破いたり服を破いたり階段から突き落としたり、です。

 〈ヒロイン〉を破落戸に襲わせるなど学園外での行動もあります。

 その後〈悪役令嬢〉が地下牢に入れられ処刑または国外追放になるパターン、

 虐めは実は〈ヒロイン〉の捏造だったとバレて〈ヒロイン〉の方が罪に問われるパターンがあります」


「それで『パーティーで婚約破棄』って良いかもなあと思ってしまったんですよ、僕は。目撃者多数で揉み消しもできない状況に追い込むという点で。

〈悪役令嬢〉に逆襲されるパターンでは王子は廃嫡されるぞと脅かされましたが、〈悪役令嬢〉に冤罪をかけたことへの罰なら自業自得だし、冤罪抜きでも政略的な婚約を自分勝手に破棄したら廃嫡だ国外追放だというならもう望むところだと。

 さすがに処刑だの幽閉だのは勘弁してもらいたいですが」


「そこまで言うのか……。護衛として殿下とは行動を共にすることが多かったけど、殿下がそんなに、なんつうか追い詰められていたとは……えっとオットーさんは知っていたんですか?」


「そうですね、ウィリアム君はもちろんイザーク君もローズマリー嬢とは昔からの馴染みだから、『どうしてそんなに嫌がるのか、可哀想じゃないか』という気持ちを殿下に向けがちと思います。僕は彼女と付き合いが長い訳でもなく、彼女への情はあまりないので、殿下も話しやすかったんじゃないでしょうか」


「はい、オットー先輩には愚痴をたくさん聞いてもらいました。すみません。

 僕がローズマリーとの婚約を拒否しているのは相性の悪さ、価値観の相違による問題なんです。彼女の容姿や所作にはそりゃ問題はありません。恋愛感情は持てないですが、恋愛と結婚は別と言われれば、それもそうかもと思います」


アルファポリスに先行投稿しています。


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