表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/54

ヒロインは悪役令嬢と仲良しになるか

 レイアは立ち直り「もっと詳しく」を選択することにした。

「〈ヒロイン〉と〈悪役令嬢〉が仲良くなるルート——アリスさんは前にそれについて語ったことがありますか?

 もっと詳しく話を聞かないと、皆が幸せになると言われても判断に困ります」


「初めて言いました! つい最近、思いつきましたので。

 〈ヒロイン〉と〈悪役令嬢〉が仲良くなれば最強のタッグパートナー。

 めっきり元気がなくなり戦う気力もなくしたローズマリー様も見事戦線復帰です」


「争いは何ももたらさないんじゃなかったんですか……。

 いや、まあ言葉のあやでローズマリーさんがまた元気になって活躍するのは良いことだと思いますが」と担当官の中の人のジュールがボソリとつぶやく。


「『争いは何も』はローズマリー様のお言葉です。

 フェルゼン様にはしてやられたけど巻き返せますよと励ましたら、学園のご学友たちと組んで争おうなんてダメよ、そんな争いは何ももたらさないって。

 〈ヒロイン〉相手にもすっかり戦意喪失で、殿下を盗られてもいいんですかって煽っても、嫉妬に狂った〈悪役令嬢〉にはなりたくないと寂しそうに言うんです。

 正直嫉妬はしてるけど、殿下が友人とおっしゃっているのに「下衆の勘繰り」でアレコレ口出ししても嫌われるばかりだし、レイアさんを恋敵と見做すことは殿下の友達発言をまるで信用してないみたいだし、とか言ってました。

 レイアさんが〈ヒドイン〉だったら、殿下のお側にはふさわしくない!ってやれるんでしょうけどレイアさんはレベル高い系の〈ヒロイン〉みたいですね。『とても優雅に綺麗に歩いていらっしゃった』とローズマリー様が褒めてました。冤罪かけて〈ざまぁ〉仕掛けてくるような人とも思えないし、レイアさんがそんなことする必要すらないでしょうと。敵ではなく味方として出会いたかったけど今さらそれも難しい、みたいなことも言ってたくらいです」


「それで休戦協定みたいなものを申し出ようということでしょうか」

 担当官の中の人のジュールはさっきアリスの言った「戦線復帰」を気にしつつ尋ねる。


「休戦というか〈ヒロイン〉と〈悪役令嬢〉の戦いは終わるのが良いです。

 今のケイト様とカタリーナ様と同じようにローズマリー様もレイアさんと仲良く過ごせるようになって、ローズマリー様の派閥のお嬢様たちも肩身の狭い思いをすることがなくなって。

 ローズマリー様はレイアさんのことを認めてますし、後はレイアさんがローズマリー様の良さを認めて仲良しになれば、〈ざまぁ〉とか〈ざまぁ〉返しとか殺伐とした争いも終わります」


 その「殺伐とした争い」の元凶に言われると複雑だが、一考の余地のある提案のように聞こえる。しかし何かが引っかかる。


「殿下たちに取りなしてくれとアリスさんは言いましたが、わたしがローズマリーさんたちとも親しく交流できるようにジュールさんに頼めば良いのでしょうか。

 わたしの振る舞い次第でローズマリーさんの顔も立つでしょうし、お互いの疑心暗鬼をなくして仲良くなるのは『皆が幸せに』なる有力な選択肢の一つかもしれません。

 わからないのは『戦う気力』とか『最強のタッグパートナー』とか、何と戦うつもりなのか——です。まさかフェルゼンさんの派閥相手ではないでしょうし……力を合わせてハニートラップに対抗すれば良いのですか」とレイアが尋ねる。


「あっ、ハニトラ要員との戦いもありますね。忘れてました。じゃあそれも。

 一番一緒に戦ってほしい相手は殿下ですけどね。愛は戦いだーとは良く言ったもので殿下は本当に手強い敵です。婚約者としてするべきことから逃げ回ってばかり。そんな殿下をローズマリー様が〈攻略〉するのを手伝ってもらえれば最高だし、最低限邪魔をしないようにしていただけるだけでも助かるんです」


「邪魔ですか? わたしはジュールさんに『ローズマリーさんに会いにいかないで』などと言ったことはありませんが……」

と首を傾げるレイアの横で、担当官アンドロイドがやや焦ったように口を挟む。

「邪魔と言えばアリスさんの手紙にはオットーさんは邪魔者だと繰り返し書かれていました。男性のオットーさんまで邪魔者扱いするとは、アリスさんが邪魔だと感じる範囲は普通の人が想像するよりずっと広いように思いますが」


「オットー様ですか。えっと塔や城のレストランで一緒だったそうですから、レイアさんともお知り合いですよね。

 いえ、違うんです。殿下との男色疑惑を噂してるのは一部の人たちだけで、あたしもローズマリー様も全く全然これっぽっちも、そんなこと勘ぐっていません。

婚約者同士の時間を邪魔する困った人だと思っていましたけど」


 ジュールの脳裏にイザークの言葉がフラッシュバックした。

 ——ふと思ったけど、婚約者さんにとっては殿下こそが、自分とオットー先輩の仲を引き裂く邪魔者だったんじゃね? つまり殿下が〈ヒドイン〉。


「殿下の方からオットー様に付きまとってるんだから、殿下を責めるのはともかくオットー様を責めるのは違うだろうと側近候補の人たちなどは言うんですけど。

 でも——レイアさんはどこまで聞いているかわかりませんが——塔にお店を出したいとローズマリー様が殿下に相談しているところに口出しして、ネチネチとダメ出しばかりしてたそうなんです。お店を出すのは何かと大変だとして、困難を二人で協力しあって乗り越えるための大切な時間を、ずっと側に居座り、何かと話に割り込んで邪魔するのはどうかと思うんです」とアリスは言い募る。


 ジュールとレイアは塔のレストランでのオットーの言葉を思い出していた。


 ——その審査に通りそうもない理由を殿下が苦労して説明していたから、つい口を出してしまったんです。


 レイアは言う。

「わたしが聞いているのは、殿下の説明にオットーさんが補足するような形で助け舟を出していたという話です。それで邪魔者だと認定されてしまうのは……正直厳しいです」


「ローズマリー様と仲良しになったレイアさんは、オットー様のような態度は取らないと思います。側近候補の人たちとかローズマリー様とそれなりに付き合いがあって、殿下とローズマリー様の仲を応援、とまではいかなくても邪魔はしないという配慮はしてくれてたんです。二人の会話に口を出して、しかもその内容が殿下のキツい言い方を嗜めるどころか、倍にしてローズマリー様に浴びせるなんて、オットー様が登場する前まではあり得ませんでした」とアリス。


 塔のレストランでオットーはこうも言っていた。

 ——ウィリアム君はもちろんイザーク君もローズマリー嬢とは昔からの馴染みだから、『どうしてそんなに嫌がるのか、可哀想じゃないか』という気持ちを殿下に向けがちと思います。僕は彼女と付き合いが長い訳でもなく、彼女への情はあまりないので、殿下も話しやすかったんじゃないでしょうか。


 アリスはこう続ける。

「オットー様の場合、殿下への影響力が強いわ、せめて敵に回らないでくれと頼もうにも接点がないわで本当に困ったんです。レイアさんがローズマリー様と仲良しになれば、敵どころか味方になってくれればきっと最強です。

 レイアさんは殿下とは友達で恋愛感情はないってのは嘘じゃないですよね?

 なのに婚約者を略奪した女と不名誉な噂を立てられて迷惑してるでしょうから、ここで一発ローズマリー様に協力して逆転を狙うのも悪くないんじゃないですか。

 今回のお見舞いに来てくれない問題もそうですけど、殿下は婚約者の義務から逃げてばかりなんです。贈り物の交換、二人きりのお茶会、パーティーのエスコートもデートも嫌なんですって。他の人が言っても『外堀を埋められたくない』とか意味のわからないことを言って拒否する殿下も、レイアさんが言えば聞く耳持ってくれるんじゃないかと。

 ……ダメ、ですか?」


 上目遣いの潤んだ目で縋るように問うアリスにレイアは答える。


「ダメです。

 それではジュールさんの味方がいなくなってしまいます」


アルファポリスで先行投稿しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ