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悪役令嬢の侍女が望むシナリオ

 アリスの頭の中で様々な思いがグルグルと渦巻く。

 (あたしが「〈悪役令嬢〉を断罪する材料」? よりによって、あたしが?

あたしのせいでローズマリーが断罪されちゃうなんてダメ、絶対。どうすれば阻止できる? 冤罪ですとも嵌められたんですとも言い逃れられそうもないわ。どうしてこんなことに。あれっ、もしかしてあたし嵌められた? 嵌めたのは〈ヒロイン〉じゃなくてソフィー様たちで。どうしてあの人たちに喜んで付いていってしまったんだろ?)


「確かに解せませんね」と担当官すなわちジュールが口を挟む。

「三人でレイアさんたちの悪口で盛り上がった勢いで行動しただけと思いましたが、考えてみればアリスさんがなぜ参加する気になったのかわかりません。

 ソフィーさんとロザリーさんは、レイアさんたちより自分たちが身分が上と信じていて、学園外ならば自分たちは咎められないと自信を持っていました。

 対してアリスさんは、レイアさんが男爵令嬢だったとしてもそれより身分は下。無事で済むとは思えません。ローズマリーさんが知ったら絶対にとめていたでしょうし、だからこそのローズマリーさんには言うな、の口止めだったのでしょう。

 自分ひいてはローズマリーさんを断罪の危機に晒してまで言いたかったのが、殿下の素行のここが悪い、そこが悪い、それを諌めないレイアさんが悪い、レイアさん自身の素行も悪い、レイアさんに注意しないケイトさんにカタリーナさんも悪いとかいう文句のオンパレードですか——理解に苦しみます」


「……本当にあたしはバカ、大バカでした……今思うとソフィーさんやロザリーさんにとってあたしは喧嘩の人数合わせの捨て駒で。

 どうしてあんなに気を許しちゃったんだろうと考えたら、あの人たちはローズマリーさんの努力をちゃんと認めてくれてると感動して、皆で説得したらレイアさんも、その、色々とわかってくれるんじゃないか、と思ったんです」


 アリスはレイアの目をしっかり見つめながら言葉を続けた。


「殿下はたまに自由過ぎる振る舞いをなさることがあって、ローズマリー様やウィリアム様は、殿下のご不興覚悟でお諌めする派なんです。イザーク様は殿下の身の安全が最優先でそれ以外にはちょっと緩い感じで。

 ローズマリー様は時々『殿下にとって、わたくしはさぞかし小うるさい存在でしょうね』とため息をついてました。ウィリアム様もたまに。

 でも殿下の評判を落とさないよう、陰口を叩かれても頑張ってたんです。

 ……レイアさん。レイアさんはローズマリー様に特別講座を勧められたのを嫌がらせとでも思ってますか?」


「いいえ。ハニートラップ要員と疑われているかとは思いましたが、嫌がらせとは思いませんでした」


「陰口を叩く人は嫌がらせだと言うんですよ。貴方の行儀のここが悪いそこが悪いとネチネチといびりまくるって。殿下のお側にいたいのなら履修必須、イザーク様ですらマスターしている講座なのに。内容が厳しいって文句はローズマリー様に集中するんです。女性の場合は特に。

 ローズマリー様はローズマリー様で、側近候補の人たちはハニトラは警戒するけど女性への態度がまだ甘いとこぼしてました。男性は女性のマナーに疎いところもあるし、男性と距離の近い女性がどう思われるかの恐ろしさは他人事でしかないんです。レイアさんはギャランドゥってご存知?」


 レイアが「いいえ」と答えるとアリスが説明にかかる。


「公爵家の奥様が代表的ですけど、見目麗しい男性に囲まれて称賛の言葉を浴びせられて——まあ〈逆ハー〉です。あれを勘違いする人がいるけど、〈逆ハー〉やっていいのは選ばれた既婚貴婦人だけ。乙女じゃなきゃいけない未婚のうちに、そういう男性の侍らし方をしては絶対にいけないんです」


 アリスを除く三人の胸に(もしかして:ギャラントリー)という言葉が浮かんだが誰も口にはしなかった。


「大事なことなので二回言います。未婚のうちは乙女じゃなきゃいけないんです。

 男性と親しくし過ぎて乙女じゃない疑惑をかけられたら良い縁談も望めません。

 『学園の敷地を一歩離れたら平等ではなくなるし卒業後も人生は続くのに』。

 ローズマリー様の口癖です。ローズマリー様は不幸になる女の子を減らそうと、『悋気もほどほどに』なんて茶々入れられながらも頑張っていたんです。

 ライバルをいびる〈悪役令嬢〉なんてとんでもない、そんなことしたら殿下のお側から外されるし、何より自分で自分が許せなくなるって。

 殿下たちもそんなローズマリー様のことは認めていたから、お側に置いていたはずなんです。……レイアさんが現れる前までは」


 アリスは涙目になっている。


「レイアさんが来てから全部変わってしまった。ローズマリー様は怯えています。

 レイアさんはやっぱり皆に愛される〈ヒロイン〉で、自分は〈悪役令嬢〉になるしかない〈シナリオ〉なのかしらって」


 レイアはアリスに受付嬢アンドロイドの笑顔のまま尋ねる。

「アリスさんの望む〈シナリオ〉はローズマリー様のハッピーエンドと思います。

 既にわたしはローズマリーさんを〈悪役令嬢〉にする〈ヒロイン〉に認定されてしまっているようです。〈ヒロイン〉は邪魔で目障りなのはわかります。

 極端な話わたしが消えればアリスさんの望む結末にたどり着けるのか——それを聞きたいです」


「き、消えればなんて。あたしは濃硫酸なんて本当に知らなかったんですっ」


「ソフィーさんたちは濃硫酸必須で計画を立ててはいなかったと推測しています。

言いたいことを言ってやってスッキリしたい、わたしがショックを受けて大人しくなってくれれば嬉しい、ショックのあまり学園を休んだり本国に逃げ帰ったりしても構わないどころか、より嬉しい——そう穿った見方ではないと思います。

 アリスさんの今の話を聞くと、ローズマリーさんの努力が報われないのはあんまりだ、〈ヒロイン〉は身を引いてくれと訴えたかったのかとも思いますが……」


アルファポリスで先行投稿しています。


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