学園では身分に関係なく全ての生徒が平等 (2)
一方、ジュールとレイアとイザークの三人は、カフェテリアで丸テーブルを囲んでいた。
濃い褐色の木製テーブルと椅子の席が、隣の会話が筒抜けにはならない程度に
ゆとりをもって配置されている。
すぐそばのテーブルはどれも空席だったが、ジュールは、
「念のため周りには別の会話が聞こえるようにセットしておきますね」
と、テーブルの裏から何か操作した。
「外観は中世から近世にかけてのヨーロッパ風。そこに高度な科学技術と魔法をふんだんに」
「はい。それが当学園都市の売りとなっています!」
「殿下、近づき過ぎだ。適切な距離を」
「ローズマリーのようなことを言うな、イザーク」
「護衛としての意見が半分、護衛対象が強引にナンパしてきた女性への気遣いが半分だが」
「強引になったのは、あいつらの認識不足のせいで……ええと、レイアさん、何かバタバタしてすみませんでした」
「……わたしの方こそ理解と配慮が不足していたかもしれません。
『学園では全ての生徒が平等』がダンジョントラップとなるのは想定していませんでした」
「本当にすみません!
言い訳にもなりませんが、王太子やっている兄の在学中に強烈なハニートラップ事件がありまして。主犯の女生徒が『自由! 平等! 博愛!』と喚いて暴れ回っていたのが、平等という言葉に過敏になっている一因かと」
「おい殿下、その説明で理解してもらおうとするのは無茶じゃないか」
「いいえ、そのハニートラップ事件については学園長から説明を受けています。
似たようなことが起きたら王子を助けてあげてくれ、できる範囲で構わないからと言われました」
「……そう頼まれた本人をハニートラップ要員扱いをした日には」
「イザーク、やめろ。外交問題だの国際世論の非難だの考えたくもない」
「わたしが騒ぎ立てさえしなければ問題はないでしょう。
しかし……何度ダンジョントラップを踏むことになっても、わたしは言葉でも態度でも平等を求め続けます。
それに神経を逆撫でされる人たちの存在や揉め事の原因となる可能性などを思うと、忸怩たるものがありますけれど……」
「いや、そもそも『身分に関係なく全ての生徒が平等』に突っかかる方がおかしいんです。お恥ずかしい話、細かい身分階層ごとの作法を押し付けたがるのはローズマリーだけではないんですが」
「作法を習得するにも他所からきた者にとってはベースとなる身分の上下関係の把握がまず難しいです。たとえば将来の侯爵となる予定の侯爵子息と、伯爵位を譲渡される見込みの公爵子息と、どちらが目上になるのでしょうか」
「安心してください。もとから学園都市国の者だって完全には理解できていませんから。出来によっては特別講座を受ける羽目になったりします」
「ええと、発言してもよろしいですか、レイア嬢、殿下」
「いきなりどうした? お前が貴族的に発言許可とは」
「わたしは護衛であって生徒ではないため学園内平等の対象外かと思いまして。
殿下相手なら親しい幼馴染ということで省きますがレイア嬢に対しては貴族令嬢相手の礼儀作法を適用すべきかと」
「発言を許可します。それと、これ以降は平等原則の適用をお願いします」
「ありがとうございます。
特別講座で思い出したんですが、まだ爵位を継いでいない者は、継ぐ予定の爵位の二段階下の扱いだと習いました。で、ローズマリー嬢はレイアさんのことを男爵令嬢と言ってましたがガーンズバックには世襲貴族はいませんよね」
「そういえば男爵令嬢を女男爵と訂正する前に、ここにきてしまいました」
「一代貴族の男爵の娘か孫娘と思い込んだのかもしれないが、ガーンズバック国でも我が国でも、それを男爵令嬢と呼ばない。貴族ではなくて平民の扱いだね。イザークでさえわかることなのに情けない……というのは、おいといて。
そうか貴族的ルールではレイアさんは男爵令嬢の二つ上の伯爵令嬢相当、さらにガーンズバック補正で侯爵令嬢に相当」
「まあ侯爵令嬢と同じ扱いを要求するつもりはありませんけれど。
先程ぶつかったことを例にとれば、学園内平等を適用するなら過失割合が五対五のところを、侯爵令嬢相当と第二王子殿下では十対0にもなりかねませんし、進路を遮ったということだけでも責められる理由になるかもしれません。
より身分の高い人——公爵子息、公爵令嬢、王族——と対立してしまったら最後、何を言われても反論は許されない、何を言っても不敬罪、いくらでも恐ろしい事態が想像できます」
「あれっ、そう考えると、殿下の友達になったら何かと大変な目に遭いそうな。
さっき『友達の申請』とか『承認』とか聞こえたんですけど本当によろしいんですか」
「おいっ!」
「ソーシャルネットワークゲームでの友達ですから大丈夫です。
オンラインでのメールやチャット、マイルーム訪問その他、交流のための機能は色々ありますが、物理的な接触・接近なしでもプレイに支障はありません」
レイアは紐で綴じられた二枚の板を取り出し、左右に開いてテーブルの上に置いた。どちらの板も額縁状に木枠で囲まれている。
「わたしのタブレットです。ジュールさんたちの方から見て右側がゲーム用の通信機器で、左側が書字板になる蝋板です。
付属の尖筆は蝋板への書き込みにもゲームタブレットへの入力にも使えます。
中空に浮かせる透明度調整可能タイプとは異なり、人前で使用しても世界観を壊さないお勧めモデルです」
「うわー、他の人がプレイ中のゲーム画面をリアルタイムで見るのは初めてです」
「実況生中継は禁止だし視点の完全共有ができないようになっていますものね、このゲーム。はい、これが友達メニューで……」
「ああ、このプロフィールのアバター。スペーススーツ? モビルスーツ? 何て素晴らしい。全身が黒でピューッと走るラインが赤で。色合いといい光沢の具合といい本当に格好良いです」
ジュールが熱心に賞賛する様子に残りの二人は少し引いた。
肌の露出はない衣装だが体の線を拾い過ぎかとレイアは少し後悔した。
せめてもの救いは会話の内容が外に聞こえない設定になっていることかとイザークは思った。
「もちろん今の聖なる乙女の〈制服〉も素敵です」
「……どうも、です……」
「ええと、それでですね。こうして友達になれたからには一緒にやってみたいことが沢山あるんです。
さっき物理的な接触とは無縁とおっしゃっていたようですが、実際に隣で、お互いの画面を眺めながらのプレイもしたいですし、顔を突き合わせながら共同での攻略の相談もしたいんです」
「フェースツーフェースへのこだわりがありますか。最近の電子会議用ホログラムは優秀と思いますけれど」
「学園内では立体映像どころか普通サイズの平面ディスプレイでも難しいです。ゴーグルタイプも世界観に合いませんし。落ち着いて使える場所が意外となくて、人目を避けてささっと済ませるのが精一杯で。
今いる友達とのやり取りは、帰ってから自分の部屋でやっています。
でも貴方が相手なら昼間の学園でこうやって直に話す方が絶対にいいに決まっている」
「……」
「あ、面倒な奴だと友達から削除なんてしないでくださいね。どうか、どうかお願いしますっ」
上目遣いで目を潤ませてのおねだりは〈ヒロイン〉いや〈ヒドイン〉の所業ではなかったか。
これが高圧的な態度で脅してくる者が相手だったら断固拒否しただろうけれど。
結局のところレイアという少女は泣き落としに弱かった。
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