表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/54

婚約者にお見舞いに来てもらえない悪役令嬢

 「ローズマリーが心労で倒れた」との報せを聞いたジュールは、まずレイアとフェルゼンに相談し、関係者を集めた電子会議を開催することにした。


 メンバーはジュール、レイア、イザークの三人に加えて、フェルゼンとケイトにカタリーナ、そしてアリスの手紙を持参したウィリアムである。


 電子会議にした理由は、七人が現実で揃うと「目立つ」ため学園内やレストランでのフェースツーフェースの会合は躊躇われたからだ。話す内容が漏れる漏れない以前に、「あの七人が集まって何やら長いこと話していた」という情報だけを元にどんな噂をどう流す者がいるか、わかったものではない。


 人によっては、本来くつろいでいるべき夜の時間帯の自室からの会議参加を厭う者もいるが、幸いこの七人に該当する者はいなかった。現実の部屋と夜着・寝巻をそのまま映す者、自室を背景にする代わりに独自の背景を設定する者、顔や服を変形させる者、皆が自由で様々だ。


 会議開催前の空き時間にジュールは「あ、これゲームのマイルームを現実に再現したんですか凄い」とレイアの背景に食いつき、フェルゼンは「いつもながら引くわーその猫アバター」とケイトに突っ込まれていた。全身猫そのものに変身するのは彼女にとって引くポイントだそうだ。


 開始時間になって議長のジュールが参加者に呼びかける。

「皆さん、夜分にお集まりいただき、ありがとうございます。

 お手元の資料その一はアリス嬢から届いた手書きの手紙です。

 要約すると

 ・最近特に婚約者のローズマリーを蔑ろにしているのは酷い

 ・心痛のローズマリーはとうとう倒れてしまった

 ・婚約者の義務として即刻お見舞いに来るべきだ


 らしいのですが、はっきり言って感情的な長文で所々意味不明で読みにくい。

 そこでウィリアムに協力してもらい、加筆修正したのが資料その二です」


「発言よろしいですか?」

「はい、三毛猫くん」

「フェルゼンです。お見舞いにすぐ来いと何度も繰り返していますが場所は修道院病院ではなくご自宅でしょうか? 公爵家に訪問するには事前にお伺いを立てて日時調整したり、訪問の前に病状を聞いておいたり、直ぐに訪問と言っても段取りがあると思うのですが、その辺どうなんでしょう」


「それがですね、病状を聞こうにも公爵家に問い合わせづらいのです。

 アリス嬢が思い詰めた顔でウィリアムを待ち伏せして手紙を渡し、そこにご覧のように『心労で倒れた』『心痛で寝込んでいる』と書かれていて、こっちも驚いたんですが……公爵家からの正式な知らせは実はないんです。

 病に倒れたことの公表の有無、タイミングを含めて微妙な問題ですから、僕やウィリアムでさえ、そうそう気軽に聞けません。そうだよね、ウィリアム」


「はい。……実は学園から帰る際にまたアリス嬢に待ち伏せされまして、手紙は渡してくれたか、殿下は明日お見舞いに来てくれるか、と迫られたので、明日明後日には無理だと説明したのですが。

 公爵家からの緊急のお知らせがあって、すぐに来てくれと要請があったら別かもしれないが、と言ったら『だからあたしが来たんでしょ』と。侍女を何年やっているんだ、こういうとき公爵家では普通どう連絡をしているのか聞いたら、『三年になるけどローズマリーも旦那様も奥様も寝込んだことがないからわかんない』と。

 確かにどなたも病気や怪我と無縁ですからね。それもあって今回、倒れたと聞いてだいぶ驚きました。病状はまあ意識不明の重体ではないそうです。でもベッドから起き上がれなくて時折『もう疲れた……』と泣くそうです」


「発言よろしいですか?」

「はい、レイアさん」

「勝手な想像ですがジュールさんがお見舞いに来ないまま日が経つほどローズマリーさんの心痛・心労が増し容態が悪化する可能性はあると思います。かと言って、お見舞いに行きさえすれば容態は好転、悪化はしないという保証もありません。

 せめてお医者さんが面会を禁止していないかどうか、お見舞いの際の注意事項くらいは把握できていないと……。

 『公爵家に問い合わせづらい』というのはわかりますが、お宅の侍女からこのような手紙が来たが本当か?という形で問い合わせるのも問題でしょうか?」


「悩ましいところですね。ウォーターブリッジ公爵に僕が面会を申し込んで、こういう手紙が来たんだけどと尋ねるとして、手紙をそのまま見せるのは論外、よほど上手く話をしないとアリス嬢が何らかの処分を受けることが決定となってしまいます。最悪クビですね。アレでもローズマリーの心の支えになっているみたいですから、クビとなるとローズマリーが気の毒かと思ってしまいます。

 さらにローズマリーが倒れたことを公爵が伏せたいと思っているとしたら、その理由や度合いによっては僕にも火の粉が飛んでくるかもしれません。

 ん? はい、そこで手をあげているカタリーナさん」


「思うんだけど、アリスって子の望む〈シナリオ〉って王子様が大急ぎで婚約者のもとに駆けつけ、部屋で寝ている彼女の手を握りながら『心配したんだ、大丈夫か』とかイチャイチャするんでしょ。今の時点でまだお見舞いに来ていないのは『もう遅い』と腹を立てている。

 ローズマリーさんはもともと常識的な人だと思うけど、近くにいる恋愛脳に引きずられて、すぐに来てくれない殿下は酷い人とかいう方向に考えがイッてしまわないかしら。冷静に考えれば当日すぐになんて無理だとわかるはずなのに。

 レイアさんも言っていたじゃない? 仲良くしている侍女が実はお嬢様の最大の敵だった——なんて物語には良くあるオチだって。

 だから殿下が公爵に手紙をそのまま見せて、ついでに苦情も入れて、確実に侍女アリスがクビになるようにする、に一票。ローズマリーさんも辛いのは最初だけ、後はだんだん楽になるわよ。悪影響のもとを断ち切って」


アルファポリスで先行投稿しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ