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ネクロマンサー異世界旅行記  作者: エンペラー
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第一話

 7月が終わり夏休みも本番の8月、蝉すら鳴かない午前4時。

 気温は低くあたりには霧が立ち込める。

 そんな中白蛇(しらへび)と言う16の青年は今日も細長い鞄を背負って、ママチャリを漕いで町の外れに向かう。

 

「今日も暑くなりそうですね、せめて今年の夏はもう少し涼しくなってくれたらいいのに」

 

 そんな事をぼやきながらママチャリを30分ほど漕いだところ神社に着く。


「今日は早かったのぅ」


 黒髪赤眼で和服を着た鬼姫(きき)と呼ばれる少女が、濡れ縁に腰掛けながら白蛇に話しかける。


「そうですか?」


 白蛇は右腕に付けた腕時計をチラリと見る。


「いつも通りですよ」

「そうかのぅ、どうも歳を取ると時間の感覚がなくてのぅ」

「見た目とのギャップが激しいですね」


 濡れ縁から鬼姫はゆっくりと降りる。


「まぁ、雑談もこのくらいにして……稽古でも始めるとするかのぅ」


 どこからともなく木刀を取り出し正面に構える。


「ですね」


 白蛇は背負った鞄を下ろして2本の木刀を取り出す。

 片方は約50センチと短くもう片方は90センチほど。

 長い方を左手、短い方を右手に持ち長い方を中段、短い方を上段に構える。

 

「はよう来い」


 白蛇は地面を蹴り鬼姫との距離を一気に詰め太刀で平突き。

 それを鬼姫は体を捻ってかわし、白蛇の脇腹に一撃を加える。


「ケッホケッホ……響きますね」

「頭に当てんかっただけ感謝するんじゃな」


 白蛇は木刀を杖にしてなんとか立ち上がると呼吸を整えて構え直す。

 鬼姫は呼吸を整えたのを確認すると一歩踏み込む。

 次の瞬間鬼姫は白蛇の前に現れる。

(やっぱりこのままでは見えませんね)

 白蛇の懐に入り込んだ鬼姫の切り上げをなんとかいなし、距離をとると左手に持った太刀を鬼姫の頭上に振り下ろす。


「ほぅ、なかなかの威力じゃのぅ」


 鬼姫は正面から受け止めると、そのまま力任せに白蛇を押し飛ばして体制を崩させる。


「体も温まった頃じゃろう、少しばかり本気を出してやろう」


 鬼姫は楽しそうにそう言う。

 戦いに対するエンジンがやっとかかったのだろう。

 ここからが彼女との本当の”戦い”だ。


「光栄ですね」


 鬼姫はゆっくりと目を閉じて深く息を吐き出し集中する。

 スッと短く息を吸い込み目をきりっと目を開く、鬼姫の額には10センチほどの角が2本生える。

 角は2本ともに赤く輝いており、まるで宝石のようだ。

 この少女、800年を生きる鬼である。

 400年ほど前に別の世界からこの地球に飛ばされたと白蛇は聞いている。


「僕の骨、折らないでくださいね」

「お主が妾を楽しませられるかどうかにかかっておるぞ」


 鬼姫は目一杯体を低くし、バネのように地面を蹴る。

 辺りの砂利は一瞬遅れて散らばり、スピードを載せて白蛇の頭目掛け一太刀を叩き込む。

 白蛇は見慣れたように小太刀で受け止める。


「毎日見てたら見えなくても受け流せますよ」


 鬼姫は嬉しそうに笑う。


「お主の成長を見るのは楽しいのぅ。眼の力も借りずにここまで動けるとは、お主も強くなったのぅ。」

「鬼姫の初撃だけですけどね」

「なに、一瞬で技が読めるようになったんじゃ、誇って良いぞ」


 白蛇は後ろに飛び退いて距離を取る。

 鬼姫の身体能力的に撃ち込んで勝てる見込みはない、よって白蛇の取る行動は鬼姫から距離を取り、リーチの差を生かしたカウンターを狙う戦術だ。

 

「さて、僕も出し惜しみせず『鬼の眼』を使いますね」


 白蛇の目が黄色に染まる。

 鬼の眼とは、白蛇が鬼姫の力を少し分けて貰ったもので、体力を消費し、最大で優に弾丸を切り落とせるほどの動体視力と反射神経を手に入れることができる、というものだ。

 

「第二らうんどじゃな」


鬼姫は左上段に構え直し一足飛びで白蛇の頭上まで跳び、肩口に重力と腕力を重ねた一撃を放つ。

 その一撃は、人間では瞳に移すことすら叶わない、圧倒的な速さで振り下ろされる。

 だが、その一撃を白蛇は目で追い小太刀で受け止める。

(————ッ、予想よりもずっと重い)

 攻撃が重いという事は鬼姫が、勝負を決めにきたという事だ、こうなれば悠長にカウンターを狙っている場合ではない、ここで取る最善の選択肢は鬼姫の攻めのリズムを崩すために攻撃する事だ。

 白蛇は片膝をついてなんとか受け止め切ると、太刀を振り払い、それを鬼姫はくるりと高く跳び、かわす。

 鬼姫が着地する前に、白蛇は立ち上がり体制をぐっと落とし、バネの様に伸び上がり鬼姫が地面に着地する前に切り上げをかます。

 それを鬼姫は体を捻ってうまく交わし、着地し不安定な体制で、白蛇の眉間目掛けて片手で突きを放つ。

 その突きを逸らす様に小太刀でいなし、振り上げた太刀を振り下ろす。

(決まったッ、あの体制と木刀の位置からもう避けることはできない)

 が、その一撃は空を切り裂き敷き詰められた玉砂利を撒き散らして止まる。

(いない!?)

 直後白蛇の後頭部に重い痛みが走る。


「良い動きじゃな、危うくやられるとこじゃったわい」

「ていうか、大人気なくないですか? 人間相手に本気出すなんて」


 後頭部を押さえながら、白蛇は返す。


「百パーセントの実力じゃろ? それにもし、人間以外の奴が襲ってきたらどうするんじゃ?」

「普通そんな事にはなりませんよ」

「世の中いろんなことがあるからのぅ、もしかしたら……なんて事があるかもしれんぞ?」

「そんな事ありますかねぇ……」


 鬼姫は手を差し伸べて白蛇を引き起こす。


「まぁ良い、どうせろくに朝飯も食べておらんのじゃろ?」

「ええ」

「昨日の残りでよかったらじゃが、食べるかの?」

「いいですね」


 そう言い二人は社務所の中に入る。



 敷き詰めたレタスの上に、薄切りの豚肉をお湯でサッと火を通し冷水につけた料理、冷しゃぶ。

 それに大根とわかめの味噌汁、それと白米。


「昨日は作るのが億劫になっての、簡単なものじゃが、ないよりマシじゃろ?」

「俺は冷しゃぶ好きですよ、ではいただきます。」

「うむ」



 そう言い、しゃぶしゃぶにごまだれを絡ませて白米と共に頬張る。


「そういや、知ってます?この街の今月の行方不明者がめっちゃ増えたらしいんですよ」

「……ほぅ、少々詳しく聞かせてもらえんかの?」


 珍しく鬼姫が食い気味に尋ねる。


「いや、僕もそんなに詳しく知らないんですけどね、なんでも20歳以下の人が急に消えちゃうらしいんですよ。そのせいで学校の帰り道とかを大量の警察が見回ってるらしいんですよ」

「なるほどのぅ……ちなみに、いつ頃から起こっとるんじゃ?」

「えーと」


 白蛇は数秒考える。


「えーと春先ぐらいだから……3ヶ月ぐらい前ですかね」

「そうか……3ヶ月か……」

「どうしました?」

「いや、なんでもない、お主も気をつけるんじゃな」

「大丈夫ですよ、僕プロ格闘家にも負けませんから」

「じゃろうな、その目と身体能力なら”人間になら”負けんじゃろう」

「なんか意味深な言い方ですね」


 白蛇は冷しゃぶを平らげる。


「ご馳走様でした」

「お粗末さま」


 鬼姫はチラリと柱にかかった壁掛け時計を見る。


「まだ時間はあるな、……久しぶりに一つ指して行くか?」

「いいですね」

 

 白蛇は膝立ちで押し入れまで歩いて行き、押し入れから将棋盤を引っ張り出す。


「今日は何を賭けるんですか?」

「そうじゃな、ここ最近勝ってばっかりじゃし今日はサイダーぐらいで勘弁してやるとするかのぅ」

「そんなこと言って、もし今日僕が勝ったらどうするんですか?」


 鬼姫は少し悩んで。


「じゃあお主が勝ったらサイダーを3つ買ってやろう」

「言いましたね?」


 白蛇と鬼姫は互いに駒を並べる。


「ちょっと汚れてますね」

「最近はチェスとオセロばっかりじゃったからのぅ」


 白蛇が将棋盤についた黒い小さな汚れを払い除ける。


「あれ? これカビですかね?」

「カビって事はないじゃろ」

「……って言うか……なんかこれちょっとづつ大きくなってません?」

「お主、走れ!!不味いことになった」

「え!?」


 鬼姫は白蛇を外の方向へ押し飛ばし、走り出す。

 小さな黒点はどんどん大きく、将棋盤を飲み込んだあたりから、周りも物を吸い込み出す。


「お主大丈夫か?」


 鬼姫が柱に捕まりながら白蛇に尋ねる。


「な……なんとか」


 白蛇が襖に捕まりながら返す。

 だが、黒点の拡大は止まることを知らず、大きくなるのにつれて吸引力が増す。

 黒点の大きさが1メートルを超えたところで白蛇の捕まっていた襖が外れる。


「うわぁああ!!」

「お主!」


 白蛇は黒点に吸い込まれ、後を追うように鬼姫も吸い込まれた。

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