第8話 若者の一般的なデート
日曜日、今日も午後からデートだ。
後輩は今回のデートは“若者の一般的なデート”がしたいらしく、そのためにお互い高校の制服を着て自転車でデートしようと提案された。
後輩が言うには、
「制服でデート出来る人なんてほんの一握りの人しかいないんですよ!ましてや男1人に女1人でなんて相当レアですよ」
とのことだ。
たしかにこの世界の男はデートに消極的で受け身な事が多く、実際に高校の時顔が良くて学校で1番人気のあった男子生徒がたまにデートをしていたが、その時は男1人に対して女5人でデートしていた。
後輩はさらにシチュエーションにもこだわりたいらしく、デート前にわざわざ待ち合わせをしたいらしい。
これも後輩が言うには、
「恋人と待ち合わせというのは青春なんです!」
と、微妙によく分からないことを言っていた。
今日後輩は部活が休みなのでお互い家にいるが、待ち合わせをするために俺に時間をずらして家を出てほしいとお願いされた。
先に後輩が家を出て、5分後に俺も家を出て自転車で待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ場所に近づいていくと、後輩はちらちらと俺がやってきそうな方向を気にしながら手鏡を持って自分を映しながら手ぐしで髪を整えて、遠目に俺を発見するとわざとらしく急いで手鏡を隠すようにカバンに直し始めた。
「ふふ、なにその小芝居、なんか凄いわざとらしかったよ」
「小芝居なのは認めますけど出来る男はそこを見て見ぬふりをするんですよ!若い女の複雑な乙女心を私なりに表現したつもりなんです!」
「まだ後輩も充分若いじゃん」
「ふっ…もう若かったあの頃の恋人のいない私とは違うんですよ…」
後輩は感慨深そうな雰囲気で言う。
なにがやりたかったのかというと、後輩はギリギリまで見た目におかしいところがないか不安に思いながらも、努力している姿は見せたくないという若い女特有の気持ちを表現したかったようだ。
そんな会話をしながら後輩を先頭にして自転車を漕いで道を走る。
「ホントは二人乗りをしたかったんですが、あれって法律違反なんですよね…小さい頃男女が自転車を二人乗りする漫画を見て憧れてたので法律違反って知った時ショックでした…」
「じゃあ法律を守って二人乗りしよう。俺は高校のときに車の免許をとるだけ取ったから、いつかバイクで二人乗りしたいね。バイクなら条件はあるけど二人乗りが出来るからいつか買おうか」
「良いですね!私先輩の後ろにも乗ってみたいんですけど、後ろに先輩を乗せて走るのもやってみたいんですよね。だから私も受験終わったら免許とります!」
そうやって楽しく話していると、あっというまに目的のショッピングモールに着く。
「まずは映画を予約しに行きましょうか!」
後輩は事前に1番評価の高かった恋愛映画を調べてきたらしく、テキパキとその映画を2時間後に予約して、その映画までの空き時間でショッピングモールをブラブラと回って時間を潰したいとのことだ。
「こういう映画の予約とかの段取りが悪いと男の人は帰っちゃうことがあるらしいです」
「それだけで帰られちゃう女の人可哀想だな。さすがに嘘じゃない?」
「いや、これは母の実体験らしいです…」
と話すので、俺は笑いをこらえながら歩いていると、後輩が、
「とりあえずまずはここに行きましょう!」
と雑貨屋を指さして、俺を案内するように歩き出す。
俺はそういえばとふと思ったことを後輩に聞いてみる。
「あれ?そういえば今日は手繋がないの?」
「先輩!普通のカップルは手なんて繋ぎませんよ!はっきり言って初デートで手を繋いできた先輩は異常なんですからね!」
そう言われてから俺はわざとらしくショックを受けたような顔を作って、
「そうか…じゃあこれから手を繋ぐのは止めようかな…」
と言うと、後輩は慌てた様子で、
「あ、嘘です嘘です!先輩はとても優しくて常識があってかっこいいです!だからやっぱり手繋ぎましょう!」
とすぐに手のひらを返してきた。
後輩は若者の一般的なデートというテーマを守るために手をつなぐのを我慢していたようだが、いざ手を繋ぐと嬉しそうだ。
目的もなくブラブラと雑貨屋を回って、おそろいのマグカップを買ったり、おもしろそうなボードゲームを買ったり、バトミントン、フリスビー、サッカーボールやバスケットボールなどを見て今度やりたいねと笑い合ったり、謎の筋トレグッズやフラフープを買おうとする後輩を止めたりと、なかなか楽しい時間を過ごした。
一通り見て回ってから後輩は、
「次はゲームショップに行きましょうか!」
と提案してきたので、ゲームショップに向かう。
ゲームショップに着き、賑やかな店内を見て回り最新のゲームの映像を見たり、古いゲーム
を懐かしんだりしていると、後輩は俺のゲーム歴について聞いてくる。
「先輩はゲームするんですか?」
「うん。有名タイトルのゲームはちょくちょくやってたよ。後輩は?」
「私もゲームはよくするほうだと思います!うちは4姉妹なんですけど、私が1番仲の良かった1番下の4女としょっちゅうゲームで遊んでました!それでですね、その4女が最近プロゲーマーになったんですよ!これは4女は私が育てたと言っても過言です!」
「ふふ、過言なんだ。変な日本語使うね。でもそこは私が育てたって言っても良いんじゃないの?」
「めちゃくちゃ過言です!だって4女はどんどん1人で勝手に強くなったから、ほとんど私の方がゲームで遊んでもらっている感じでしたからね」
そんなことを話しながら一通り回りきる。
後輩は時間を確認して驚いた様子で、
「あーもう映画まで15分くらいしかないですよ。楽しくて時間が経つのが思ったより早かったです!本当はこの後ゲーセン寄ったり、本屋に行ったりと予定を立てていたんですけど、微妙な時間しかないのであそこのスーパーで少しおやつを買ってフードコートで食べながら時間を潰しましょう!」
後輩と一緒に軽くお菓子を買ってお互いのお菓子を交換したり、映画の事前情報など調べたりしながら時間を潰す。
そうしていると予約の時間になったので映画館に入り、予約した後ろ目の真ん中の席に隣り合って座る。
後輩は2つ毛布を借りてきてくれたので、膝にかけて毛布の中で手を繋いだりして映画が始まるまで過ごしていると、周囲が暗くなっていき映画が始まった。
映画の内容は、普通の日常を過ごす主人公が少し不思議な体験をすることをきっかけに謎の少年と出会い、2人で事件に巻き込まれていくというような内容で、ところどころに甘酸っぱい出来事をはさみつつ、最後には少し感動する出会いあり別れありのストーリだ。
映画を見ていると、後輩は映画で2人がいい雰囲気になったシーンで俺の肩に頭を乗せて甘えてきたので、後輩の肩を抱き寄せてそのまま映画を見る。
そうして、映画を見終わって日も暮れてきたので、後輩が、
「じゃああそこのハンバーガー屋で夕食にしながら映画について語りましょう!」
と提案してきたので、了承して有名ハンバーガー屋で夕食にする。
大きいハンバーガーとフライドポテトとコーラというジャンクなものを食べながら、映画の感想を語る。
「ストーリーと音楽は凄く良かったですね!」
「うん、ストーリーと音楽は良かった」
「その言い方はやっぱり先輩も同じことを思ってましたか」
「さすがにね、男の方の演技がひどすぎて完全に浮いてたよね」
「あの男の人は今売り出し中の人気アイドルらしいです。若い女性客を呼ぶためにキャスティングされたんでしょうね」
「まあ仕方ないか。演技ができる俳優なんて俺は1人しか知らないし」
「ああ、杉田さんでしょ。あの人は俳優の中で唯一と言っていいほど演技が上手いですもんね。でもあの人はたしか今55歳だから若い男の役を出来る人が結局いないんですよね」
「今若くて実力のある俳優がいたら絶対売れるだろうね」
「男は俳優で稼ぐよりアイドル業で稼ぐほうが手っ取り早くていっぱい稼げるらしいですからなかなか世に出てこないと思いますけど、今後いい俳優が出てくることを期待してましょう!」
映画についてこんなことを話していると、突然後輩が物欲しそうな表情で俺のハンバーガーを見ながら、
「私のもあげるのでそっちのハンバーガーを一口下さい!」
と言ってきたのでハンバーガーを一口ずつ交換する。
後輩は欲張って一口で大口を開けて食べたので、口の周りがソースだらけになっている。
「ちょっと食べ過ぎじゃない?」
「えへへ。一口は一口ですよ先輩」
少し恥ずかしそうに口の周りを拭きながらも後輩は満足げだ。
そしてお互い食べ終わり、店を出て自転車に乗り家に帰ることにする。
「先輩。今日の私に連れ回されるデートはどうでしたか?」
「凄く楽しかったよ。でも今度は後輩を連れ回すデートがしたいな」
「先輩は付き合って初日に同棲を提案するような人だから先輩にデートを全部任せたらとんでもない所に連れて行かれそうで少し怖いんですよ!まだ私は恋愛レベルが低いんでもっと手加減して初心者向けのデートにして下さい!」
そんな会話をしつつ自転車を漕いでいるとすぐに家についた。
家に帰り、後輩は文句を言いながら俺が新しく作ったデート代貯金箱に今日の時給分入れる。
そしてカメラを回し、今日のデートのことについて話をしたり、感想を言ったりする動画を撮影した。
西野鈴音
【先輩と若者がするような普通のデートしてきた!なんか10年くらい若返った気がする!もしやまた10年後に同じことをすれば不老不死になれるのでは!?】