第7話 買い物デート
動画を出した次の日、後輩を学校に送り出してから昨日の投稿した動画をチェックする。
今現在のチャンネル登録者は約6万人、昨日の動画の視聴回数が約15万回となっており、まだまだ右肩上がりで登録者や視聴者が伸びている。
動画の収益化には条件があり、ある程度の登録者数と総再生時間が必要なのだが、これだけ伸びれば収益化の条件を満たしているのですぐに収益化申請をして新しい銀行口座に月初めに振り込まれるようにする。
そして、後輩は無事に収益化出来たことを確認してから、今までやっていたバイトを全て辞めることを決意して動画投稿になるべく時間を作れるようにしてくれた。
収益化後に動画の方針を二人で話し合った結果、平日は普段の同棲生活の家での日常を撮りつつ、土日の休みに二人でのデート動画を撮るのが良さそうだと決まったので、俺たち二人は晩ごはんを一緒に食べる時や、勉強を一緒にするところ、マッサージやストレッチをするところ、朝に一緒にランニングとキャッチボールをするところなどの普段の日常を無理のない範囲で動画にしていった。
さらに俺は後輩が学校に行っている間に二人の公式SNSを作り、そこで写真をあげるなどの広報活動をすることによって知名度を上げていき、それにプラスして二人の日常の動画も需要があるのでどんどんチャンネルの規模が大きくなっていった。
知名度が上がることによって多少の嫌なこともあったが、嬉しいことも沢山あった。
特に一番嬉しかった事は2人のファンアートを書いてもらうことが多くなったことで、後輩と2人でファンアートをみてニマニマしたり、視聴者と共有したくなって動画の最後にファンアートを入れたり、動画のサムネイルにしたりと楽しく動画投稿活動を続けていった。
そうした活動をしながら日々を過ごしていくと、あっという間に土曜日になった。
今日の午前は後輩の部活があるので、午後から服を買いに行くデートを撮影しながら行く予定だ。
「今日は楽しみだな。どんな服を後輩に着させようかな」
今日は3箇所の店を回るつもりでいる。
俺は軽く昼ごはんを食べ、晩御飯の用意をしつつ後輩が返ってくるのを今か今かと待つ。
「ただいま!先輩帰ってきましたよ!早くいきましょう!」
後輩は部活で疲れているはずなのにダッシュで帰ってきたようで、息を切らしながらただいまと挨拶を言ってドタバタと自分の部屋に荷物を置きにいき、ぱぱっと着替えとメイクを済ませて俺の元へやってきた。
後輩は楽しみを隠しきれないのか、おやつをもらう小型犬のように物凄くテンションが上っている。
「先輩に私が考えた最強の服を着せてあげますよ!」
後輩には事前にそれぞれ予算1万円でお互い相手に着せたい服を買おうということを伝えているので、頭の中で想像してきたのだろう。
二人で手を繋いで喋りながら目的の店へ向かう。
「先輩とデート!嬉しいな!」
後輩はとてもごきげんな様子で繋いだ俺の手ごとブンブンと子供のように前後に振っている。
そうして楽しくしゃべりながら、1つ目の目的地にたどり着いた。
「最初はここで爆買いしよう」
俺たちが来たのはここらで一番でかい古着屋で、ここはほとんどの商品がとても安いことで有名な店だ。
2人で店に入り、まずは軽く店内を2人で見回してから俺は、
「じゃあ一旦解散!1時間後に試着室前に集合で」
と言ってお互いに着せたい服選びを開始する。
俺は後輩の普段とは違う一面が見たいと思っていたので、今回は後輩が普段着ないような服を選ぼうと思っている。
「うーん。後輩はこういうのも似合うと思うんだよなあ」
いつも後輩はシンプルな服か、動きやすい服を着ているので、俺は可愛い系のワンピースや、かっこいい系のライダース、少しセクシーな肩出しのトップスなど、なるべく色々な系統の服をチョイスしていく。
そうしてあっという間に1時間がたったので、俺は試着室の前で後輩を待っていると、少し遅れて後輩も来たので、周りの迷惑にならないように動画を回し始める。
最初に俺が選んだ服を後輩に着てもらうことになったので、俺は服を後輩に渡すと、後輩は意外そうな顔をしている。
「おお!普段着ないような服ばっかりですね!」
「後輩ならどんな服でも着こなせると俺は思ってるよ」
「任せてください!なんたって私の友達は読者モデルですから!」
謎の根拠を出して自信満々な後輩だが、いざ試着室で着替えをお披露目する時には、可愛い服や少しセクシーな服を着るのに慣れていないのかとても恥ずかしそうにしている。
「先輩!こんな可愛い服やっぱり私には似合いませんよね?」
「いいや、世界で1番似合ってるよ。いつもと違って新鮮で可愛い」
「も、もう!先輩は口が上手いですね。やだやだ」
後輩は褒められて顔が熱くなったのか、パタパタと手で顔をあおぐ。
後輩は恥ずかしがっていたが、俺は普段とは違う後輩を見ることが出来てとても新鮮で楽しかった。
そして俺が選んだ服は全て着終わったので、次は後輩が俺に着せたい服を持ってきたのだが、後輩は予算1万円とは思えないほど大量の服を持ってきて、
「さあ、ついに私の番です!ここからがメインディッシュですよ!」
と楽しそうに言う。
「あ、ちなみに予算1万超えちゃいました。自腹で買うから良いですよね?」
と、全く悪びれずにそう言う後輩がなんとも楽しそうなので、毒気を抜かれて咎める気にならず、
「まあ今回は良いよ」
と俺は許してしまった。
どうやら後輩は具体的なテーマを決めて選んだようで、1セットずつ俺に渡してくる。
俺は渡された服に着替えて後輩に見せると、カメラ越しに後輩は、
「先輩!カメラに向かって未来を憂うような表情をしてください!いいですね!大人っぽくてかっこいいです!」
などと表情までノリノリで注文してくる。
そして次に後輩は違う服一式と造花のバラを俺に渡してきて、
「このバラを口に咥えてください!それからウインクしてください!いい!めちゃくちゃいいです!」
とまたもノリノリで変な注文をしてくる。
なんでバラなんて持ってきているんだと思い後輩に聞いてみると、どうやら造花のバラは今日のために別で買っていたらしい。
そして次に服一式とまたもや後輩はカバンから伊達メガネを取り出して渡してきて、
「このメガネかけてください!おお!思った通りちゃんと俺様系陰湿メガネキャラみたいになった!」
と言ってまた色々なポーズを取らせてくる。
そういったようにどんどんと服を渡されていき、最初は少し困惑したが、後輩はなんだかんだ似合う服を持ってくるので俺自身も楽しみながら後輩の注文に答え続けた。
「拗ねた感じでそっぽを向いてください!キャー!夢にまで見た弟系わんこ紳士!」
「両手を頭の上においてください!そう!ナンパ系チャラ男きたああああああ!」
「大きいパーカーで萌え袖は可愛すぎる!和み系ふわふわ男子!」
このようにポーズまで注文しながら動画を回しまっくった後輩は、大仕事をやりきったような表情で大満足している。
その後に2人で少し休憩してから、予算をまだ残していた俺はシンプルなジーパンとパーカーを2つ持ってきて提案する。
「ねえ、2人でおそろいの服を買わない?」
「おお!ペアルックは全女子の憧れですよ!もちろんやりたいです!」
後輩はお揃いの服を着ているところを想像したのか表情がだらけきっている。
そうしておそろいの服とお互いに着させたい服を全て買い、荷物が大量になったので家に送ってもらうことにして次の店に歩き出す。
次の店はルームウェア専門店だ。
「ルームウェアってようは寝巻きみたいなやつですよね。そういえばお互い一着も持ってないですね」
「後輩は寝巻きだけは地味にダサいからなぁ」
「ダサくないですよ!可愛いでしょ!」
後輩が言うには2軍のTシャツを寝巻きにしているようで、バターを塗ったパンをバターの面を下に落としてしまうデザインや、鉛筆を両方から削って使ういわゆる貧乏削りした鉛筆を握っているデザインなど、何故か少しマヌケなデザインの服を寝巻きにしている。
「じゃあこれを見て。俺が後輩の寝巻きを着ている自撮り。どう?なんか微妙にダサくない?」
「おおう、まあなんというか似合ってなくもないですけど、見てるとなんとも言えない微妙な気持ちになりますね」
そんな会話をしながら店に入り、今度は2人で一緒にこれ似合いそうと言ったり、こういうのが好きというような話をしながら、何着か買って店を出る。
「ルームウェアは帰ってから着て動画にしようか」
「そうですね。男の人のおしゃれなルームウェア姿なんてそうそう見れないから絶対動画は伸びますよ!」
そんな話をしながら、最後の目的地の和服店につく。
「和服店なんてなにしに行くんですか?」
「ちょっと俺が個人的に買いたい物があるからついて来て欲しい」
「はぁ。分かりました」
店に入り、俺は数日前に後輩に黙ってここで買い物を済ませていたので、店員に、
「じゃああれをよろしくお願いします」
と言うと、店員はテキパキと後輩を別室に連れて行く。
後輩は何が起こっているのか分からずあわあわと困惑している。
「よし。じゃあ俺も着替えるか」
俺は別室で和服に着替えてカメラを用意して後輩を待つ。
数分後、後輩がピンクの花柄の着物を店員に着付けられて別室から出てくる。
「おお、よく似合ってる。いつもより一段と綺麗だよ」
「えっ、ありがとうございます。先輩も和服かっこいいです。じゃなくて!なんで着物をいきなり着せたんですか!?」
「俺がただ着物姿の後輩を見たかっただけだよ」
「もう!しょうがない先輩ですね~もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
そういうようなやり取りをして、俺はすぐに、
「じゃあ家に帰ろうか」
と持ちかける。
「えぇ~もう帰るんですか?せっかく綺麗な格好したのに…」
と残念そうに言うので、俺は勘違いをを正すように言う。
「いや、この格好のまま帰るよ」
「ええ!この姿のまま帰るんですか!」
「うん。せっかく着たからね」
後輩は着物姿で帰るとは思っていなかったのか、少しうろたえているようだ。
「ありがとうございました」
俺はなかば無理やり後輩の手を繋ぎカメラを止めて、店を出て家へ帰る。
そうやって帰っているとやはり和服の男女2人組は目立つのか、周りの人達がザワザワと賑やかになってくる。
「やっぱり私達なんか周りからめっちゃ浮いてませんか!」
「大丈夫。気にしないで。とっても似合ってるから。ほら、周りの人達も羨ましがってるよ」
後輩はビクビクしながら周りを気にしているが、俺は気にせずにずんずんと歩いていく。
俺はそんな後輩の姿を見ながら楽しみ、そうやって目立ちながら歩いて家まで帰った。
そして、家でそれぞれ買ってきたルームウェアに着替えて、軽く動画にしてから2人で一休みすることにする。
「ふぅ。やっぱり家は落ち着きますね」
と言って後輩が俺の隣に来てくつろぎ始めたので、そうだねと答えつつ俺は後輩に唐突に2500円を払う。
「えっ、なんのお金ですか?」
「5時間デートしたから時給500円換算で2500円でしょ」
「もう!なんで先輩までそのシステムを採用するんですか!黒歴史なんですからやめましょうよ!」
「嫌だ。俺は一生このやり方をやり続けるつもりだよ。なんなら時給払ってもらわないとデートは行きません」
後輩はやめましょうよと言いつつ俺の胸をポカポカと軽く殴ってきたので、お返しに俺もスキンシップをとりながら後輩と家でまったりする。
「先輩。明日もデートですね。明日は楽しみにしててくださいね」
明日は後輩が1人で全て計画を立てたデートをする日だ。楽しみだな。
西野鈴音
【先輩にいろんな服を着せて楽しかった!でもほんとに私が一番見たいのは何の服も着ていない先輩!なんちゃって♪】