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第4話 喫茶店デート

 バッティングセンターから数分ほど歩いたところ、後輩の案内でレトロな喫茶店にたどりついた。


「私いつもここでバイトしてるんだよ」


 自慢気にそう語る後輩からは、この喫茶店がとても好きな様子が伺える。


 後輩と一緒に軽く喫茶店のマスターに挨拶をして、席に案内してもらう。


 マスターは30代くらいの背の高くてスラッとした目元がきつめの女性で、後輩を信じられない者をみるような目で見ていた。


「ちょっと!どうやってモテないあんたがそんな良い男連れてきたの!」


 小声でマスターが後輩に囁いているが、俺にも聞こえていた。


 そんな後輩はドヤ顔をしながら、マスターとは違うのだよと言い放ち、マスターに小突かれている。


「ここの喫茶店のマスターはパン作りを無駄にこっているからこれがおすすめだよ」


 向かい合って席について、コーヒーと後輩のおすすめの小さなパン数種類のセットを頼み、雑談をする。


「そういえばSNSで先輩との写真をあげたんですが、嫉妬のコメントが大量に来て沢山の女が発狂してましたよ。」


「へぇー後輩はそんなに嫉妬されてしんどくはない?」


「全くしんどくないです!むしろ女どもの嫉妬の目線が気持ちいいですよ!」


「おおう、なんとなく感じていたけど思ってたよりタフだね。いい性格してるよ」


 後輩は本当にあまり気にしていないようで、なんならむしろ嬉しそうだ。


「先輩って高校ではもっと地味な感じでしたけど、イメチェンしたんですか?」


「高校では猫をかぶっていただけで、本来はこんな感じだよ」


「へぇーそうなんですか。あっ、そういえば今日のデートで思ったんですけど、先輩って私に意地悪してくる気がしてるんですけど、実はSっけあります?」


「さぁ。今までは女と関わるのが面倒くさいと思っていたからよく分からないけど、後輩だけには何故か意地悪したくなるんだよね」


「私だけにしてくれるんだったらめちゃくちゃ嬉しいです!」


 元気に答える姿に、もう後輩は待ち合わせの頃のような緊張感もなく、リラックスした様子だ。


 ふと、もっと慌てている後輩が見たくなったので、机の下で後輩の足をつんつんと足で触ってしてニヤッと意味深に笑ったり、いろいろなスキンシップをとってみたりしていると、後輩は嬉しそうで初な良い反応を返してくれる。


「ゴホン、おまたせしました。コーヒー2つと、パンセットです。お兄さんにはサービスでミニケーキもつけとくね。あと鈴音。“無駄に”パン作りが凝ってるって聞こえていたからね」


 そうしていると、マスターが咳払いをしながらコーヒーとパンセットを持ってきてくれたので、軽くお礼を言うと、マスターは嬉しそうな表情をする。


 その後に、後輩はマスターに嘘です嘘です!冗談です!とじゃれあうように返事をする。


 そういうようなやり取りをしつつ、ゆっくり食べながら楽しく会話していると、突然後輩が、


「ねえ先輩。どうしてデートを受けてくれたんですか?」


 と、そんなことをを聞いてくる。


 どう返答しようかと考えていたが、後輩が少し不安そうな顔をしていたので、正直に答えることにする。


「後輩が面白かったからって言うのが一番の理由かな。どうやら俺は後輩のような面白くて明るい女が好みだったみたい。後輩となら刺激的で楽しく将来を過ごせると思ったんだよ」


 そう言うと、後輩は照れながらも安心したように言う。


「任せてください!私が先輩を幸せにしてあげますよ!」


 後輩はそう言うが、俺は後輩と一緒にいるだけで勝手に幸せになれる自信があるので、後輩に幸せにされるだけのつもりはない。


「いいや。俺が後輩のことを世界一幸せにしてあげるよ。」


「うえっ、あ、ありがとうございます。」


 後輩は沸騰したように赤くなって答える


 いい雰囲気になってきたのでもうそろそろ良いタイミングかなと思い、俺はストレートに聞く。


「じゃあ後輩は俺と恋人になりたいって思ってる?」


 すると後輩は間髪入れずに、


「もちろんです!じ、じゃあ先輩も私と付き合ってくれる意思があるってことでいいんですか?」


 というので、


「もちろん。好きだよ。後輩。」


 と気持ちを込めて返す。


「やったあああ!初彼氏だ!ありがとうございます!」


 そう言って涙を流しながら踊りだしそうなほど喜んでいる後輩をみていると、喜ばれすぎてなんとなく恥ずかしくなったので、残りのコーヒーを一気に飲みきる。


 この日から俺と後輩は正式に恋人になった。







「で、ここからが本題なんだけど、」


「えっ、これが本題じゃなくて?」


 後輩は少し困惑しながら聞いてくる。


「俺と一緒に住まない?」


「ええええええええ!」


 俺は実は卒業式の日に後輩に告白されたときから、同棲しても面白いかもと思い、マイホームを購入していた。


 何故そこまでお金があったのかというと、この国の30歳までの男には1年に1回以上の精子提供の義務があり、日本では一回提出するだけでそこそこの報酬が出るシステムがある。


 普通の男は精神的な問題で精子提供を嫌がるが、俺は特に嫌ではなかったので、約6年の間、コツコツと1ヶ月に1回欠かさずに提供していて、その分の報酬のほとんどを貯金していた。


 さらに、健康上問題のない精子を1年で5回以上提出すると、国から優秀な男性だと認められ、1回の精子提供の報酬があがるシステムもあるので、これを繰り返してお金をためていた。


 そのお金は一人暮らしをする時用にためていたものだが、仕事場かつ彼女と同棲するということを思いついてから、思い切って少し大きな家を買った。


 そして、俺はさらにここからが大事だと前置きして後輩に言う。


「あと俺はこれから動画投稿者になってお金を稼ごうと思っているんだけど、一緒に動画に出て出演者として働いて欲しい」


「動画投稿者?そんなので稼げるんですか?」


 後輩の疑問も当然で、前世では動画投稿で収益を得るのは一般的になっていたが、こっちの世界では動画を収益化することができるという枠組みがちょうどできたくらいなので、まだ世間に動画投稿者のような職業が浸透していない。


 俺はその第一人者となろうとしている。


 そういうことを説明すると、後輩は、まあ別にいいですけど、というような返事をしたので、俺は親と相談したり、じっくり考えたりゆっくり決めてほしいという旨を伝え、とりあえず10分ほど動画を撮ってみようと、用意していたビデオカメラを取り出す。


 店に許可をとり、ビデオカメラをセットして回し始める。


 動画の内容は喫茶店で隣に座ってスキンシップをとったり、サービスで出してくれたケーキをあーんして後輩に食べさせたりというようなただいちゃついているだけな内容を撮る。


 後輩はこんな映像で大勢の人が見てくれるのかを疑問に思っていたが、俺の予想ではそこそこ伸びる動画になると思っている。


 どんな動画を出すのかはまた編集して後輩に送ることにして、そろそろ約束の4時間になるので、お会計をする。


 どうやら後輩は俺を家に送ってくれると言うので、手を繋いで俺の家まで送ってもらう。


「あれ、そういえば時給500円の件はどうするの?」


「あれは恋人になったのでノーカンです!あれは私の黒歴史なので忘れてください!」


「ええ~、俺あのバカみたいな告白凄い好きだから、思い出として毎回払ってほしいな」


「もう!忘れてくださいよ!」


 後輩はしぶしぶ2000円を払ってくれたが、正直お金としての2000円はいらないので、これから思い出としてデート代貯金をしようと思う。


 きっと将来このお金が貯まった分だけ、愛を育んだ証になってくれるだろう。


 そうやってこの二人は、近い将来日本初のカップル動画投稿者となり、世間をお騒がせすることになる。




 西野鈴音

【この度先輩と正式にお付き合い出来ることになりました!私が所属していた恋人できない同盟から一抜けします。きっとみんな祝福してくれるよね!ありがとう!】

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃおもろいです! 続き楽しみにしてます [一言] 幸せになってくれ!
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