第2話 何故かデートしてくれることになった
--西野鈴音視点--
とにかく男と付き合いたい。男からとにかくモテたい。なにか青春っぽいことがしたい。
私はいつもそんなことばかりを考えている。
でも、積極的なアプローチで男の人と友達になることまでは出来ても、それ以上の関係を求めると、とたんに失敗しまくった。
「異性として見れない」
「お金持ちとしか付き合いたくない」
告白してもそうやってフラれて、なんだかんだと結局一度も恋人ができたことがない。
そんな私だが、性懲りもなくひとつ上の学年に気になっている男の人がいる。
渋谷隼人先輩だ。
先輩は周りの男の人とは違い、大人っぽくて、自分の事をあまりしゃべらないので、ミステリアスな雰囲気がある。
あまり喋ることが上手くない女子が延々と話をしていても、しっかり話を聞いて、いいタイミングで相槌もうってくれるし、お調子者の娘が冗談を言うと、いつも優しく笑っていた。
私は男とおしゃべりするのがとことん楽しいと感じるタイプなので、よくいろいろな男子生徒に絡みに行くが、知らない女が話しかけてきたときの反応なんて、無視されたり、暴言を吐かれたりすることが大半だ。
まあ、仕方がないことだと思いつつも、その実心の中では、ちょっとずつ傷ついていたのだ。
「先輩!お疲れさまです。バイバイって、私に手を振って送ってください!」
その時は、初対面だった先輩が帰宅しようとしているのを見て、いつものように声をかけた。
内心では「どうせまた、いつもみたいにそっけない反応だろう」と思っていた。
でもその時、先輩は優しく、
「またね」
と、苦笑いを浮かべながら手を振ってくれたのだ。
先輩にとっては、何気ない挨拶だったのかもしれない。けれど私にとっては、今まで少しずつ傷ついていた心が、一瞬で癒えていくような出来事だったのだ。
それからというもの、私は先輩一筋になった。
先輩は気づいてないと思いますが、実はいつも、先輩を探して声をかけに行っていたんですよ?
人気があるかっこいい男の人にはたいていファンクラブがあって、会員費を取っていることが多い。だが、先輩は平凡であまり目立たないのでファンクラブがなかった。
だから私はずっと、「先輩って、女子生徒からそんなに人気はないのかな」と思っていた。
(私だけが先輩の魅力を知っているんだ…!)
そう思って、一人密かにニマニマしていた。
でもある日、野球部女子で集まって恋バナしたとき、うっかり先輩の名前を出してしまった。
すると──
「私も先輩好き!」
「私も私も」
「えっ、私もなんだけど…」
と、みんな口をそろえて、先輩のことを「好き」と言い出した。
誰も口に出さなかっただけで、実はみんな、同じように先輩のことを気にしていたらしい。
おそらく、私と同じように、「自分だけが魅力に気づいている」って思って、心のなかでこっそり楽しんでいたのだろう。
きっとそんな人が多いのだろうと思い、先輩の周りの人達の反応などを調べてみた。
その結果、先輩と話す女性は誰だろうとみんな楽しそうで、ひっそり惚れている人は何人もいそうだった。
それから、先輩の恋愛観も気になったので、彼女の有無などの噂をいろいろなところからかき集めて調べてみた。結果、現在彼女はなしで、告白はよくされるがその全てを断っている。どうやら、高校では一切彼女をつくる気がないらしい。
だから、私が告白しても成功するとは思っていなかった。
どうしたら先輩が告白に答えてくれるか、必死に考えに考え抜いた結果、私のポンコツ脳みそは「お金を渡せば付き合ってくれるのでは?」という策くらいしか思いつかなかった。
そう思いついたのはいいが、そもそも私はそんなにお金を持っていない。
うちの家は、母ひとりと4姉妹の一般的な家庭。私は長女だけど、残念ながら特に取り柄もない平凡な子で、私以外の姉妹はみんな優秀。だからなのか、親からの期待もどこか薄く、おこづかいもかなり控えめなのだ。
さらに、私は部活もやっているので、バイトをするにしてもあまり時間はとれない。
それでもなんとか朝の新聞配達のバイトと、土日の夕方に喫茶店でバイトをして、おこづかいでは足りないお金を稼いでいる。
それでもやっぱり、男に渡せるほどのお金がないのだ。
ある女性雑誌に、「男とデートするときは女性側が全部お金を負担しよう!」と書いてあったけど、お金も時間も無い私には無理だ。でも、先輩とはどうしてもデートしてもらいたい。どうすれば良いのだろう?
そうやって考えに考え抜いた結果、苦肉の策として思いついた作戦が時給制だった。
時給500円ならやりくりすればなんとかなるし、ご飯代や交通費なんかを考えなければ普通のデートより安くつき、給料まで与えていると錯覚させられるかもというような、姑息な作戦だ。
まあ先輩には、すぐにご飯代や交通費を払うつもりがないとバレてしまったが。
だけど、それでもいい。結果的に、先輩がデートしてくれることになったんだから。
「何で告白成功したのかはさっぱり分からないけど、デート出来るの嬉しすぎる!」
デートしてくれるってことは、私が好印象だったってことだろう。嬉しいな!
私の容姿を自己分析すると、私より可愛い女性はいっぱいいるけど、それでも上の下くらいのランクの可愛さはあると自分では思っている。
モテるために顔や体のお手入れも時間をかけてしているし、Eカップなのも大きな理由かもしれない。日々頑張ってきて良かった。
「鈴音は性格さえなんとかなればモテそうなのにねぇ…」
そう何回も言われたことがあるし、やっぱり私って可愛いのだ!
とはいえ、先輩は私より可愛い人やお金持ちの人に告白されていても、全て丁寧に断ってた。
そんなすごい人達がダメで、どうして私はオッケーなのか。先輩の思考はよくわからないが、分かっていることは一つ。
世の中、なにが起こるか分からない。
デートをOKされたのが嬉しすぎて、周りに自慢しまくったら、それはもう、めちゃくちゃ妬まれた。
部活の時、ストレッチをするときにペアの子がめちゃくちゃ強く押してくるし、顧問の先生まで私だけに厳しい練習をさせてくるし。
まあ、浮かれている私には、そんなの全く苦にならなかったんだけどね!
なんとかして先輩の連絡先をゲットした私は、「RINE」というメッセージをやり取りするアプリで自己紹介したり、デートプランについてどうするかを話したりと、日々浮かれっぱなしだった。
あまりに表情がだらしないせいで、家族からうす気味悪がられたほどだ。
「デートの場所は全部おまかせで。エスコートされたいな」
RINE上で先輩から、このような連絡が来た。
このメッセージが来てからの私は、それはもう大慌て。
私としては、なんとかこのデートでいいところを見せて、絶対に先輩と付き合いたい。
でも、自分の得意なことなんて、野球が多少うまいことくらいしか思いつかない。
そこで考えたのが、バッティングセンターデート。
そしてそのあとは、私が唯一知っているオシャレな喫茶店(バイト先)でゆっくりできたら楽しそうだし、そんなにお金もかからない。
初めてのデートだからとにかく不安だったけど、このプランを先輩に伝えると、
「楽しそうでいいね!」
とすぐに返信してくれたので少しホッとした。
それからというもの、愛される会話術について調べたり服装について考えたり、念のために口臭を抑えるミントの携帯用清涼食品を買ったりしているうちに、あっという間にデートの前日になった。
寝る前、いつもつぶやいているSNSに「明日のデートがうまくいきますように」と願いを込めてつぶやき、布団の中で人生初のデートへの不安と期待を感じていると、私はいつの間にか眠りについていた。
西野鈴音
【絶対デート成功させるぞ!目標は名前を呼んでもらうこと!先輩をメロメロにしてやるぜ!】