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第28 最終日

 昨日の夜にいつもより早く寝てしまったせいか、今日は朝早くにスッキリと目覚めた。


「先輩!朝食はバイキングですよ!」


「朝からテンションが上がるね」


 今泊まっているホテルは朝食バイキングがあり、そこで朝食を済ましてから今日はお土産屋を回り、昼から動物園のイベントを見に行くという予定でいる。


 俺たちが朝食バイキングの開始時間ぴったりに会場に着くと、すでにある程度の客がバイキングを楽しんでおり、数多くの料理が並んでいた。


 俺はトレイとお皿をとる前にまずは軽くどんな物があるのかを確認する。


 ――なるほど。和洋中のいろんな料理があり、どれも美味しそうだ。


「先輩!いくらのかけ放題がありますよ!」


 本当だ、透明で大きなボウルになみなみといくらが入っている。


 たしかここから海はそう遠くないはずだから、こういう贅沢な事が出来るのかな。


「後輩、ちょっといろいろ乗せすぎじゃない?」


「食べたい食べ物を欲張って取ってたらお皿に乗り切らなくなっちゃいました!」


 俺が軽く周りを見ている間に後輩はお皿いっぱいに料理を取っていた。


 後輩のトレイ全体を見ても、イクラ丼にしているのに納豆を取っていたり、肉料理ばかり取って野菜が少なかったりと全く綺麗ではないのだが、まあバイキングというのはそういうものだろう。見た目より自分の欲で選んでしまう人の方がなんとなく好感が持てる。


 俺はご飯が主食の1周目、パンが主食の2周目、最後にデザートで3周してバイキングを楽しみたいというこだわりがあるので、まずは少なめのご飯とそれに合うようなおかずを取っていく。


「「いただきます」」


「あれ?そんな美味しそうなのが置いてたんですか?見逃してました!」


 後輩が俺のお刺身と生しらすを見て羨ましそうな表情を浮かべる。バイキングでは思わぬところに自分の好きな物があり、それを見逃してしまうというのはよくあることだ。


「そういう事があっても後で追加で取りにいけるのが良いよね」


「そうなんですよ!バイキングを考えた人は天才ですね!」


 俺はあまり量を取っていなかったので、すぐに1周目を食べ終わる。


「じゃあ俺は2周目行ってくるけど飲み物持ってこようか?」


「お願いします!オレンジジュースを頼みます!」


 俺は後輩のオレンジジュースと、パンに合うおかずを取りに行く。


 おっと、オムレツなんてものがあったのか、見逃していたな。これも取っておこう。


「ほい、オレンジジュース」


「ありがとうございます!」


 そうしている間に後輩は2周目を欲の赴くままに料理を取り、俺も3周目を取り終えて食事を終える。


「「ごちそうさまでした」」


「ふぅ…じゃあさっそくお土産屋を買いに回りましょう」


「そうだね。色々買い物をしようか」


 俺たちはホテルをチェックアウトし、10分程歩いたところにあるお土産屋さんに行き、店内を物色する。


「お土産屋に来てこんな事言うのもあれですけど、友達からは食べ物とかじゃなくて先輩の写真とか動画をお土産に欲しいと言われているんですよね…」


「うーん…今回は普通に旅行していただけだからあんまり動画を撮ってないけど、友達から文句言われない?」


「多分文句は言われそうですね…旅行が楽しくてそんなことは忘れちゃってました」


 俺も休暇だと思って過ごしていたから動画をそんなに回していないんだよなあ。今考えればもうちょっと動画を撮ればよかった。


 後輩はお土産選びにここの名物とかではなく、ご当地ポテトチップスを買い物かごに入れている。全く見たことのない味だ。美味しいのだろうか?


 俺も母と祖母と後輩の家族用になにか買おう。


 母と祖母は2人共適当な酒のつまみになりそうなものを買えば問題ない。2人共お酒が大好きだからお土産選びも楽でいいな。


 問題は後輩の家族だな。今回はクイーンも預かってもらっているし少し考えよう。


 お土産はまあとりあえず定番のものを買っておけばハズレは無いと考え、1番人気のクッキーを買う。あともう少しなにか喜ばれるものが欲しいな。


 うむ…じゃあそうだな、ここは海苔が美味しくて有名らしいので、海苔の佃煮と味付け海苔も追加で買おう。後輩の家族には以前俺の卵焼きも喜んでもらっていたし、これを使って俺が後日おにぎりをつくって持っていけばまあ喜ばれるだろう。


 俺が悩んでいる間に後輩は何種類かのレトルトカレーを買い物かごに入れていた。


 ポテトチップスといいカレーといい、おそらく自分が食べたい物でお土産を考えていそうだ。


 とりあえず人に渡す用のお土産は買ったので、自分たちのための思い出になるようなお土産を探す。


「先輩!これ欲しくないですか!」


 後輩は何故かだるまを買おうとする。


 俺が止めると今度は木彫りの熊や、くるみ割り人形など、絶妙にほしくないものばかり欲しがる。


 俺には後輩が持ってくるものに全く価値を感じないのだが、後輩は何かしらの価値を感じたのだろうか。後輩はなにか特殊な感性を持った特別な人間なのか、はたまたセンスがないだけなのか…


 店内を1周しても特にピンとくるようなお土産がなかったので、お会計をしてお土産屋を出て近くのスイーツ店に入っていく。


「先輩!瓶でプリンが売っています!これはお土産じゃなくて私達で食べましょう!」


 “ほろ苦いカラメルの濃厚瓶プリン”1個500円。……確かに美味しそうだ。少し高いのが気後れするが高いだけの美味しさはあるように見える。


 少しの間悩んだ末、これはお土産にはせず、自分たちが食べる用に2個だけ買うことにした。


 スイーツ店を出て、そろそろお腹が空いてきたのでどこかでお昼を食べようと思い立ち、近くの有名な料理店をスマホで調べる。


「先輩!近くに凄く大きいパフェが食べれる所があるので、そこで昼ごはん食べましょう!」


「いいね。大きいパフェなんて食べたこと無いかも」


 後輩が見つけてきたお店はここから歩いて5分くらいの距離にあったので、そこまで歩いて行く。


 お店に着くと、どうやら少し小さめの店のようだが、とても人気店のようで少し列になっている。


 15分程並んだ後に店内に入り、パフェを注文する。俺はチョコレートパフェ、後輩はフルーツパフェを頼む。


「うわあ…思ったよりでかい…」


「これくらい余裕ですよ!」


 机に置くと俺の目線のあたりまで高さがあるパフェを店員さんが持ってきた。想像より大きくて食べきれるか不安になる。


「「いただきます」」


 後輩は幸せそうに食べ進めている。


 俺も負けじとどんどん食べていく。パフェはアイスやチョコチップなどで層が出来ているおかげか意外と飽きずに食べられそうだ。


 ――そう中盤までは思っていた。


「ふぅ…」


 中盤からはクリームの甘さでもう甘いものに満足してしまい、なかなかスプーンが進まない。


「おいしいですね!先輩!」


 後輩はこの程度ではなんの障害にもならないようで、余裕の表情だ。


 出てきたものを残すのは俺の主義に反するので、俺はほぼ気合いだけでパフェを食べ切った。


 頑張って食べたおかげで凄い達成感を感じる。後半は味なんてよくわからなかったな。


「「ごちそうさまでした」」


 うっぷ…甘いものを食べすぎて少し気持ち悪い。


「じゃあ次は最後に動物園に行きますよ!」


 後輩は元気いっぱいだ。あれだけ大きいパフェを食べてケロッとしている後輩が恐ろしい。


 帰り道の道中に動物園があり、そこで今日はイベントを3回開催するらしいので、俺たちは全てのイベントに参加しに行く。


 1時間ほど電車に揺られ、動物園に着く。


 もうすぐ1つ目のイベントが始まってしまう時間なので急いでイベント会場に早歩きで向かう。


 1つ目のイベントはお客さんがゾウにおやつをあげることが出来るというイベントだ。


 ゾウは柵の中から鼻だけ出しておやつをくれとアピールしている。


 後輩はゾウの迫力に少しへっぴり腰だ。確かに目の前でゾウを見るとかなりデカい。


「じゃあおやつをあげてみるか」


「先輩。ちょっと怖くないですか?大丈夫です?」


 俺がゾウのおやつを買い、ゾウにあげてみると器用におやつの果物を鼻でキャッチして口に持っていった。


「先輩!もっと頂戴って言ってますよ!」


 ゾウはまだまだ食べたいようで、長い鼻をおやつの入れてあるかごに突っ込もうとしてくる。


 こんなに大きくても積極的に餌をもらおうとする様子は可愛いものだ。


「先輩!ゾウの耳がパタパタしてますよ!あれは喜んでいるんですかね?」


「えっとね…確かゾウは耳を動かして体温調節していたはずだよ」


「へぇ-そうなんですね。なんだかさっきまで少しだけ怖かったんですが、今は凄く可愛く感じてきました!私もおやつを買ってきます!」


 このゾウは賢くて人に慣れているのでこんなに大きくても可愛いのだろう。


 後輩もゾウにおやつをあげて楽しんでいるようだ。


 ――あっ、別のゾウが後輩のスキを突いて、かごの中のおやつを全て強奪してしまった。いつの間にか餌が無くなった後輩はかなり驚いている。


 やはり大きい動物はいいな。行動の1つ1つを見ているだけで楽しい。


 そろそろ次のイベントが始まるので、名残惜しいが次のイベント会場に向かう。


 次のイベントはうさぎとモルモットのふれあいイベントだ。


「可愛い!」


 柵の中には長い毛をしたグレーのうさぎや真っ白のうさぎなどが数多くのんびりしていた。


 飼育員さんの注意事項を聞いた後、柵の中に入りうさぎと自由に触れ合っていく。


 後輩は地面に丸まっているうさぎをそっと撫でるが、撫でられたうさぎは微動だにしない。


 俺が撫でてみてもおとなしいままだ。ふわふわとした毛並みで撫で心地が良い。


「この子たち、撫でられるプロですね。撫でられ慣れているからか、全く動じないですよ」


 おそらくこういうふれあいイベントでは大人しい子を選んでいるのだろう。


 せっかくだからとうさぎのおやつを買ってみると、うさぎは急にこちらに近寄ってきておねだりしてくる。


「餌があると急に積極的になりますね」


 それでも近寄ってくる姿は可愛いものだ。


 次はモルモットを撫でてみる。飼育員さんがタオルでモルモットを包むようにして俺の膝の上に乗せてくれた。


 細長い形のおやつを与えると、先端からガジガジとかじって食べていく。食べ方が必死で面白い。


 この子も優しく撫でてあげるとふわふわで撫で心地が良い。


 やっぱり小動物は王道で可愛いな。


 満足したので次のイベントへ向かう。次はカバの歯磨きのイベントだ。


 飼育員さんはデッキブラシくらいの大きいブラシを持ってカバの口の中を磨いていく。


「気持ちよさそうですね」


 口を大きく開けて歯を磨いてもらう様子は見ていてとても癒やされる。カバが歯を磨かれているだけなのに凄くほっこりとした気分になれた。


 カバは歯によく野草などが挟まるらしく、それをしっかりとらないと歯周病や虫歯になってしまうことがあるらしい。


 飼育員さんは人間も同じく歯磨きはちゃんとしましょうね、と言ってイベントを締めた。


「――さて、名残惜しいですが帰リますか」


「そうだね」


 俺たちは動物園から出て、電車に乗って家に帰る。


 2人で座りながら2泊3日旅行の思い出を語る。楽しかったからまた2人で旅行に行きたいな。


 家の最寄り駅まで帰ってきて、後輩の実家でクイーンを迎えに行き、お土産を渡してクイーンと後輩と3人で家に帰る。


 クイーンも3日ぶりに俺たちに会えて嬉しいのか元気いっぱいだ。


 家に帰ると、お互いまずはゴロンと寝転んでくつろぎ始めた。


「ふぅ…やっぱり家が1番落ち着きますね」


 そうだな。旅行も良かったが住み慣れた家も良いものだ。


 そんな当たり前のことが再確認出来るのが旅行の良さかも知れないな。


 西野鈴音

【旅行たのしかったなぁ…あーあ、明日から学校かぁ…時間が巻き戻らないかなぁ…】

2022/12/10記載

明日の投稿は無しです。

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