第27話 遊園地
「おはようございます先輩」
「おはよう、朝ごはんの前にもう一回温泉に行かない?」
「行きましょうか」
旅行中なのにいつもの癖で少し早めに目覚めてしまった俺たちは朝食の時間まで温泉に入ることにした。
朝から温泉に入ることが出来るなんて凄く贅沢だ。
「戻りました!朝からスッキリ爽快です!」
「早起きしてよかったね」
俺も寝汗を流し体がスッキリして気分がいい。
「あ、忘れてた!先輩!朝から凄い色気ですよ!ちょっとおさえて下さい!」
「そんな事言われてもなあ」
後輩は俺の髪を入念にタオルで拭いてくれる。どうやら男の濡れた髪はエロいらしい。
「これでちょっとはマシになりましたね。よし!朝食を食べに行きましょう!」
朝食の会場では食事がすでに用意してある。よくあるような普通の和食なのだが、小鉢でおかずを沢山出してくれるのがありがたい。
「「いただきます」」
俺は朝からあまり食べないタイプなのだが、ご飯が美味しいからなのか、旅行で体が疲れているからなのか、何故か旅行中の朝食はいっぱい食べられる。
「ほら!女将さんが先輩のことずっと熱っぽい目で見てますよ!だから言ったじゃないですか」
「まあそんなのはよくあることだからなあ。そういう視線を気にしない事が男の必須スキルみたいなところもあるしね」
まあ男に生まれた以上仕方のないことでもあるし、俺は気にしないことにしている。
「男の人も大変ですね」
「俺は女のほうがよっぽど大変だと思うけどね」
俺は男に生まれて良かったと思っている。多少デメリットがあってもメリットの方が確実に多い。
「先輩は図太いですからね。世の中の男子はもっと生きにくそうですよ」
「俺が変なんじゃなくて世の中の他の男が少し繊細すぎるだけだからね」
そこはしっかり異議を唱える。後輩は何いってんだこいつ? というような目で俺を見てくるが、俺は多少性格の悪い所があるだけの普通の男だ。
「「ごちそうさまでした」」
朝から贅沢な食事だったな。
「じゃあ早速遊園地に行きましょう!」
「ほーい。じゃあチェックアウトしてくるね」
今日の予定はここからバスで1時間程乗って遊園地に行き、夜はホテルに泊まる予定だ。
俺たちはチェックアウトして旅館を立ち去り、遊園地行きのバスに乗り込む。
「遊園地楽しみですね!」
「後輩は絶叫系いけるんだっけ?」
「絶叫マシンは大好きですよ!遊園地には絶叫マシンに乗るために行く所だと思ってます!」
「俺も絶叫系は好きだからいっぱい乗りたいね」
「お!遊園地が見えてきましたよ!観覧車が大きいからすぐに分かりますね」
後輩と話していたらすぐに遊園地についたので、チケットを買って入場する。
「先輩!せっかくならまずグッズ売り場でお揃いの帽子を被って回りませんか?」
「いいね」
まずはグッズ売り場に入り、店内を物色しながらいい帽子を探す。
「おっ、これいいんじゃない?この遊園地のマスコットキャラの帽子。男用と女用で2つあるし」
俺はハリネズミの帽子を後輩に見せる。
「良いですね!たしかこのハリネズミの2匹はカップルらしいですよ!男の子はハリー、女の子はマロンというらしいです」
ほう、そんな設定があるのか。俺たちもカップルだからちょうどいいかな。
俺はハリーの帽子、後輩はマロンの帽子を被って2人で手を繋ぎながら歩く。
この格好で歩いていると周りの女性客からやたらと羨ましがられる。俺も後輩も羨望の眼差しを向けられるのが好きなので、周りに見せつけるように仲良く歩いて行く。
「まずは軽めのコーヒーカップとかメリーゴーランドにでも行く?」
「いや。初っ端から絶叫マシンでぶっ飛ばしましょう!」
確かに元気なうちに絶叫マシンに乗る方がいいか。俺も早く絶叫マシンに乗りたいし。
俺たちはジェットコースターに行くことになったのでチケットを買って列に並ぶ。
「先輩が絶叫系いけるタイプで良かったです!友達とこういうところに行っても1人は苦手な人がいますからね」
「まあ苦手な人も多いから仕方ないよね」
割と早く順番が回ってきたので俺たちはジェットコースターに乗り込む。安全バーの確認が終わると、スタッフさんのレッツゴーという掛け声と同時に動き出した。
まずはレールをゆっくり登っていく。俺はこのどんどん登っていく感じがワクワクして好きだ。
頂上でジェットコースターは1度停止し、それから一気に急降下する。
「きゃー!」
隣の後輩から楽しそうな叫び声が聞こえてくる。
この後も一回転したりくねくねと回ったりしながらもかなりのスピードで走り続け、最後には出口にゆっくりと到着した。
ふう。いまかなりドキドキとしている。乗った後のこの高揚感のお陰でジェットコースターが楽しいと感じるのだろう。
「楽しかったですね!もう1回同じの行きましょう」
「いいね!」
まだまだいろんなアトラクションがあるのだが、思ったより楽しかったのでもう一度乗ることにした。
前回は真ん中あたりに乗ったので今回は後ろの方に乗る。
同じジェットコースターでも乗る場所によって感じ方が違うお陰で2回目でも新鮮で面白い。
「後ろのほうが浮遊感があっていいですね!」
「俺も後ろの席のほうが楽しかったな」
「このジェットコースターは満足したので次はお化け屋敷に行きませんか?」
「いいね!」
ここから歩いてすぐのところにお化け屋敷がある。見たかんじだと待ち時間も少なそうなので、チケットを買ってからすぐに入ることが出来た。
俺たちは暗い道をゆっくりと歩いて行く。通る道の横には日本人形が大量に置いてあり、お化け屋敷内には不気味な音楽がうっすらと流れている。これで恐怖感を煽っているのだろう。
「先輩は怖いの苦手ですか?」
「いや?怖がってる人を見て楽しんでるタイプかな」
「じゃあ私も怖がったほうが良いですか?」
「お化け屋敷ってそういうものだっけ?」
そんな会話をしていると突然横から髪の長い白装束を着た女がデカい効果音とともに飛び出してきた。
「き、きゃーー先輩怖いですう」
「白々しいね」
俺がそう言うと後輩はケロッとした態度を見せる。
「残念ながら私も怖いのに強いタイプなんですよね…そうだ!先輩もわざと怖がってみて下さい!」
「じゃあ次無理やり怖がってみるね」
面白そうだし後輩の言うことに乗ってみることにする。
うーん…こういう時は叫ぶより行動で怖がったほうがそれっぽいかな。
そう考えていると今度は障子から大量の手がいきなり飛び出してきた。
「…っ!」
俺は演技で目をつぶり後輩の手をぎゅっと握ってみた。さて、この演技はどうだろうか。
「せ、先輩!もう一回やって下さい!何とも言えない気持ちよさが駆け巡りました!もう一回だけ!」
「ええー。もう1回するのは気が乗らないなあ」
「良いじゃないですか!もう1回お願いします!」
俺たちが怖がらずにこんな脳天気なやり取りをしていたせいか、お化け役のスタッフに舌打ちされてしまった。どちらも怖がらないタイプでごめんね。
「楽しかったですね!」
「怖がれないけど雰囲気が楽しいよね」
ふと時計を確認するともうお昼になっていた。楽しいと時間が経つのがはやいな。
「昼ごはん食べましょうか」
「そうだね。せっかくだから遊園地内のレストランで食べよう」
俺たちは近くのレストランに入り、それぞれ注文していく。俺はハリープレート、後輩はマロンプレートというのを頼んだ。
「可愛い!可愛くて食べたくないです!」
食事が来るとテンションが上って写真を撮りまくる後輩。
出てきたのはおにぎりと少しの付け合せがついたハンバーグとコーンポタージュなのだが、俺のおにぎりがハリー、後輩のおにぎりがマロンの姿をしていて、お皿にもいたるところにハリーとマロンがプリントされている。
確かに可愛くて食べるのが少しもったいないな。…まあ食べるのだが。
写真を撮り終えた後輩も普通に食べている。
料理が来た時は感動したが、食べていくうちに感動は薄れていったので、ぱぱっと食べて店を出た。
「先輩!次はどこ行きます?」
「ちょっと軽めのアトラクションに行ってからまた違う絶叫系に行きたいな」
「じゃあ次はウォーターライドに行きますか。あれは最後に少し怖いところもありますが、まあ私達なら余裕でしょ」
食後に少しのんびりしつつ、アトラクションも楽しもうと俺たちはウォーターライドに向かい、チケットを買って丸太のような形の乗り物に乗る。
「私はこういう所でしっかり濡れたいタイプなんですよ!でも意外と濡れないんですよね…」
「じゃあ1番前に座ろうか。そこが1番濡れるはずだからね」
隣り合って1番前の席に座ると、ゆっくりと動き出した。
最初はクネクネと水の流れに乗って動く。
ゆっくりなスピードなので後輩とのんびり喋っていたが、しばらくすると乗り物がどんどん坂を登り始め、下り坂を一気に下っていった。
「結構濡れました!気持ちいいですね!」
「最後はけっこうスピード出たね」
「でもまあこんなのは私達にとって序の口ですよ!もっと絶叫マシンを回っていきましょう!」
それからは2人で高所でブランコに乗ってくるくると回転する空中ブランコや、垂直に登って一気に落とされるフリーフォール、海賊船のようなものに乗り空中を左右に振られるバイキングなどの絶叫マシンを制覇していった。
「絶叫マシンは満足しました!もういい時間ですし、最後は観覧車に乗りましょう!」
「いっぱい遊んだ最後に観覧車に乗るってなんかいいね」
少し歩いて観覧車のチケットを買い、列で少し待っているとすぐに順番が来たので2人で向かい合うように乗る。
「先輩!外見て下さい!夕日が綺麗ですね」
「そうだね、良い時間に乗れたね」
窓の外を2人で見ていると後輩が真剣な眼差しで俺にお願いをしてくる。
「先輩!頂上になったら絶対にキスしてください!」
「こういうのって自然としちゃうものなんじゃないの?」
「なんたって女の夢ですからね!意地でもやってもらいます!」
「ふふ、どうしよっかなあ」
「ちょっと!お願いしますよ!」
「じゃあ後輩がいい雰囲気にしてくれたらキスしようかな」
「ほんとですか!任せて下さい」
後輩が向かい合った状態から俺の隣に座る。後輩はどんな風に雰囲気を作るのだろうか。
頂上に近づいてくると、後輩が俺の膝の上に向かい合うようにまたがって、俺と正面から目を合わせてきた。
「ちょっとがっつきすぎじゃない?」
「でもこれだけ近かったらキスしたくなるでしょ!」
確かにこんなに密着して後輩が近くにいるとキスはしたくなるかもしれないが、この状態は雰囲気もへったくれもない。まあ後輩らしくて良いのかもしれないな。
「ふふっ。しょうがないなあ」
俺は頂上になった時に後輩にキスをする。後輩は目標が達成できたようで嬉しそうだ。
それから観覧車が降りるまでの間、ずっと後輩はご機嫌だった。
「名残惜しいですが今日泊まるホテルに帰りましょうか」
バスに乗り今日泊まるホテルに向かい、ホテルでチェックインしたのちにホテル周りで夕食を食べてから部屋でゆっくり過ごす。
今日は1日中楽しく遊び回り体が疲れていたのか、ベッドに入るとすぐに寝てしまった。
西野鈴音
【憧れの観覧車キス!観覧車の頂上でキスしたカップルは一生別れないというのが定番ですよね!】