第25話 姉妹との交流
1時間程で1勝負終えた俺たちはリビングに戻ると、何も言っていないのに全員が揃っており俺が来るのを待ち焦がれていたみたいだ。
どうやらお義母さんは俺になにか見せたいものがあるらしく、テレビ台の下から1つのビデオを出してきた。
「先輩さん。これ見て下さい!長女の小さい頃のビデオです。これが可愛いんですよ」
「ちょっとお母さん!そんなの恥ずかしいから先輩に見せないでよ!」
「でも先輩さんもみたいですよね」
「見たいです!」
後輩が再生させないように妨害するので俺は後輩を捕まえて腕の中で大人しくしてもらう。
「これは幼稚園の時に将来の夢をインタビューした時のビデオなんですよ」
そう言ってお義母さんは再生し始める。
『将来の夢はなんですか?』
『あのねぇ。大きくなったらヒーローになりたい!ヒーローになって皆を暗殺するの!』
『ふふっ。暗殺って何をすることか分かってる?』
『うーん。よくわかんない!でもなんかかっこいいから皆を暗殺?するの!』
数分で終わるちょっとした動画だった。後輩は小さい頃から元気で可愛いな。
「大きくなった今でも皆を暗殺したいの?」
「そんなわけないじゃないですか!怒りますよ!」
「きゃー暗殺される~」
俺たちが人目を憚らず馬鹿みたいなやり取りをしていると何故か皆が俺たちをうらやましがっていた。どうやらイチャイチャしているようにしか見えないらしい。
お義母さんがわざとらしく咳払いをしているので一旦落ち着く。
「まだまだビデオはあるのでどんどん見ていってくださいね」
他の後輩の子供の頃のビデオを見せてもらったり、後輩の昔話を聞いたり、後輩の卒業アルバムをみているうちにいつの間にか時間は過ぎていった。
昔の後輩をたくさん見ていったん人心地がついたところで、お義母さんが少しお願いをしてきた。
「そうだ!せっかくだから次女と積極的にお話してくれませんか?あの子は男性との縁が全く無いのでいい経験になると思います。あとはもっと私とも喋ってくれれば嬉しいんだけど…」
お義母さんは手の指をちょんちょんとしながら尻すぼみに言う。
「今度いっぱい二人きりでお話しましょうね」
お義母さんの手を握りながらそう言うとお義母さんはフリーズしてしまった。お義母さんは見た目や性格が1番後輩と似ている気がするので、どうしても少しからかいたくなってしまう。
「もう先輩!あまりお母さんをからかわないで下さい!お母さん!目を覚まして!」
後輩がお母さんの体を揺する。
「はっ!今先輩さんが私に結婚しようって…」
「言ってないよ!夢から覚めて!」
後輩とお義母さんがそんなやり取りをしている間に俺は次女を探す。
「次女さん?そういうことだからお話しよう。出ておいで」
「わ、私に構わなくても大丈夫です!」
実は今までも次女の声は聞こえていたのでリビングにはいるはずなのだが、一切俺の視界には入らない。それでも次女の視線はずっと感じていたので死角からずっと俺を見ているのだろう。
俺が視界に入れようと体の向きを変えると逃げてしまう。次女は妖精かなにかなのか?
「後輩。捕まえてきて」
「承知!」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!恥ずかしいから」
「大丈夫大丈夫」
「私みたいなオタクが視界に入ったらきっと不快だよ!」
俺はオタクを一種の才能だと思っているので不快感などは全く無いのだが。むしろ誇ってもいいとさえ思っている。
後輩が次女を目の前に連れてきてくれたので傷ついたフリをしてちょっとからかってみた。
「俺と話したくないの?」
「いえ!ホントは話したいです!でも申し訳なくて」
「ほんと?嫌われちゃったのかと思ったよ」
「違います!」
「じゃあなにか俺に話してみて。ちゃんと俺と目は合わせてね」
全く目が合わないのでそう言うと、次女には無茶振りだったようで熟考しだしてしまった。
数分後、ようやく次女は頑張って目を合わせようとしながら話し出す。
「あの、なんでお姉ちゃんと付き合ったんですか?」
「うーん。まあ感覚的なものだからなあ…ビビッときたからかな」
次女は俺の答えに全く納得をしていないようだ。そりゃそうか。理由になっていないもんな。
「でもお姉ちゃんは馬鹿ですよ?例えばお姉ちゃんは小学校の頃気になる男の子の気をひこうとして『私空飛べるから見てて!』なんて言って2階から傘をさしながら飛び降りて足を骨折するような人間なんですよ」
「後輩ってそんな事したの?」
「あの頃は若かったなあ…たしかそのあたりから次女にはナメられだした気がしますね…」
まあ俺は後輩のちょっとおバカな所も気に入っているが、次女からすれば後輩のそういう所は短所にしかならないのだろう。
「私が言いたいのは先輩さんみたいにかっこいい人がこんな馬鹿なお姉ちゃんと付き合ってしまってほんとに良かったのですか、ということなんですよ」
なるほど。次女は俺と後輩が恋人ということに納得がいっていないのだな。
おそらく何を言っても次女は納得しそうにない雰囲気があるので、行動で俺が心底後輩に惚れているということを示そうと次女の目の前で俺は後輩とキスをした。1度キスするだけのつもりだったのだが、後輩がもっとキスしてほしいとねだってくるのでもう1度だけキスをする。
「これで納得でき…あらら」
次女もフリーズしたようだ。
その後次女はどうやら寝取り寝取られものにハマってしまったらしい。もし俺のせいで性癖を歪ませてしまったのならごめんね。反省はしていないけど。
「私ともお話して下さい」
ぬるりと上目遣いで俺の近くにやってきた三女。コミュニケーション能力が高いのか懐に入るのがやたらと上手い。
そう言われたので俺は三女について気になっていたことを聞いてみた。
「三女さんは絶対彼氏がいるでしょ?」
「ええ!いないですよ!私の大好きなクマみたいに大きな男性がいないですから!」
三女からは行動に余裕が感じられるので絶対に恋人がいると思うんだけどなあ。
俺がそう思っていると四女からタレコミがあった。
「彼氏はいないけどお姉ちゃんは今男の子から猛アタックされている。お姉ちゃんの男の趣味が悪いから断っているけど」
「あの子はまだまだ筋肉の足りないひよっこなんですよ。もっと体が大きくなってから出直してきて欲しいですね!」
そう言いつつ三女は満更でもない様子だ。これはそろそろ落とされそうだな。
そうやって楽しく喋っていると日も暮れてきて少しお腹が空いてきた。
「お義母さんそろそろ料理を一緒に作りませんか?」
「う、うん。そうね」
お義母さんは俺が少しからかいすぎたせいか初対面の時より女の顔をしていた。
「先輩さんはどんな料理が食べたい?」
「いつも食べている様な家庭料理がいいです!」
人の家の普段の料理がどんなものか妙に気になってしまうのは俺だけなのだろうか。
お義母さんは煮物と味噌汁を作るようなので、俺は下処理を手伝う。どうやらこの家では味噌汁に大量の具材を入れるようだ。
「ちょっとお母さん!自然なふりして先輩にくっつかないで!」
「キッチンが狭くて仕方ないのよ」
「そこまで狭くないでしょ!」
たしかにお義母さんとの距離がやたら近い。それにチラチラとこちらを気にしながら料理している。
そんな様子を見て後輩が俺たちの間に入ってきた。お義母さんは残念そうだ。
「先輩さん。先輩さんもなにか1品作ってくれませんか?」
三女がリビングからそう言ってきたので了承すると、皆男が作る料理を食べてみたかったようで目を輝かせている。
うーむ。何を作ろうか…よし!簡単に出来る卵焼きにしよう。
俺はなれた手付きで卵を巻いていく。甘い卵焼きよりしょっぱい卵焼きが好きなので、今回も卵焼きには砂糖を入れない。
料理ができ上がり、机に並べていく。
「「「いただきます」」」
女性陣は俺の料理が気になっていたのか真っ先に卵焼きから食べだした。皆の食べた時の反応がそれぞれ違って面白い。
次女は涙しながら食べる。
お義母さんは味わいながらちびちびと食べる。
三女は食べてからなるほどとなにかに納得している。
四女は俺にやるじゃんと感想を言ってくる。
後輩は皆の反応を見てしたり顔をしている。
俺もお義母さんが作った料理を味わう。うん、おいしいな、とっても優しい味がする。後輩の実家の味を食べてみてこの味を後輩に食べさしてあげたくなったので、今度家でも具沢山の味噌汁をつくってみよう。
「「「ごちそうさまでした」」」
食べ終わった後はクイーンの散歩に皆で行ったり、お風呂に順番に入ったりしていると夜も遅くなってきた。
今日を振り返ってみると、クイーンはずっと楽しそうだった。人が楽しく賑やかにしている場所が好きなクイーンにはこの家は過ごしやすいのだろう。クイーンを預けるのになんの心配も無さそうだ。
眠くなってきたので後輩の部屋に布団をひき、寝る準備をする。寝る前に後輩と明日朝ごはんを食べてから家に帰ろうと話し、後輩を真ん中にして四女と3人で就寝した。
次の日の朝、クイーンの散歩があるので俺と後輩は朝早くに目覚めると、お義母さんと四女がすでに起きていたので4人で散歩に行く。
1時間ほどの散歩から帰ると皆起きていたので、軽く朝ごはんを食べたところで俺たちは帰ることにした。
帰る前に玄関前で皆に軽く挨拶し、後輩の実家を後にする。
「ちょっと先輩!皆と仲良くなりすぎじゃないですか?私以外と付き合う気ですか!」
「いや?後輩しか付き合う気はないよ」
「えへへ、そうですよね。先輩は私にべた惚れですね!」
「でも暗殺されるのかもしれないからなぁ」
「もう!いじらないで下さいよ!」
帰りながら後輩と楽しく喋る。昔の後輩をいっぱい知ることが出来てよりいっそう距離が縮まったような気がする。
それにしても後輩の家族は楽しい人達だったな。また来よう。
西野鈴音
【私の黒歴史が先輩に見られてしまった!というかなんで皆昔の私を見て変わってないなって言うんですか!私が成長していないみたいじゃないですか!】